| アルカンターラは東レによって開発され、イタリア企業と東レとの合弁によって「アルカンターラ社」が設立される |
一方、東レ本体では「ウルトラスウェード」の名称にてアルカンターラと同じ素材を製造
さて、アルカンターラが「BMW M社の50周年記念に際し、コラボレーションを展開して特別仕様のM4を製作した」と発表。
このBMW M4のシート、ルーフ内張り、ピラー/ドアパネル内張りにはボディカラー同色のアルカンターラが貼られており、かつレーザーによって(BMW本社のある)ミュンヘンの街並みが再現されるなど特別な仕上がりとなっています。
アルカンターラとは一体なんぞや
そこでこのアルカンターラについて触れてみたいと思いますが、このアルカンターラとは、イタリアのアルカンターラ社が商標権をもつスウェード調の素材であり、現代では高級車はじめ幅広いモデルに採用される素材です(マイクロファイバー、ダイナミカなど、各社から同様の素材も登場している)。
なお、会社がイタリアにあることから「イタリア」イメージの強いアルカンターラではありますが、もとはというと、日本人の科学者である岡本三宣氏が開発した素材で、これを製造・販売するために東レとイタリアのアニッチ社との合弁によって作られたのが「アルカンターラ社(当時はイガントという社名だった)」。
ちなみにですが、東レの方では同じ素材をウルトラスウェードとして製造販売しているものの、東レがイタリアに会社を設立したのは、当時(1972年)、自動車のトレンドの発信元がイタリアだったからという理由だとされ、しかし実際にアルカンターラについては「イタリアの会社が作った製品」として世界に広まっていったので、東レとしては当時の事情をよく理解していて、先見の明があったと言えるかもしれません。
ちなみに現在ではアルカンターラ(Alcantara)はイタリア製、ウルトラスウェード(Ultrasuede)は日本製といった分類がなされ、それぞれ異なる展開がなされています。
アルカンターラがどういった目的を持って開発されたのかについては(公式に)紹介されていないものの、それ以前から自動車の内装用素材として(高級感を演出できるとして)人気があったのがスウェード。
ただしスウェードの場合、最終的に表面を均一な質感に加工できる表革とは異なり、表面の毛羽立ちの向きを均一に揃えることが非常に難しく、よって「ステアリングホイール」など小さい面積のパーツには使用できても、シートやドアインナーパネルといった大きな部位に使用することが非常に難しい素材であったわけですね(むしろ不揃いな毛羽立ちによって高級感を損なううえ、耐久性にも乏しい)。
しかしながらアルカンターラの場合は「人工」なので、同じ色、同じ質感を持つものを(製造機械のサイズの範囲で)どれくらいの長さ(面積)であっても量産でき、品質が安定しているために多くの自動車に用いられることとなっています。※ちなみにその製造方法は明かされていない
アルカンターラはこんな特徴を持っている
そしてアルカンターラは「柔らかく繊細な手触り」「耐久性がある」「柔軟性がある」「伸縮性がある」「手入れが簡単」「通気性がある」「耐光性、耐熱性がある」特徴があるほか、加工性にも優れており、刺繍はもちろんのこと、プレスやレーザーによる文様加工、切り抜きなど様々なデザインを施すことができ・・・
カラーバリエーションも多種多様。
カットした裏側に別のカラーを当てることでさらに深い表情を創り出すことも可能です。
とくに「軽量」「滑りにくい」という特徴から、スポーツ志向のクルマ、モータースポーツ用のクルマ(レーシングカー)に採用されることが多いのですが、比較に対してディスアドバンテージがあるとすれば、それは「価格」。
つまりアルカンターラは(人工なのに)天然皮革よりも高価な場合がほとんどで、これを選ぶと皮革よりも高額になる場合がほとんどです(ランボルギーニではアルカンターラのほうがレザーよりも高価で、フェラーリだと両者の価格は同じ)。
ウルトラスエードはこんなクルマに使用されている
一方で東レのウルトラスウェードも自動車の内装に使用されることが多く、イタリアの自動車メーカーであるフェラーリはなぜか(イタリア製の)アルカンターラではなくウルトラスウェードを使用することも(アルカンターラを使用する場合もあり、どういった条件で使い分けているのかはわからない)。
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そのほかトヨタやレクサス、アキュラもウルトラスウェードを使用する自動車ブランドとして知られますが、中国のNIO、HiPhiもウルトラスウェードを使用していることが報じられていますね。
そしてウルトラスウェードもやはりアルカンターラと同じく「肌触りが良い」「高級感のある外観」「軽量」「通気性」「多彩なバリエーション」「優れた伸縮性」といった特徴を持っており、植物由来の素材や再生素材を一部に使用した、「サステイナブルな高機能素材」として広く知られています。
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