| スポーツカーメーカーがSUVを開発することは、これまでの例から見ても容易ではない |
マクラーレンにはそのための時間や経験が乏しく、やはりここは「提携」しかないだろう
さて、先般よりSUV投入のウワサが出ているマクラーレン。
これはマクラーレンの新CEO、マイケル・ライターズ氏がSUVに対して肯定的な発言を行っていたからですが、今回はマクラーレンの製品戦略ディレクターであるジェイミー・コルストルフィン氏がSUVの可能性についてコメントし、どうやらマクラーレン内部では実際に高いレベルでの(SUV投入に関する)議論がなされているのかもしれません。
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マクラーレンは「より多くの乗車定員」を重視
そこで今回ジェイミー・コルストルフィン氏が語った内容だと「最も重要なことは、マクラーレンの顧客がより多くの人と体験を共有できるようなスペースや能力を持つ車両を提供することです。どの程度のハイライドなのか、クロスオーバーなのか。それはこれから決めることで、実際、現時点では何も決まっていないのです。もし何かをするのであれば、このタイプの製品であれ、他のタイプの製品であれ、我々にとっての試練は、マクラーレンのDNAを正確に反映できるかどうかということです」。
現時点だと、マクラーレンの持つクルマの乗車定員はいずれも2名に限定されており(スピードテールでは3名となっているが)、「家族で」マクラーレンを楽しむことができない状態です。
「家族でスーパーカー」というのはちょっと矛盾した内容のようにも思えますが、やはり自分の好きなクルマを家族とともに乗りたいという要望を持つスーパーカーオーナーは多く、ケーニグセグ・ジェメラはそういった要望を満たす数少ないハイパーカーとなっていますね。
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なお、ポルシェはかなり早い段階からSUVを投入してきたスポーツカーメーカーではあるものの、それでもマカンやカイエンの乗車定員数では「不足」があると認識しており、子供の数によっては「その家庭の全員を乗せることができない」という理由にて7人もしくは8人乗りのミニバンを開発していると言われます。
ちなみにポルシェは「将来的に、クルマの所有が制限され、一家に1台しかクルマの保有が許されない時代がクルマもしれない」という懸念を抱いていて、そういった時代に備えて「最大限の要望を叶えることができる」クルマを必要としているかもしれません。
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マクラーレンは「SUVだけはない」とコメントしていたが
なお、マクラーレンはこれまで「SUVの発売はない」と語り、さらには「我々は、金儲けのためにSUVを作る他社とは違う」と暗にライバルを揶揄したことも。
ただしポルシェはカイエンそしてマカンの販売によって得た資金にて「より魅力的な」911や、次世代718ボクスター/ケイマンの開発を行うことができており、ランボルギーニはウルスによって新しい顧客を獲得し、アストンマーティンはDBXの投入によって息を吹き返そうとしている状態です。
そしてこのセグメントに参入したもっとも新しいスポーツカーメーカーはフェラーリですが、やはりプロサングエはフェラーリにとって様々なことを可能にしてくれるひとつの「キー」だとも考えられます。※ロータスにとってのエレトレも同じだと思う
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そして「SUVの投入を行わなかった」マクラーレンは現在非常に苦しい状況に見舞われており、本社や関連会社、そしてヘリテージコレクションを売却せざるを得ないという苦境に立たされていますが、昨年末にマイク・フルーイットCEOが電撃辞任したことから自体が急変することに。
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まずはマクラーレン初のオフローダー「オデッセイ21」を発表していますが、これはエレクトリックオフローダーを用いたレース「エクストリームE」に参戦するためのレーシングカー。
発表時期からしてCEO辞任前から計画されていたということになりますが、なんとかマクラーレンのバックボーンである「モータースポーツ」とオフローダーとを関連付けようとした苦肉の策なのかもしれません。
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そしてその後マクラーレンCEOに就いたのがマイケル・ライターズ氏で、同氏はポルシェでカイエンを、フェラーリではプロサングエを開発してきた「SUVのプロフェッショナル」。
これはもちろん「マクラーレンがSUVを開発するため」に引っ張ってきた人材だと考えてよく、前CEOはSUVを強く否定していたため、そしてそれを撤回させることも世間体として難しかったために辞任に追い込まれたのかもしれません。
実際のところ、マイケル・ライタース氏はマクラーレンCEOに就任した後からSUVに対して積極的な姿勢を示しており、その他の発言も含め、「代わりつつあるマクラーレン」をアピール中。
ただ、ポルシェがカイエンを、そしてフェラーリがプロサングエを開発する際に相当な年月を要したのと同様、仮にマクラーレンがSUVを開発するという決断を下したとしても「市販までにはかなり時間がかかる」ことは間違いなく、市販までマクラーレンが「耐えることができるかどうか」についても懸念が残ります。
おそらくマクラーレンには、「数年」かかる新規SUVの開発に耐えられるだけの財力はなく、よってもっとも有効な解決方法は「他社との協業」なのかもしれません。※SUVは重心や重量的に乗用車やスポーツカーとは全く異なるクルマであり、スポーツカーメーカーの名を冠するにふさわしいSUVを開発するのは容易ではなく、フェラーリも相当な苦労を強いられたと言われている
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そしてぼくが思うのは、SUVであっても「スポーツカーメーカらしい」クルマを作ることは(現代の技術をもってすれば)不可能ではなく、しかしそれに挑戦しなかったのは、「SUVはスポーツカーらしくない」という既成概念を盾にした”逃げ”なんじゃないかということ。
そう考えると、ポルシェやランボルギーニ、ロータス、フェラーリそしてアストンマーティンは「いかにスポーツカーらしく、そして自社のDNAを色濃く反映したSUVを」作れるかというチャレンジを果敢に行ったメーカーであって称賛されるべきであり(既成概念を覆し、かつては不可能とされたことを可能にしようと努力した)、逆にマクラーレンはそこから目を背け、逃げ続けてきたのではないかとも捉えることができます。
そして、チャレンジした者と、チャレンジしなかった者との差異がいま現れているのだとも考えられますが、マクラーレンは「もう逃げない」と腹をくくったようにも見られるので、今後の変革にはおおいに期待が持てるとも考えているわけですね。
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参照:Automotive News