
Image:Ferrari
| はじめに:スポーツカーEVの「感情」の壁 |
それでもフェラーリは「後に引くことはできない」 |
さて、フェラーリは「初」のEVとなるエレットリカの情報を公開したところではありますが、このエレットリカについては様々な懸念が示されており、フェラーリが抱える最大の課題は「どれくらい高いパフォーマンスを実現するか」よりも「いかにこの懸念を霧散させるか」にあるのだと考えられます。
そしてこの課題はフェラーリのみならず、ほか多くの(あるいは全ての)スポーツカーメーカーに共通するものかもしれず、これこそが「スポーツEVが普及しない」理由なのかもしれません。
実際のところ、多くのスポーツカー愛好家にとって、V8やV12エンジンの「叫び」は運転体験と感情的なつながりの核心であり、EVは確かに強大なパワーを誇り、(加速が)速いものの、感情を揺さぶるエンジン音が存在しないため、感情とクルマとが同調する感覚を得るのが非常に難しいのが現状です。
ちょっと前まではスポーツカーの主な指標は「馬力」「速さ」であったものの、皮肉なことにハイブリッドやピュアエレクトリックスポーツカーが登場したことによってガソリンエンジンの持つフィーリングが重視されるようになり、つまるところ「ハイパワーEVの登場によって」ぼくらは「スポーツカーを判断する基準は馬力や速さではない」と気付かされたわけですね。
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「異なるフェラーリを異なるフェラリスティへ、そして異なるフェラーリを異なる瞬間のために」
なお、ぼくはEVに対して否定的な意見を持っておらず、実際に過去にEVを所有しており、現在エレクトリックバイクを購入しようとしている状況ということもあって「フェラーリのEVに対しても肯定的」。
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もしフェラーリが「本日をもってすべてのラインアップをEV化する」となると、さすがに「えっ」となるものの、現状はそうではなく、そしてフェラーリが発売しようとしているEVは「4シーター」ということもあってスーパースポーツというわけではないと考えられ、「EVならではの、静かで快適、そして高い経済性を実現した」新種であり、富裕層が現在所有するフェラーリに「買い足したり」、いままでフェラーリを敬遠していた層が新しくフェラーリの世界へと足を踏み入れるきっかけとなるのかもしれません。
実際のところ、フェラーリは「異なるフェラーリを異なるフェラリスティへ、そして異なるフェラーリを異なる瞬間のために」というコンセプトを掲げており、これはつまり「様々な人々の、様々な要望を満たすべく多様なフェラーリを提供する」ということだと思われ、よってこれまでのように「フェラーリ=赤いウエッジシェイプの2人乗りのスーパーカー」というステレオタイプなイメージからの脱却を目指すものと思われます。
よってエレットリカはこれまでのフェラーリの「置き換え」ではなく、現在のフェラーリのラインアップに対して「新しく加わるファミリー」であると考えれば拒否反応が薄まるのかもしれません。
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フェラーリが克服せねばならない課題とは
それでも「フェラーリのEV」を成功させるには課題が多く、注目すべきはフェラーリが初のフルエレクトリックビークル(EV)「エレットリカ」をもって現状の流れ、そして消費者の認識を変えることができるかどうか。
フェラーリ エレットリカの驚異的なスペックと車重
項目 | 詳細 | 補足情報 |
発表予定時期 | 2026年春(インテリアは来年先行公開予定) | |
最高出力(ブーストモード) | 1,000馬力以上 | |
モーター構成 | 4基(前後アクスルに搭載) | フロントアクスル282馬力、リアモーター831馬力 |
バッテリー容量 | 122 kWh | |
航続距離 | 530 km以上 | |
0-60 mph (0-96 km/h) | 2.5秒 | |
最高速度 | 310 km/h (193 mph) | EVとしては最速の部類 |
重量 | 約2,268 kg超 | 史上最も重いフェラーリとなる見込み |
充電 | 超高速DC充電 (最大350 kW) |
Image:Ferrari
マラネロ(フェラーリ本社)によれば、このEVの主要コンポーネントはすべて社内で開発・製造されており、比類のないレベルのパフォーマンスを実現するとされています。
しかし、この巨大なバッテリーとモーターにより、Elettricaがフェラーリ史上最も重いモデルになるという事実は、彼らが乗り越えるべき大きな課題を示唆しているのかもしれません。
感情的なつながりの再定義:増幅されたサウンド技術
フェラーリはこれまでのEVとは全く異なるもの、特に「音」に関して革新的なものを提供すると述べています。
