| 年々こういった「活動家の抗議」は過激になってきている |
フォルクスワーゲンは6月にも投資家向けの説明会を開催予定、そこでも一波乱ありそうだ
さて、過日はトヨタが決算説明会を行い、中継を見る限りでは無事に終了していますが、ドイツにてフォルクスワーゲングループが開催した年次総会は「大荒れ」だったようで、様々な抗議が行われたうえ、ケーキをポルシェSEのヴォルフガング・ポルシェ会長に投げつける活動かも登場し、セキュリティに強制退場させられるなど”大荒れ”だったもよう。
ちなみにこの「ケーキを投げる」という行為は失敗に終わり、幸いなことにヴォルフガング・ポルシェ会長に当たることはなく、しかしVWグループのハンス・ディーター・ポエッチ会長の方に飛沫が飛ぶなど、”とばっちり”が生じたとも報じられています。
さらには会場の外でも気候変動に対する責任を問う活動形で溢れたといい、会場の内外とも終始波乱に満ちた総会でもあったようですね。
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なぜポルシェやフォルクスワーゲンがここまで批判されるのか?
そこでなぜ「ポルシェやフォルクスワーゲンが批判の対象になったのか」について触れてみたいと思いますが、まずは「フォルクスワーゲンが、中国の新疆ウイグル自治区にある(SAICとの合弁による)自社工場にて強制労働を行っている」とされること。
これは世界ウイグル会議のヘイユール・クエルバン氏をはじめとする活動家たちが主張しているもので、集団収容所の状況や、VWのサプライヤーと現地に進出している企業とのつながりなどの不透明な状況、さらには中国が言論の自由を制限しているために現地の人々がオープンに話すことが困難であり事実が明かされていない(隠されている)と述べています。
これについて、VWグループ・チャイナのチーフ、ラルフ・ブランドシュテッター氏は(年次総会に先駆け)今年初めに新疆工場を訪れ、調査した結果として「工場で人権侵害が行われている証拠は見当たらない。私の印象や入手した情報を疑う理由はない」とコメントしているものの、活動家たちはこれに納得できないとして抗議を行ったわけですね。
なお、会場では「ケーキ投げつけ」のほか、背中に「Dirty Money」と描かれた上半身裸の女性(こうすることで多くの人の注目をあつめるので。ただし前に文字を描くと逆に規制に引っかかってしまって報道できない)を含む約10人の活動家が、「ウイグルの強制労働を終わらせよう」と書かれた横断幕を掲げ、VWグループCEO兼ポルシェCEOであるオリバー・ブルーメ氏のスピーチを妨害するといった場面も。
こういった過激な活動家はいずれも警備員によって即座に連れ出されたそうですが、フォルクスワーゲンの広報担当社からは「建設的な対話は重要です。そして、総会はそのための機会なのです。一部の人を除き、全員が指定されたガイドラインに従っています」といった”冷静を保つための”アナウンスもなされたもよう。
フォルクスワーゲンは「不透明さ」を拭い去ることができていない
なお、オリバー・ブルーメCEOは今回のスピーチでは(問題とされる、中国SAICとの合弁による)新疆工場について言及しておらず、これが過激な活動家はもちろん、TOP20に入る投資家グループであるデカ・インベストメント、ユニオン・インベストメントらの不信感を買ってしまい、これら投資家グループが客観的な事実を明らかにすべく、同工場の外部独立監査の実施を要求する場面もあったようですね。
デカ・インベストメントにて持続可能性とコーポレートガバナンスの責任者を努めるインゴ・シュパイヒ氏は「フォルクスワーゲンは、そのサプライチェーン含め、完全にクリーンであることを証明せねばならない」と発言していますが、同社含む投資家は”過去二年間、下がり続けている株価への批判”を繰り返し行ったとされ、もし外部監査にて強制労働が明らかになれば、フォルクスワーゲンは株価低迷の原因を作ったとして、この責任を追求されることになるのかもしれません。
参考までに、フォルクスワーゲンは過去にも「奴隷的行為」が問題となったこともあり、さらにはディーゼル不正事件の影響もあって、(日本にいると想像できないが)多くの人が同社に対して不信感を持っている可能性もありそうです。
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批判の対象はポルシェCEOにも及ぶ
そしてポルシェCEO、オリバー・ブルーメCEOが批判されている理由としては、上述の「フォルクスワーゲンが行っている強制労働」に対する説明責任を十分に果たしていないことに加え、業務過多によって任務を遂行することができないのでは、と見られているため。
なお、以前にはイーロン・マスクCEOが「ツイッターとテスラ、スペースXなどのCEOを兼任すると、それぞれの経営が疎かになる」ため、いずれかのCEOを辞任すべきだという進言が有力投資家からありましたが、こういった意見が出るのは「根性論」が支配する日本とは異なり、興味深いところでもあります。
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話をオリバー・ブルーメCEOに戻すと、前出のインゴ・シュパイヒ氏は、「中国、ソフトウェア部門のカリアッド、労働文化の改善」というフォルクスワーゲンの3大急務とされる問題に取り組んだことについては称賛する一方、「まだ混乱を片付けている最中」であり、「結果を出している状況でもないため、最終評価を下すには早すぎる」とコメント。
加えて「あなたにとっても、1日は24時間しかないのです。あなたの前任者は、すでに1つのグループで巨大な課題をクリアすることができなかったことを思い出してください」と述べており、暗にオリバー・ブルーメCEOのキャパオーバーを指摘しているようですね。
加えて、「ポルシェとフォルクスワーゲン」とはそれぞれ方向性が異なるため、利益相反があるとする声もいまだ根強く、こういった声に対応するため、フォルクスワーゲングループとしてはオリバー・ブルーメCEOのポジションをどこかで調整することになるかもしれません。※ただし、同グループは、この二足のわらじについては「うまく機能しており、成果を上げている」と返している
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このほか、投資家は中国市場の競争激化についても懸念しており、今年初めにBYDがフォルクスワーゲンを抜き、乗用車のトップブランドとなったことで中国における電気自動車の競争激化について触れ、中国市場だけでなくヨーロッパ市場でも(中国車が進出することで)フォルクスワーゲンの市場シェアを脅かす可能性があることについても言及したそうですが、これについてオリバー・ブルーメCEOは、中国の電動化のスピードが速いことを認めた上で、(フォルクスワーゲンは)中国の嗜好に合わせた製品を作り、現地でのパートナーシップ関係を構築することによって市場リーダーの地位を維持する、というフォルクスワーゲンの戦略について説明することに。
さらにオリバー・ブルーメ氏は「フォルクスワーゲンが、市場での評価を高めるための明確な計画を持っている」と述べ、6月に開催される資本市場説明会で詳細を発表する予定だと述べており、こちらの計画発表を楽しみに待ちたいと思います。
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参照:Automotive News Europe