| これがトヨタの意図したことなのか、それとも怪我の功名なのかは判断できないが |
いずれにせよ、中期的に見るとトヨタの(EVへの)対応遅れがいい意味で働いたことは間違いなさそうだ
さて、先日「一部のトヨタの主要株主が、豊田章男氏の環境に対する取り組みの遅れ」「トヨタの取締役会における不透明性」を指摘し、同氏が会長に就任することを支持しないようという議決案を提出しましたが、実際に開催された株主総会の場においては「豊田章男氏の会長就任」を支持する声が多く、改めて豊田章男氏のリーダーシップを求める声が強かったことが確認されています。
なお、この決議は大枠だと「気候変動に対する取り組み」に関するもので、トヨタの年次総会では約20年ぶりに行われた株主提案だとされ、その中に含まれる豊田氏の会長職に対する反対票への投票勧告は、名目上は取締役会の独立性の欠如に関連しているものの、実際には豊田章男氏の”電気自動車に対する懐疑的な考え方”に起因しているというのが大方の見方です(つまり、豊田章男氏を排除したかった)。
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米助言会社、グラスルイスが「豊田章男氏の会長就任に反対票を投じるよう」株主へとアドバイス。「トヨタの取締役会は独立性に欠けている」
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正直、トヨタほど判断に迷う会社も珍しい
なお、トヨタは世界ナンバーワンの自動車メーカーでありながらも、外部から見た判断(評価)が非常に難しい会社です。
表面だけを見ると「EVへの取り組みが遅れている、スポーツカーや大きなSUVを作って環境に配慮していない」と多くの人の目に映っていて、実際に販売するEVの車種は驚くほど少なく、しかも性能的にも大きく見劣りします。
よって「トヨタはEVに対して真剣ではない」と捉えられても仕方がない状況でもあるのですが、トヨタとしては「より大きな視点で環境を捉えた場合、EVよりもハイブリッドカーを生産するほうがより改善効果を期待できる」という主張を持っていて、これについては一定の理解が可能であるとは認識しています。
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トヨタがディーラーに対して「なぜトヨタはEVシフトを行わないのか、そしてなぜハイブリッドが優れるのか」を通知した文書がリーク。その内容が「もっとも」すぎた
| たしかに「EV一本に賭けた」自動車メーカーはこの先大きなリスクに直面することになるのかもしれない | とくに普及価格帯のクルマを販売する場合、EVシフトは中国の自動車メーカーとの厳しい競争に直面す ...
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ただ、トヨタがどう主張したところで、EVへの対応遅れについては実際の「(EVの)販売低迷」となって数字が出ているのが現実であり、しかしこれについては2つほど思うところがあって、一つは「トヨタのEVへの出遅れは、(意図したものであろうと、そうでなかろうと)長期的に見て正解であったのかもしれない」ということ。
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日本の自動車メーカーは中国でのEVシフトに乗り遅れ、そのシェアが4年連続で減少中。日産は45%、ホンダは38%、マツダは66%、トヨタは14%の販売減少
| おそらくはフォード、GM、ステランティスなど「普及価格帯」のクルマを販売するメーカーも同様だと思われる | これからの中国市場では外国の自動車メーカーが「中国のメーカーを追う」立場に さて、先日開 ...
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現在、フォルクスワーゲン、GM、フォード、ステランティス、メルセデス・ベンツ、BMWなど、ほとんどの自動車メーカーがEVに対して積極的に取り組んでいるものの、これらは現在のところ世界市場ではテスラ、中国市場においては中国のEVメーカーに対抗できておらず、よって赤字を垂れ流しているだけであるとも報じられます。
そして、現在中国にてEVの販売が思惑通りに進まない理由としては、そのコスト、さらにはクルマのとしての捉え方(既存自動車メーカーは、ガソリン車を電動化するという考え方であるが、中国の新興EVメーカーは、スマートフォンを自動車の形にしている)にもあるという指摘も。
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中国では4月だけで20ものEVが発売されている!もはや世界中の自動車メーカーはこの速度について行けず、家電同様に「世界中のEVが中国製」となる懸念も
| おそらくは海外の自動車メーカー含め「ほとんどのEVは中国で製造され、世界中へと輸出」されることになるだろう | 家電や電子機器同様、この流れを避けることは難しいものと思われる さて、中国では「販売 ...
