| フェラーリの限定モデル「ICONA」シリーズには、ブランディング、売上、利益において大きな意味がある |
そしてこの戦略はフェラーリにしかできない
さて、つい先日デイトナSP3を発表したばかりのフェラーリですが、こちらはVIP向けの限定シリーズ、ICONAより発売されたもの。
このICONA(イコーナ=アイコンの意味)はフェラーリの過去のロードカーそしてレーシングカーの要素を取り込み、それを現代の最新技術にて再現することをひとつのコンセプトとしています。
その第一弾となる「モンツァSP1/SP2」は750モンツァ(MONZA/1954年)、860モンツァ(1956年)のネーミング、フェラーリのバルケッタ(オープンモデル)の元祖でもある166MM(1948年)の要素を取り入れたといい、それに次ぐデイトナSP3は1970年の512S、そしてフェンダーミラーについては1960年代のレーシングプロトタイプ、そのほか412 P、330 P4、330 P3、350 Can-Am等からも影響を受けたと紹介されており、いずれのICONAシリーズも「フェラーリの特定モデルのリバイバル」ではなく、幅広く”フェラーリのアイコン”からインスパイアされたデザインを持つということになりそうです。
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フェラーリはまだ4つ、もしくは5つのICONAシリーズを計画中
そして今回、フェラーリのチーフ・コミュニケーション&マーケティング・オフィサーであるエンリコ・ガリエッラ氏が英国Autocarに語ったところによれば、まだ"4つか5つのコンセプトの可能性がある "とのこと。
さらにフェラーリのデザイン部門を管理するフラビオ・マンゾーニ氏によると、デイトナSP3について「このモデルには特別な思い入れがある」と語りつつ、さらに「他にも魅力的なコンセプトがたくさんあります。フェラーリの豊かさは非常に高く、限界はありません」とも。
たしかにフェラーリのリッチな歴史はほかメーカーの比ではなく(フェラーリよりも歴史が長い自動車メーカーはたくさんあるが、フェラーリほど象徴的なクルマを多数持つ自動車メーカーは多くない)、今後ICONAを展開するに際してもネタに困ることは全くなさそうです。
ICONAシリーズは「スーパーカーではない」
なお、興味深いのは、フェラーリのチーフテクニカルオフィサーであるマイケル・ライターズ氏が「デイトナSP3は、ラフェラーリ・アペルタを進化させたものではあるが、究極のパフォーマンスよりもデザインに重点を置いたクルマであり、その意味ではスーパーカーではない」、とコメントしていること。
イコーナシリーズについては「過去の象徴的なクルマ、とくにプロトタイプレーシングカーからインスピレーションを得る」ことのほか、電動化が要求される現代において「V12エンジンを存続させる」こともひとつの目的だといい、同氏は「技術的な観点から見ると、このエンジンは”最も効率的なもの”ではない」とも認めています。
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どういうことかというと、「V12自然吸気エンジンよりも、V8ツインターボエンジンを搭載したほうがパフォーマンス的には優れたクルマが出来上がる」と理解しつつも、「エモーショナルな観点から見ると、(そしておそらくはフェラーリの歴史的な観点から見ても)V12エンジン以外の選択肢は考えられず、それが顧客の求める要望とマッチしている」というわけですね。
実際のところ、「840馬力であっても、ピニンファリーナ・バッティスタの1900馬力であっても、顧客は誰も気にしないでしょう」とも語っていて、そもそも800馬力以上出ていれば、まず(サーキット含め)どこでどう運転しようとも変わりはなく、しかしそのドラマティックな(エンジン回転数の上昇とともに)盛り上がりを見せるパワー、そしてV12エンジンの奏でるシンフォニーのほうが重要だということになりそうです。
たしかにこれはフェラーリの多くの顧客が求めていることであり、そうなるとこれから発売されるイコーナシリーズについても、V12エンジン搭載、そしてフェラーリのルーツであるモータースポーツを強く意識したモデルとなるであろうことは間違いない、と思われます(V6エンジン搭載のディーノへのオマージュモデルは登場しそうにない)。
フェラーリ「イコーナ」シリーズは大きな意味を持っている
これからはフェラーリといえども通常ラインアップについてはすべてエレクトリック化されることになるかと思われますが、その中でこのイコーナシリーズは「フェラーリのルーツを示しつつ、現代における存在感を強める」ことになり、さらには「将来的にわたってフェラーリの価値を高める」のは間違いなさそう(過去と現在、未来とをつなぐモデル)。
