| こういった背景を見るに、現在の地位を築いた腕時計メーカーは何があってもそれを失いたくはないだろう |
今後、さらに購入のハードルが上がるものと思われる
さて、現在は「腕時計バブル」といっていい状況が久しく続き、ロレックスのスポーツモデルを筆頭に、パテックフィリップ、オーデマピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンを「普通に買うこと」はまず不可能。
さらにはこれまでは入手が比較的容易だったオメガ、ブライトリング、タグ・ホイヤー、ゼニス等についても「限定」と銘打てば一瞬で完売してしまうという状態です。
そこで、腕時計販売大手のウォッチファインダーが「パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲ、ヴァシュロン・コンスタンタンはなぜ正規品を定価で入手することができないのか」という動画を公開しており、その内容について触れてみたいと思います。
すべての始まりはクォーツショックだった
ウォッチファインダーによれば、すべての始まりはクォーツショックだったといい、つまりはセイコーが1969年に発表した「アストロン」がすべての元凶。
当時これは非常に高価な腕時計であったものの、これまでの「ゼンマイの力で歯車を動かして時を刻む」機械指揮腕時計とは全く異なって「水晶とトランジスタを組み合わせ、電力にて振動を発生させて針を動かす」という構造を持ち、その正確性と信頼性が大きな特徴です。
登場初期は非常に高価であったものの、後にセイコーが特許を開放することで一気に普及することになり、それまで腕時計を作ったことがない企業でも容易に腕時計業界へと参入することが可能となったわけですね(自動車業界の例だと、EVの参入障壁が低いため、アップルはじめ異業種がそこへなだれ込んでくるような状況とも似ている)。
そのためクォーツ式腕時計を製造するメーカーが増えるにあたり、それまで世界の腕時計市場を支配していたスイス腕時計業界は大きくダメージを受け、その多くが廃業や身売りといった対応を迫られています。
さらには、それまで機械式腕時計を製造していたスイスの腕時計メーカーですらクォーツへとシフトせねばならないといった状況であり、ゼニスもまさにそのひとつで、クォーツショックによってアメリカ企業に買収され、一時は機械式腕時計の製造を終了させるという決断を行ったのもよく知られるところですね(ただ、ゼニスの技師が会社の命令に反して設計図や工作機械を隠匿し、しかし後に時代が変わり、これを活用することによって復興を遂げている)。
なお、クォーツショックについては、それを引き起こしたセイコーによって詳しく紹介されています。
機械式腕時計メーカーは生き残りを模索することに
そしてクオーツショックによって多くが廃業へと追い込まれた腕時計業界ですが、ただ黙ってその状況を見ていたわけではなく、いくつかの新しい動きが登場します。
ひとつは「クォーツ化」への対応であり、伝統を重んじるスイスの腕時計メーカーと言えど、もはやクォーツ腕時計は一過性のまやかしではなく「腕時計のメインストリームになる」と認め、これに対応する動きですね。
たとえば、オメガを中心としたSMHグループの誕生、そして1983年に登場した「スウォッチ」はその代表例だと言えるかもしれません。
ちなみにですが、クォーツ式腕時計はセイコーが「突然」発表したわけではなく、以前からスイスの腕時計メーカーも試作を行っていて、パテックフィリップは1956年にクオーツ時計を製作しており、1970年にはラドー、ブローバ、オメガもクオーツ時計を発表しています(よって、セイコーがクォーツを発表せずとも、どこかが先陣を切って発表していたのは間違いなく、スイスの腕時計業界もクォーツを頭から否定していたわけではない)。
そしてもうひとつの動きが、「機械式腕時計の資産価値を高める」という動き。
「時を知る」という腕時計本来の役割、そして信頼性、価格、手軽さにおいてはクォーツ式腕時計に(機械式腕時計が)敵わないのは明白であり、であればクォーツ式腕時計と競合するという考え方を捨てようというのがこの方向ですが、「腕時計が登場して懐中時計はその役割を終了させることになったが、コレクターや富裕層の間では(懐中時計が)高い価格で取引されている」状況になぞらえ、「機械式腕時計はクォーツ式腕時計に駆逐されるだろうが、嗜好品としては生き残るだろう」という考え方です。
この思想を形にした代表的な腕時計メーカーがオーデマピゲ、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンということになり、たとえばオーデマピゲは「薄く軽く小さい」クォーツ式腕時計に対抗した「デカ厚」機械式腕時計”ロイヤルオーク”を1792年に発表し、パテック・フィリップは1976年に(ロイヤルオークのデザイナー、ジェラルド・ジェンタを起用した)ノーチラスを発売しています。
そしてヴァシュロン・コンスタンタンはといえば、1977年の「創業222年」という節目に「222本限定にて」ヴァシュロン・コンスタンタン222を発売することに(ロイヤルオーク、ノーチラス同様にステンレススティール製のラグジュアリースポーツツォッチという分類)。
さらに時代が味方する
こうやって復活の狼煙をあげたスイスの腕時計業界ですが、その後1987年には「ブラックマンデー」と後に称される株価大暴落が発生します。
これは投資に対する考え方を人々に再考させるきっかけとなり、それまで一本調子で上昇し、投資=株という、(当時の)人々の常識に対して「株式市場は一瞬で崩れる」という危険性を身をもって知らしめ、実体がない株式よりも、実体があり数量が限られている「モノ(安全資産)」に対する投資へとその対象をシフトさせた、と言われています(これは2022年現在の状況と同じで、株式と暗号資産は下がっていても、腕時計やスニーカー相場が上昇していることからも理解ができる)。
