
| VWグループデザイン統括が問いかける「なぜどのクルマも威圧的なのか」 |
まだ「新しい顔」を持つクルマが実際に出てくるのは少し先のことになりそうだ
「なぜ今日の多くの自動車メーカーは、怒ったような攻撃的な顔つきのクルマを作るのでしょうか? まったくナンセンスです」
そう持論を展開するのは、フォルクスワーゲン(VW)グループ全体のデザインを統括する最高責任者、アンドレアス・ミント(Andreas Mindt)氏。※2026年3月1日付けで同グループのデザイン責任者に就任
近年、バックミラーに映ると圧迫感を与えるような巨大なグリルや威圧的なヘッドライトを備えたクルマが溢れかえっており、しかし、VWが提示する次世代EVの答えは、それらとは一線を画す「親しみやすさ(Sympathiek)」と「伝統への原点回帰」。
なぜVWは他社と異なるアプローチをとるのか、その深いデザイン哲学と背景に迫ってみましょう。
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この記事の要約
- 「威圧的なデザイン」への疑問:高速道路で道を譲らせるためだけに作られたような、攻撃的で怒ったようなクルマの顔つきトレンドを完全否定。
- 初期EVの反省と物理ボタンの復活:画面操作に依存しすぎたデジタル化の反省から、新型ID. Poloなどではユーザー待望の「物理スイッチ」を再導入。
- 「親しみやすさ」と「遊び心」への原点回帰:分断を生む未来志向ではなく、誰もが安心できるデザインに、80年代Golf GTI風メーターといった「秘密のスパイス」を融合。

「脱・攻撃的デザイン」と物理ボタン復活の舞台裏
近年、世界中の自動車デザインにおいて「いかにクールで力強く見せるか」が競われてきたかのように思われ、高速道路の追い越し車線で前走車を退かせるためだけの巨大なエアインテーク(ときにはダミー)や”吊り目”のライトデザインについて、ミント氏は独自の視点を明かしています。
1. なぜ「威圧的な顔つき」の車が増えたのか?
「人々は高速道路で速く見せたいから威圧的な顔を好みます。バックミラーに映った攻撃的な顔を見て車線を譲ったら、実はただのコンパクトカーだった、という経験はありませんか? 多くのブランドは『クール』でありたいがためにそうしますが、VWはそれを望みません。ゾンビを倒すためにデザインされたような世界で暮らしたいとは思いません。私はもっと友好的な世界で生きたいのです」
もちろん、グループ内の他ブランド(ランボルギーニやCupraなど)ではスポーティで刺激的なデザインを許容・共存させつつも、VWブランドの本質は「誰もが親しみを持てる存在」であるべきだと主張します。

2. 急激な電動化シフトによる「行き過ぎた未来志向」の反省
2015年の排ガス不正問題を契機に、VWはEV(電気自動車)シフトを大幅に加速させることとなっていますが、その中で生まれた初期の「ID.3」などは従来のクルマとかけ離れた極めて未来志向なスタイル、そしてタッチパネルに集約された先進的なインテリアを採用しています。
これは「いままでのフォルクスワーゲンとは異なる」ことをアピールすることでディーゼルゲートによるダーティーなイメージを払拭しようという試みではあったのですが、しかし、この急速な変化は一部のユーザーを置き去りにしてしまったとミント氏は分析していて・・・。
- 先進的すぎる外観:従来のVWらしさ(DNA)が失われ、親しみやすさが薄れた
- スライド式タッチ操作の不評:直感的に操作できない電子スライダー等はユーザーからの批判が集中
この反省を活かして新型「ID.3 Neo」や今後登場する「ID. Polo」ではユーザーが直感的に操作できる「物理ボタン」が大々的に復活しており、そしてこの方向は今後も継続することになるものと見られます。

新型ID. Poloの概要と「伝統と遊び心」のスペック
新型「ID. Polo」は、誰もが手の届くEVを目指して開発されたコンパクトモデルであり、外観はどこか親しみやすくクラシカルな雰囲気を残しつつ、中身は最新の電動プラットフォームを採用していて・・・。
新型「ID. Polo」主なコンセプトと特徴
- フレンドリーな外観:相手を威嚇しない、VWらしいシンプルで伸びやかなシルエット。
- 物理スイッチの再採用:エアコンやステアリング周りなど、運転中に手元を見ずに操作できる快適性を重視。
- デジタル・レトロスキン(秘密のスパイス):1980年代の「Golf GTI」を思わせるアナログ風デジタルメーターや、カセットテープ風のインフォテインメント画面にワンタッチで切り替え可能。
- 隠されたイースターエッグ:ダッシュボード側面のイラストなど、乗り込むのが楽しくなる仕掛けを随所に配置。

パワートレイン・車両スペック(予想・コンセプト値)
| 項目 | 詳細・スペック |
| 車両タイプ | 全電気自動車(BEV) Bセグメント・コンパクト |
| 駆動方式 | FWD(前輪駆動) |
| 航続距離(WLTP) | 最大 約450 km |
| 急速充電(DC) | 10% - 80% 充電 約20分 |
| インテリア | 物理ボタン併用ステアリング、レトロ切り替え機能付き大型ディスプレイ |
| デザインテーマ | 「純粋なポジティブさ(Pure Positivity)」・安定・親しみやすさ |

アンドレアス・ミント(Andreas Mindt)略歴
同士は父親もVWのカーデザイナーだったというサラブレッド。
アウディで「Q8」やブランド初の市販EV「e-tron」の外装デザインを手がけた後、ベントレーのデザインディレクターを経て、VWグループ全体のデザイン統括に就任し、「安定・親しみやすさ・秘密のスパイス」を掲げ、ブランドの再定義を行っています。
- ~2020年2月:アウディでエクステリアデザイン責任者
- 2020年3月~2023年1月:ベントレー・デザインディレクター
- 2023年2月1日~:VWブランドのデザイン責任者※ヨゼフ・カバン(Jozef Kabaň)氏の後任
- 2026年3月1日~:VWブランドに加えて、フォルクスワーゲン・グループ全体のデザイン責任者(Head of Group Design)も兼任
特に面白いのは、ミントがアウディ時代にQ8や初代e-tronのデザインに関わっていたことです。その後ベントレーでBaturなどの新しいデザイン言語を構築し、VWへ移っています。
そして2026年3月からは、ポルシェ出身のマイケル・マウアーの後を継いでVWグループ全体のデザインまで統括する立場となっているわけですね。

結論:自動車の民主化が生む「ポジティブな未来」へ
アンドレアス・ミント氏が目指すのは、社会を断絶させたり周囲を威嚇したりするクルマではなく、乗る人にも見る人にも笑顔をもたらす「誰もが愛せる自動車」です。
EV時代の到来により、過度に未来感をアピールしたり攻撃的なデザインに走ったりした時期を経て、VWは今、本来の強みである「人々に寄り添うデザイン」へと舵を切ったというのが現在地。
80年代のレトロなメーター画面を表示できる遊び心(秘密のスパイス)や直感的な物理ボタンの復活は、単なる懐古主義ではなく「テクノロジーをいかに人間らしく心地よいものにするか」というVWからのポジティブな提案とも言えるもので、威圧感ではなく親しみやすさを選ぶ姿勢こそが、これからの自動車社会を明るく照らす鍵となるのかもしれません。

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参照:Autoweek











