| ポルシェが売出し価格を上限に設定したこと、そしてそれを維持したことは多くの投資家にとって驚きだったに違いない |
正直、ボクもここから株価が一時的に上がったことには驚いた
さて、ポルシェが2022年9月29日にフランクフルトにてIPO(新規株式公開)を行い、表示レンジの上限である82.50ユーロにて売出しを行うことに(評価額は750億ユーロ)。
そして公開後には86.54ユーロまで上昇し、その後に横ばいとなっていますが、これはドイツでは1996年のドイツテレコム以来の大型上場となり、ポルシェはこの上場を通じて195億ユーロを調達することに成功しています。※最終的には82.50ユーロ、つまり発行価格と同じ額で取引を終了している
なお、新規発行株式のうち40%は「カタール投資庁、T.ロウ・プライス、ノルウェーの政府系ファンド、アブダビを含む基軸投資家」の4つで占められ、25%はフォルクスワーゲンの筆頭株主であるポルシェ創業者一族、ポルシェ家とピエヒ家が取得している、と報じられています(取得価額は不明だが、今回の上場で相当な利益、含み益を獲得したということになる)。
ポルシェSE、フォルクスワーゲンの株価は下落
参考までに、今回のポルシェとは別に、フランクフルトには以前から「ポルシェSE」が上場しており、こちらの株価は(今回上場したポルシェへの)乗り換えによって10.9%下落していて、フォルクスワーゲンの株価も(やはり乗り換えで)6.9%下落しています。
よって、フォルクスワーゲングループ、そしてポルシェ家とピエヒ家にとっては利益と同時に損失も生じたということになり、おそらくは今後この傾向は継続される可能性が高く、今回の上場はある意味で「(フォルクスワーゲングループ全体として、電動化推進のための資金を獲得するという)本来の目的を損なう可能性もある」という指摘もなされているようですね。
ポルシェは「フォルクスワーゲンにとっての真珠」である
今回の上場に際し、キャピテル(投資ファンド)は「ポルシェはフォルクスワーゲングループにおける真珠であり、今もそうだ。このIPOによって、市場がポルシェにどのような価値をもたらしているのかが、非常によくわかる結果になった」とコメントしていて、ある意味では、上場前に「フォルクスワーゲン=ポルシェ」と見られていた観測が裏付けられたと言えるかもしれません。
フォルクスワーゲンのアルノ・アントリッツCEOは「今回の上場は、フォルクスワーゲングループの電動化推進に向けた資金調達の一助となる役割を果たした」と語っており、IPOによって調達した195億ユーロのうち、約96億ユーロがフォルクスワーゲンに回され、これは電動化計画に必要な520億ユーロの予算の5分の1に相当する、とのこと(残りの金額つまり99億ユーロは特別配当として株主に分配される)。
なお、今回の上場の前には否定的な意見も多く、その一つが「現在の不透明な世界情勢の中で上場するのはリスクを伴う」ということ。
とくに欧州ではロシアのウクライナ侵攻にともなうインフラの問題、米国ではインフレの懸念や利上げといった(株式市場に対する)マイナス要因が多く見られ、投資マインドが冷え切っている今ではなく、上場の時期を見合わせたほうが良い、とも言われていたわけですね。
ただ、そういった状況にもかかわらず、フォルクスワーゲンは「最高額で」ポルシェを強気に売出し、その価格で取引を終えたということは(VW、ポルシェSEの株価が下がったとしても)大きな成功だと言えそうです。
参考までに、今回の上場によってポルシェの時価総額はフォルクスワーゲンとほぼ肩を並べるまでに大きくなり、上述のような「乗り換え」を考慮すると、すぐにフォルクスワーゲンを逆転してしまうのかもしれません。
ポルシェはフェラーリに対しても優位性を見せる
なお、ポルシェのIPO前にもうひとつ懸念として示されていたのが「ポルシェは超エクスクルーシブなブランドではなく、景気に販売動向が左右されやすい」ということ。
ここで引き合いに出されたのはフェラーリで、フェラーリを購入する富裕層は「景気の影響を受けない人々」であるとされ、コロナ禍においても一切のキャンセルがなかったと言われます。
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それに対し、ポルシェの顧客は景気後退局面においてダメージを受ける可能性が高い人々だと指摘されており(客観的データは見たことはないが)、よってブランドの強さではポルシェはフェラーリとは比較できないだろう、とされていたわけですね。
ただ、実際に上場してみると、その時価総額は約10兆円となり、フェラーリの時価総額である5兆2300億円の倍ほどで上場しており、これは多くの投資家を驚かせることになったのかもしれません。
売り出した株式で自由に取引できたのは実際のところ(新規発行済株式のうち)35%にとどまるということになりますが(4大株主とポルシェ/ピエヒ家が株式を売りに出していなければ)、それでもこの価格をつけたというのは驚くべき部分であり、逆に多くの株式が「固定」されているとなると今後株価が大きく下がる可能性は高くはなく、収益に対する株価についても(ポルシェは)フェラーリの1/5以下なので、今のところポルシェについては好感できる材料が多い、とする向きが多いもよう。
一方、1台あたりの利益では大きくフェラーリに水を開けられており、この観点からは「ポルシェの評価は高すぎる」という声も依然として強く、今後の成り行きを見守りたいところです。
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参照:Reuters