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そして、それまでの株式投資ブームによって「投資慣れ」した(そして腕時計には興味のない)人々が腕時計を買い漁るようになり、これによって腕時計の相場が急上昇したというのが近年における「腕時計市場拡大の直接の原因」。
実際にロレックス・デイトナの価格が上がり始めたのもこの頃で(それまではデイトジャストが人気で、デイトナのようなスポーツモデルは安売りされていた)、同時に投機対象としてスウォッチも人気化しており、1990年前後の欧州では、貨物やダンボールに「NO DAYTONA」「NO SWATCH」と記載していないとすぐに(箱ごと)盗まれたと言われます(最近話題になった、盗むものがないことを示すためにリヤハッチを開いてクルマを駐車するようなものか・・・)。
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そして現在ではそのブームがさらに加速
そして現在ではこういった「目に見えるモノへの投資意欲」を引き継いだ状態を基礎とし、ネットの普及による転売の常態化・常識化によって「全人類が投資家状態」となっているわけですが、これによって腕時計の価格は継続して上昇中。
さらにこの状況に輪をかけているのが「生産量の限定」であり、スイスの腕時計業界はクォーツショックによって存続の危機を問われ、そこで見出した解決策が「コレクター向けに、価値を高めたモデルの少量生産を行う」というもので、この手法が(時が味方したといえど)大きな成功と業界の安定化に貢献している以上、これを崩すことはまずない、と考えられます。
つまりはこれからも腕時計メーカーとしては生産本数を絞り、「欲しくても手に入らない状況」を作り続け、さらに市場の渇望とブランド価値を高めてゆくということですが、これができるのは「株式を一般公開していない、ロレックスやオーデマピゲ、パテック・フィリップだからこそできること」だとも言われていますね。
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じゃあどうすればロレックスやオーデマピゲ、パテックフィリップなど人気の腕時計を入手できるのか?
そこで気になるのが「じゃあどうすれば人気の腕時計を手に入れることができるのか」。
ロレックスだと、これはもう(日本国内では)「ロレックスマラソン」しかなく、とにかく完走するまで走り続けるしかなさそう。
ちょっと前までは「百貨店が直接ロレックスを扱っていた場合、外商経由で入手できる」という状況ではあったものの、ロレックスは順次その販売方法を「直営店」に切り替えていっており、百貨店に入っているロレックス正規販売店であっても百貨店側のコントロール外となっているケースがほとんど。
あとは海外にて「予約できる販売店を探して」買う、あるいはプレミア価格(プレ値)で買うということくらいしか選択肢がないと思われます。
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パテックフィリップについては、パテックフィリップが「客を選ぶ」ので、一見さんはパテックフィリップの人気モデル(ノーチラスやアクアノート)を正規販売店で購入することはもちろん予約することも難しく、よって予約するにはまず「在庫(売れ残っている)パテックフィリップをまず一本購入する」ことで予約する権利を得ることが可能です。
販売店によっては、「昔のよしみ」で、パテックフィリップの購入履歴がなくと予約を受けてくれることもありますが、いざ順番が回ってきたとしても、パテックフィリップ側が「誰に売るのか」ということをチェックし、その人が「初めての顧客」だったりするとパテックフィリップが「その人に売ってはならぬ」というお達しを出す模様。
よって、いずれにせよなんらかのパテックフィリップの腕時計を購入する必要がありそうですね。
そしてオーデマピゲだと、これは販売店によって予約の可否やその方法が異なるものの、今のところ「予約して待てば」数年後にはなんとか買えるといった状況です。
ただ、今後「限定モデル」については顧客の購入履歴を確認して「その客がオーデマピゲにふさわしいかどうか」を判断することになるといい、その購入履歴は「販売店毎」につくもよう。
たとえば、「これまでに5本」オーデマピゲを購入していても、中古だったり、5本それぞれが異なる正規販売店での購入であれば「購入履歴」は5本ではなく、しかし「同じ正規販売店で5本」購入していれば「5本」としてカウントされるということになります(よって、オーデマピゲ購入の際は、慎重に販売店を選び、1店舗に絞ると良い)。
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なお、ロイヤルオークは今年で50周年を迎えますが、50周年記念モデルについては、オーデマピゲ側が顧客の購入履歴を見て「誰がそのオーナーにふさわしいか」を判断するといい、つまりはオーデマピゲ側からの「オファー(招待)」がなされた人しか購入できないようですね(フェラーリの限定モデルみたいだな・・・)。
ちなみにヴァシュロン・コンスタンタンについては興味がなく、よってぼくは購入や予約の方法について全く把握していませんが、機会があればそのあたりも聞いてこようと思います。
オーデマピゲ、パテックフィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンがなぜ買えないのかを掘り下げた動画はこちら
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