参考までに、二次流通価格つまり中古価格の高さがそのブランド価値の高さを決めると言ってよく、イコーナ各モデルが「非常に高い価格で」流通することでフェラーリはその価値を高め、電動化時代においてもそのプレゼンスをさらに強化することになるともぼくは考えており、これはもちろん「(高いブランド力を活かし)レギュラーモデルを高い利益率で販売できる」という企業的な利点にも繋がります。
なお、フェラーリは今後どんどんエレクトリック化を進めることになりますが、ある角度から見ると、この電動化政策は「V12自然吸気エンジン搭載のイコーナシリーズを売るため(電動化=ハイブリッドモデルの比率を高めることで、V12自然吸気の出すCO2をチャラにする)」なんじゃないかと思うこともあり、そしてもちろんイコーナを売る理由は「ブランディング」。
電動化、さらにピュアエレクトリック時代になると、多くの自動車メーカーがスケートボード型シャシーを採用することになり、さらにはサプライヤーから供給を受けたモーターやバッテリーを前後アクスル両方もしくは片側に搭載するという「同じようなコンポーネント、同じようなレイアウト、同じようなパッケージング」を持つことになるわけで、となるとガソリン時代のようなメーカー間の差異も小さくなり、かつそれまでメーカーの築いてきた伝統が「ほぼ意味をなさなくなる」ことに。
そうなったとき、他社よりも高い価格で製品を販売しても「他社製品よりも多くの人が買い求める」かどうかはブランド力にかかっている言ってよく、そしてフェラーリはそのブランド力を最大限に高めるために「V12自然吸気モデルを売り」、一方でこれらが排出するCO2を「ハイブリッドモデルの販売拡大によって(メーカー全体として)引き下げ」ることでバランスを取り、これによってV12エンジン搭載モデルを存続させる計画なのかもしれません。
ただ、V12モデルは「売れば売るほど」CO2を大量に排出してしまうので、「より少ない台数」に留めねばならず、しかし台数が少ないと利益が出ないという事態に。
そこで登場するのが「過去の伝統を繁栄させた、コレクター向けの」ICONAということになりますが、これによって「より少ない台数で、より高い利益」を確保することが可能となり、かつ他社との差別化を図ることも可能となってきます。
ICONAシリーズの利益はとてつもなく大きい
ちなみにフェラーリはICONAシリーズを全体の5%程度販売してゆくという計画を持っていますが、この5%が稼ぎ出す利益は非常に大きいと考えられ、たとえばICONAシリーズの平均価格が3億円、そして通常ラインアップの平均価格が4000万円だとすると、ICONAシリーズは通常ラインアップの7.5倍の売上高を誇ります(デイトナSP3は599台の限定だと言われるので、約1800億円の売上になる)。
ただ、ここで重要なのは売上高ではなく「利益率」。
フェラーリはこれまでの決算において、「限定V12モデルの利益」が非常に大きいということを公表しており、つまりICONAシリーズは現実的に「より少ない台数で、より大きな利益を稼ぎ出した」ということになります。
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そして、車両単価は7.5倍ではあるものの、利益については「7.5倍どころではない」ことが容易に想像でき、通常ラインアップの利益が1台1000万円とすれば、フェラーリの平均的な原価は(販売価格が4000万円として)3000万円くらいと考えてよく、しかしICONAシリーズの原価が倍の6000万円くらいだと考えると(3億円-6000万円で)2億4000万円も利益が出ることになり、つまりは「ICONAシリーズは通常ラインナップの24倍も儲かる」のかも。※実際には、フェラーリの売上高は末端価格からではなく、インポーターへの卸値から算出すべきだし、ICONAの原価もぼくの想像なので、この計算はかなり乱暴ではある
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なお、ぼくはフェラーリのこういった手法について「儲けすぎ」と言っているわけではなく、上述のとおり「非常に優れている」と考えていて、「すべてのラインアップを一律でハイブリッド化する」スポーツカーメーカーとは異なり、「ハイブリッドモデルも販売するが、非ハイブリッドモデルも残し、かつブランディングのために活用し、さらにファンの要望にも答える」という手法については「なんて素晴らしいんだ」とも考えているわけですね。
そこが「ぼくがフェラーリ株を購入する理由」であり、実際にフェラーリの株価が上がっている理由だとも考えています。
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参照:Autocar