| EB110を販売したブガッティと、現在のブガッティとはそもそも完全に異なる会社 |
まったく寝耳に水な、「ブガッティがEB110 SSの後継モデルを8月16日から開催されるモンタレー・カーウィークにて発表する」というウワサ。
これはエキゾチックカーの中でも超高価格帯のクルマだけを販売するディーラー、「Girado & Co」が自身のTwitter上にてつぶやいたもので、それによるとブガッティは価格約10億円、10台限定にてこのクルマを発売する、とのこと。
なお、ブガッティは6月に「ナゾのクルマ」を有力顧客に紹介したと言われ、この「ナゾのクルマ」こそがEB110後継モデルなのかもしれません。
「ブガッティ」は3回会社が変わっている
ブガッティEB110とは、ブガッティが現在の組織、「ブガッティ・オトモビル」となる前の時代のブガッティが発売したクルマ。
ちょっとややこしいのですが、もともとの「ブガッティ」は1909年に創業した会社で、しかし創業者たるエットーレ・ブガッティが1947年に没した後に業績が急激に冷え込み、その後フランスの「イスパノ・スイザ」社に吸収されて、そこからまたイスパノ・スイザが「サフラン」社へと併合され、現在は同グループにて「メッサー・ブガッティ」として航空機用のパーツを製造しています。
え?ブガッティはフォルクスワーゲングループ傘下じゃないの?と疑問に感じるかもしれませんが、現在のブガッティは、この「1909年に創業されたブガッティ」とは別の会社組織(そしてメッサー・ブガッティとも関係はない)。
どういうことかというと、第二次大戦にてブガッティの工場が破壊され、そしてエットーレ・ブガッティが死去した時点でブガッティは自動車の生産をやめて航空機産業へと転換しており(戦争のために、それ以前から航空機産業へとシフトしていたのかも)、自動車メーカーとしてのブガッティはこの時点で事実上「消滅」していたわけですね。
2つ目のブガッティは「イタリアの自動車メーカー」
その後、1987年にイタリアの実業家であるロマーノ・アルティオーリがブガッティの名称使用権を手に入れて「イタリアに」設立したのがブガッティ・アウトモビリ。
なぜイタリアなのかというと、イタリアにはフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーメーカーが存在し、人材確保やサプライヤー確保に困らないだろうという判断からだと思われます。
そして実際に1991年に発表されたのが「ブガッティEB110」。
「EB」はもちろんエットーレ・ブガッティ、そして「110」はエットーレ・ブガッティの生誕110周年を表しています。
このブガッティEB110は「ミドシップ」「4WD」「クワッドターボ」「馬蹄型グリル」を持ち、エンジンは3.5リッターV12/560馬力(SSモデルは611馬力)。
0-100キロ加速は3.46秒、最高時速は342km/hという、当時としては破格の性能を誇っています。
しかしながらロマーノ・アルティオーリはロータスの買収などで多額の資金を借り位入れることになり、しかし販売は思うように伸びず、1995年に破綻することに(このとき、ブガッティのメンバーは”パガーニ”に移っている)。
参考までに、同氏はロータスを買収した後に「エリーゼ」を発表していますが、ロータスの伝統である「Eではじまる命名法則」を守り、かつブガッティEB110についても「ブガッティの伝統」を表現するために馬蹄形グリルを装着すると主張し続け、そのためにデザイナーのマルチェロ・ガンディーニ氏と決裂するに至っています。
実際にEB110は馬蹄型グリルを持っていて、ロマーノ・アルティオーリ氏はそこまでしても「伝統を守り抜く」人物であり、真のカーエンスージアストであったのかもしれません。※EB110のイメージカラーだったブルーも、かつてのブガッティ・タイプ35を意識したものと思われる
3つ目のブガッティが現在のブガッティ
そして1998年にロマーノ・アルティオーリから商標権の譲渡を受けて設立されたのが現在の「ブガッティ・オトモビル」。
こちらはブガッティ創業の地である、フランスはアルザスに本社を構えるなど、より「伝統」を重視した姿勢を見せています。
そして、その新体制のもとで発売されたのが「ヴェイロン」そして「シロン」。
ここでぼくが「いい話」だと思うのは、ロマーノ・アルティオーリが採用した「馬蹄型グリル」「ミドシップ」「4WD」「クワッドターボ」「ぶっちぎりの馬力とスピード」を新生ブガッティでも採用したこと。
「ブルー」は初代ブガッティからの伝統、馬蹄形グリルは当時の車では一般的だったといえどブガッティの特徴として考えるとして、 「ミドシップ」「4WD」「クワッドターボ」 はロマーノ・アルティオーリ時代から採用された”新しい”もの。
さらに「EB」の文字をフィーチャーしたバッジもロマーノ・アルティオーリ時代に考案されたもので、新しいブガッティは会社がごっそり変わったのに、こういった「ロマーノ・アルティオーリ時代の」特徴を引き継いでいて、これはつまり「ロマーノ・アルティオーリの自動車愛、ブガッティ愛」を、新生ブガッティが理解していたからに他ならないのでは、と考えるわけですね(新生ブガッティは、ロマーノ・アルティオーリの”法則”を守る必要はなかった)。
そういった意味では、現在のブガッティが「短命に終わった」EB110へのオマージュとなるクルマを改めて発売、というのは非常によく理解できます。
ちなみに(現在の)ブガッティは最近インスタグラムアカウントを開設しており、これまたナゾの画像も投稿。
こういった行動を見ても、「なんらかの」サプライズがあると考えて良いのかもしれません。