エルメスのベルト、「トゥアレグ」。
これはトゥアレグ族の伝統的な紋様をシルバーのバックルに彫ったもので、同じものが二つとないと言われるシリーズ。
ここでの「トゥアレグ」はアフリカ大陸はサハラ砂漠を拠点に活動するトゥアレグ族のことで、エルメスのデザイナーが現地を訪問した際にその独特の紋様に触発された、とされています。
なおVWのSUV「トゥアレグ」も同じトゥアレグ族をイメージしたものですが、トゥアレグ族は交易によって栄え、藍染の衣装を身にまとう「青い衣の民」として知られます。
そしてこの藍染はアフリカにおいては非常に高価なものであり、富める民族の象徴でもあるとされ、そこからフォルクスワーゲンはネーミングの着想を得たとの事(ただし野蛮さでも知られ、VWトゥアレグ発売時にはそれを指摘されたこともある)。
なおポルシェ・カイエンはアフリカ原産のカイエンペッパーから命名されており、欧州の人にとって「アフリカ」は冒険や果てしない旅を感じさせるイメージを持つようです。
それはともかくとしてこのトゥアレグのベルトですが、ぼくが「エルメス嫌い」になった原因とも言える製品。
というのも当時のエルメスは高飛車で(店頭での対応に不満があるわけではなく、あくまでも会社の方針に対してそう感じた)、トゥアレグに限らずどの製品でも「いつ入荷するかわからない」「予約も受けることができない」という職人中心の会社であったわけですね。
職人が作ったものが作っただけ入荷し、そこには販売の販売現場の意見が反映されないという体質(職人優先で販売サイドの意見を聞かない)があり、これは「売れるものを売れる場所に売れるだけ供給する」ルイ・ヴィトンとは対極の方針(消費者もそうですが、一番困ったのは店頭のスタッフかもしれない)。
ルイ・ヴィトンはバブル期には「売り切れ」頻発でしたが、その後は製品管理を的確に行い、どこで何が売れるかを把握してそれを生産に反映させ、売り切れを最小限にすることで成長してきた企業です(もちろんデザインや品質のたゆまぬ進歩、ラインアップの拡充もあります)。
飲食店でいうとエルメスは職人が作ったものを職人が指示する方法で食べねばならないお店で、食材がなくなれば閉店という経営者中心タイプといえます(食べる順番とか焼き加減とかに文句を言われる)。
ルイ・ヴィトンは逆に客が求めるものを提供し、営業時間はちゃんと決め、その時間中は何があっても求められる料理を提供するタイプで、食べ方にも文句をつけるわけではない飲食店、と言えるでしょう。
なお、エルメスのベルト「コンスタンス」はかなりのバックルの種類、ベルト(革部分)の種類があります。
そしてエルメスのベルト(コンスタンス)はもともとバックル+ベルトが分かれており(買った時も別々に分かれて一つの箱に入ってくる)、欧州や日本以外アジア地域のエルメスでは組み替えての販売が可能というか、そもそもバックルとベルトは別製品と考えられていて顧客の要望に合わせて組み合わせて販売されるケースが大半でした。
ただし当時の日本では店頭に展示している組み合わせ以外では販売してくれなかった(現在は方針変更により組み合わせ変更が可能となっている)のですね。
例えばシルバーのバックル+ホワイトのベルトで75センチの在庫があるとしますよね。
そしてもう一本、隣にゴールドのバックルでホワイトベルト、70センチの在庫があるとします。
ぼくはシルバーで70センチのベルトが欲しいのですが、この時に上記二本のバックルを入れ替えることはできない、ということです。
それはブランド(もしくは日本法人)の方針なので受け入れるとして、75センチを買うのでベルト穴を2個開けるのは可能かと尋ねると「穴を開けるのは一個まで(2.5cm)」という決まりがあるそうで、これも不可。
要はできないことだらけで、話は戻りますが「いつ入荷するかわからない商品を待て」ということになり、予約も入荷連絡もできないということに。
ルイ・ヴィトンだとこう言った組み合わせの変更は店頭に在庫がある限りは可能で、例えば腕時計「タンブール」だとストラップ(ベルト)を自由に選べるわけですね。
在庫がなければ入荷予定を教えてくれますし、予約もできて入荷連絡もちゃんとくれます。
ただ、これは上述のようにブランドの方針でありぼくが口を挟む問題ではないので、最終的に「それでも買うか買わないか」は完全にぼくの判断。
できないことを要求するわけにもゆきませんし、できないのであれば「買わない」という判断しかありません。
そんなわけでエルメスには反感を持っていたぼくですが、製品の品質の高さには一目置いており、今回はたまたまぼくのサイズを見つけることができ(最初にトゥアレグを購入しようと考えてから10年が経過しているのですが)エルメスの軍門に下る形に。
というのもやはりコンスタンスの「H」バックルの威力は絶大で、ぼくのようにラフな格好が多い場合は格好のアクセントとなるわけです。
ちなみにルイ・ヴィトンはつい先ごろまでエルメスの株を保有していましたが、「エルメスは言うことを聞かない」として株式を売却し、傘下から放出していますので、やはりエルメスの体質(職人本位)は基本的に変わらず、ルイ・ヴィトンとの相性が悪かったのでしょうね。
もちろんエルメスの体質の方が良いと考える人もいるでしょうし、VIP顧客であれば組み替えや予約もできると思います。
そして、上述のような「排他的」な方針を採用することで、ぼくのような一見さんを排除してブランドイメージを高めることが出来るのでしょうね(たしかにぼくはエルメスのブランドイメージ向上には貢献しないので、”選ばれなかった”顧客と考えるしか無い)。
そういったこともあって、ぼくは制限もなく誰にでもウエルカムなルイ・ヴィトン派であることに変わりはありません。
ぼく自身も誰かを制限したくはないし排他的でありたくはないのですが、もちろん逆の思想を持つ人もたくさんおり、これが「相性」というものかもしれませんし、多くのブランドが成立している理由なのかもしれませんね。
なおこの「コンスタンス」ベルトのHバックルにはシルバー、ゴールドともにクローム仕上げ、ハンマー仕上げ、ギョウシェ仕上げ、ブラシ仕上げなどがありますがクロームはすぐに傷がつく上にシミができたりクロームが剥離しやすく、クローム仕上げのバックルはあまりお勧めできません。