EVの課題は速度ではなく、パワーデリバリーの均一性とサウンドの欠如にあると考えられ、フェラーリはこれを克服するために、「増幅されたサウンド(amplified sound)」と呼ばれる独自の技術を開発することに。
このシステムは、インバーターに取り付けられたセンサーがパワートレインの「実際の機械的振動」を検知し、それを増幅して「自然に進化するトーン」を生み出しますが、「エレキギターと同じ仕組み」だと考えればわかりやすいかもしれません。

• 技術の核:加速度計がモーターの自然な共振を捉え、それをキャビン内で増幅することで反応性の高いサウンドトラックを生成
• 運転との連動:クルマを強くプッシュすると自然なクレッシェンドが構築され、アクセルペダルを緩めるとほぼ無音に移行
• 開発の狙い:伝統的なフェラーリエンジンの音を模倣するのではなく、全く新しいオーセンティックな音を創造。20人からなるエンジニアリングチームが電気周波数を音符のように捉え、スピーカーではなくアンプを通して音を生成
この合成されたフィードバックが「従来の燃焼エンジンが持つ感情的なインパクトと同等になるかどうか、あるいは超えることができるかどうか」は、”エレットリカの魅力を左右する”極めて重要な要素でもあり、フェラーリそしてフェラーリファン最大の関心そして懸念なのだと思われます。
デザインとレイアウト:GTC4ルッソの影響
エレットリカは、V12を搭載したプロサングエ(Purosangue)に似た、4ドア4シーターのグランツーリスモレイアウトになると示唆されています。
しかし、スパイ写真のプロポーションを見ると、プロサングよりもGTC4ルッソに似ているとの指摘も少なくはなく、もしかすると「4ドアではなく2ドアとなる可能性も。
参考までに、GTC4ルッソの流れるようなラインや、彫り込まれた下部セクションのデザインは現在でも高く評価されており、エレットリカのデザインは、最近のフェラーリに見られるようなボクシーあるいはエッジの効いたデザインではなく、よりクラシックで控えめな、柔らかい曲線を持つものになるのでは、と見る向きもあるもよう。
たしかにそのほうが「異なるフェラーリを異なるフェラリスティへ、そして異なるフェラーリを異なる瞬間のために」という考え方にもマッチしていて、環境に配慮したり、これまで「目立ちすぎるから」ということでフェラーリを避けていた人にアピールできたり、押し出しを抑えることで「ビジネスシーンにもマッチする」フェラーリとなるのかもしれません。
なお、このエレットリカは「EV専用」の設計を持つため、従来のガソリン車の常識に縛られる必要はなく、よってぼくの予想では「革新的なデザインを持つフェラーリになる」。
前後バルクヘッドが構造上「不要」となるために極端な(ヴィジョン・グランツーリスモのような、フラビオ・マンゾーニ氏が好む)キャブフォワード形状を再現することが可能となり、クラシカルというよりは未来を示唆するクルマになるんじゃないかとも考えています。
よって、エレットリカは「過去のフェラーリをEVで蘇らせる」ような安直な手法ではなく、「EVにしかできない、エレットリカならではの」デザインを持つことになるのだとも考えていて、「そのデザインが欲しいからエレットリカを買う」という層を生み出すようなデザインを持つことになるであろうとも予想しているわけですね。
フェラーリの電動化戦略とV12の未来
なお、フェラーリは電動化を進めつつも、内燃機関を完全に捨てるつもりはなく、繰り返しになりますが、フェラーリは「新しい選択肢」としてEVを提供することを目的としているのだと思われ、けして「ガソリン車と置き換える」という意図を持っているわけではないのだと思われます。
フェラーリは2030年までに、ラインナップの40%をハイブリッド、20%を完全なEVとする計画を立てていますが、フェラーリはV12エンジンを存続させることを断固として主張しており、これはEV時代においても伝統的なスポーツカーの核心を守り続けるというフェラーリの強い意志を示すことにほかならず、ここからのEVを「ガソリン車の代替」と捉えているわけではないことがわかります。
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さらにいうなれば、エレットリカを投入することで「むしろガソリン車の個性を強調できる」可能性も見えてくることとなり、さらにはガソリン車の販売台数を現在よりも低く設定することが可能となればガソリン車の希少価値を高く維持することもできるため、ぼくはある意味で「エレットリカはフェラーリの未来を守るために必要な存在」であるとも考えているわけですが、最大の懸念は「フェラーリのブランドイメージを既存しないかどうか」。
ただ、これはフェラーリがいちばん気にしていることだとも思われるのでぼくが心配することではなく、もしかするとフェラーリは「既存フェラーリとのイメージ的干渉を避け、ブランドイメージに影響しないよう」スタンドローン的な(デザイン含め)存在として扱うのかもしれません。
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