
| 「納車を待つ」ことすらフェラーリの購入体験の一部である |
1. 序論:究極のラグジュアリーが直面する「待ち時間」のジレンマ
フェラーリの世界では「注文から納車までの長い待ち時間」は不可避であり、現時点で来年度の生産分は既に完売し、新規注文の納車は2027年以降となる見込みです(そして新規注文のうち、はじめてフェラーリを購入する顧客に割り当てられる台数は全生産の19%のみである)。
こういった「長い納車待ち」が顧客に対し「フェラーリを手に入れることは難しい」という印象を与え、特別感と希少性を再確認させていることは間違いないのですが、その一方でフェラーリは「この瞬間的な満足感の欠如」が新規顧客を遠ざけるリスクとなりうることを認識しているのもまた事実。
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そしてフェラーリが導き出した回答が「20ヶ月から24ヶ月の間」という納車待ち期間だといい、CEOのベネデット・ヴィーニャ氏はこの期間について「顧客を失うことなく稀少性の価値を最大限に引き出す”スイートスポット”であると明言しています。
なお、この「20ヶ月から24ヶ月の間」は適切な分析に基づくものだとされ、経営戦略における顧客体験(CX)とブランド価値の緻密なバランスである、とも述べています。
2. 経営戦略:稀少性(Scarcity)がもたらすブランドレジリエンス
ベネデット・ヴィーニャCEOは、販売記録を毎年更新しているにもかかわらず「稀少性は重要である」という点を改めて強調し、フェラーリは、市場を大量生産モデルで「溢れさせる」ことを避け、「少数のモデルを高いボリュームで生産するよりも、限定的なボリュームで多くのモデルを提供する方が良い」という戦略を堅持しています。
そしてこれが「2030年までに毎年4モデルを投入」というハイペース計画にも繋がり、さらには「モデルライフの短縮」というフェラーリ独特のスタイルにもつながっているわけですね。
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この戦略を採用することで、顧客は「注文したフェラーリが届かないうちに、新しいモデルがどんどん発売されてゆき」、つまり納車される前から自分のフェラーリが型落ちになってしまうリスクが生じるのですが、この状況においても「また新しいフェラーリを買う(もしくはすでに注文している)から気にしない」と考えることができる人のみが「安定したフェラーリライフ」を送ることができるのかもしれません。
2.1. 少数モデル・限定生産戦略の維持
- 戦略的意図:このアプローチは、モデルラインアップの多様性(V6、V8、V12、PHEV、SUV)を広げながらも、年間販売台数の急増を抑制し、ブランドの「排他性」と「プレミアム性」を維持することを目的としている。この意図的な供給制限こそが、資産価値の維持と顧客のロイヤリティを強化する、強力なブランドレジリエンス(回復力)の源泉となる
2.2. 未来の布陣:電動化とパーソナライゼーション
- Elettricaと多様性:フェラーリは、ブランド初のEV「Elettrica(エレットリカ)」を含む20の新型モデルを2030年までに投入する予定であり、しかしこれは販売台数の「大増産」を意味するわけではなく、電動化は、より広い顧客層に「稀少なフェラーリ」を届けるための戦略的な「網」を広げる行為である
- スペシャル・プロジェクト:フェラーリの最上位顧客向けには、SC40のようなワンオフモデルを製作するスペシャル・プロジェクト(Special Projects)プログラムを展開。これにより、レギュラーラインナップを超えた究極のパーソナライゼーションと稀少性を提供し、最高レベルの顧客体験を保証する
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3. アフターセールス戦略:技術的複雑性への長期保証
エキゾチックカーは信頼性の面で課題を持つこともありますが、フェラーリは製造されてきた約33万台のうち、90パーセント以上が今なお現役であるという驚異的な事実を誇っています。
この高い”現役率”は、包括的なアフターセールスパッケージによって支えられており、特に注目すべきは、プラグインハイブリッドモデルなどの電動化車両(Electrified Models)に対するサポートです。※つい先日、ランボルギーニも長期的な保証体制を発表したばかり
3.1. 16年保証プログラムによる信頼性の確保
- パワーハイブリッド・プログラム: 複雑な電動パワートレインを持つPHEVモデルも、16年間にわたる工場保証の延長プログラム「パワーハイブリッド・プログラム」でカバーされる。バッテリーが故障した場合でも無償で交換されるなど、技術的な複雑性を長期的な保証で打ち消すことで、顧客の安心感とブランドへの信頼を極めて高いレベルで維持することを目的としている
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フェラーリはその価値とコンディションを維持するために「3つの保証、3つの認証」を用意していた。今回その内容や条件が明らかに
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4. 結論:時間を価値に変えるフェラーリの戦略的洞察
フェラーリの「24ヶ月待ち」戦略は単なる生産能力の限界ではなく、「待つ時間」そのものを購入体験と所有欲を高める付加価値へと変換するという「極めて高度な経営戦略」(納車までには様々なプログラムが用意され、納車までの期待を高めてくれる)。
稀少性を厳格に守りつつ、長期保証で製品のレジリエンスを担保するフェラーリの姿勢は、ラグジュアリーブランド経営における一つの模範的な事例と言え、しかしこの戦略が「受け入れられる」のは今のところフェラーリ、そして追随するランボルギーニの2社くらいなのかもしれません(それ以外のブランドであれば、顧客はこの長い納車待ち期間を許容しないであろう)。
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参照:Motor1