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つまり、既存自動車メーカーは、あまりに早くEVに取り掛かってしまったため、初期の、かつ過渡期の技術を使用することになり、設計や製造における効率化が十分でないままにEVを発売したので(その道で十分なノウハウを持つ)テスラにコストで対抗できず、そしてEVの(消費者からの)捉えられ方についても正しく認識する時間がなかったために(そもそも中国の自動車メーカーがそういった需要を発掘するまで、このような嗜好は潜在化したままだった)今までの自動車と同じ感覚でEVを作ってしまったわけですね。
そして、すでに大量のコストを投じてしまったため、ここからの方向転換はかなり難しく、しかし思い切って「リブート」したのがBMWであり、これは2024年に発表される(発売は2025年)ノイエクラッセにてなんらかの成果を期待できるかもしれません。
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BMWが2025年に発売する新シリーズ「ノイエクラッセ」の情報続々!「エアロダイナミクスは現行車種に比較して25%向上」。そこまで改善余地があったことにむしろ驚く
| おそらくガソリン時代にはエアロダイナミクスよりも優先すべき課題があり、そこに手を付けなくとも燃費改善ができたものと思われる | 様々な情報を総合すると、ノイエクラッセはかなり画期的なクルマとなりそ ...
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ただ、方向転換が難しいくつかの自動車メーカーは本末転倒な対策を講じており、これがぼくの思う「2つ目」。
この対策がどういう内容かというと、「EV事業での赤字が大きく、改善の見込みが立たないので、すでにシェアを持っており利益を確保できるガソリン車を作らねばならない」、しかも利益単価の高い「大きなSUVや、トラックを作って販売し、EVでの赤字を埋める」というもの(GMはこれについて言及している)。
「EVが売れないのでガソリン車(しかも効率に劣る大きなクルマ)を作る」というのは明らかに本質からかけ離れた行為でもあり、環境に対しても配慮に欠ける戦略だとも考えられ、ここは早晩問題となってくるかもしれません。
つまり、一部の自動車メーカーは「環境改善に真剣に取り組み、EVシフトを図る」としながらも、実際にそういった「環境への取組」はポーズでしかなく、結局は利益のために動いている、ということになりそうです(営利企業なので仕方がないけれど)。
トヨタの行動には一貫性がある
そこでトヨタについて考えてみたいと思いますが、トヨタは「出遅れた」反面、EVに対する累積投資が少なく、かつEVに関する投資の多くは既存のハイブリッドカーの開発・製造とリンクしており、さらに「DIRECT4」はEVにも使用でき、かつハイブリッドにも活用できる技術です。
つまり、トヨタはライバルのように「EVの開発・製造に関し、経営を圧迫するほどの資金を投入していない」とも考えられるわけですね(投入した金額は大きいが、既存の基盤であるハイブリッド分野にも役に立つ内容の投資である)。
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そして、ライバルたちが投じた資金は(現時点では)とうてい回収できておらず、しかもBMWのようにどこかでドラスティックに入れ替えないとテスラや中国の新興EVメーカーに対抗できるレベルにあるものではなく、よって思い切って「投資済みの技術や設備を捨てねば」ならないかもしれません。
一方、トヨタについては、まだそこまで「EVに本腰」ではなかったので、サプライヤーや工場を「EV生産に向けてトランスフォームしていなかった」とも考えられ、よって「捨てる」ものはそこまで大きくない可能性がありそうです(しかも、他社にはない”ハイブリッド”事業でそのコストの多くを吸収できる)。
ただ、それでもトヨタは「これまでのEV計画では、この先テスラや中国勢に太刀打ちできない」と判断して早々に対策チームを立ち上げ・・・。
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こういった出遅れについて、トヨタはこういった状況をあらかじめ予見しており、(主に技術的な)機が熟すまでEVに対する本格投資を控えていたというのは少し考えすぎかもしれませんが、事実、「結果として」トヨタにとって大きなチャンスが生まれたことは間違いありません。
つまり、トヨタは「仕切り直し」によって数年後には高い競争力を持つEVを発売し、現在のガソリン車同様に大きなシェアを獲得するチャンスがあるものの(もちろんそれは確実ではない)、ライバルたちがそのチャンスを掴むには(すこし違う方向へと進みすぎてしまったため)後戻りが必要で、よってトヨタは新時代のEVレースにおいて、少なくともいいポジションを確保したとも言えそうです。
そしてもうひとつ重要なのは、トヨタは「EV事業の赤字を埋めるために(SUVやトラックなどの)ガソリン車を大量に作って販売する必要はなく」、というのもEV事業への投資範囲が限られ、かつその投資内容はトヨタの基幹でもあるハイブリッドにも転用できるためであり、そして大量にハイブリッドカーを販売することで環境改善効果も期待でき、となると、世間で言われている「トヨタはEVに真剣に取り組まず、EVの販売台数も少ないので環境に対してフレンドリーでない企業である」のとは全く逆ということになり、むしろ(EV専業メーカーであるテスラなどを除けば)EVを我先にと発売したライバルメーカーのほうが「環境を破壊している」ということにもなりかねません。
そう考えると、これまでトヨタに対して下してきた評価を180度変える必要があるとも考えていて、しかしトヨタも(あくまでも今の段階では)「テスラの後を追っている(つまりテスラを目標としてベンチマークしている)」ことからテスラ以上の革新性を発揮できるかどうかはちょっと不明(テスラを目標とする以上、テスラの先に行くことは難しい)。
そして追われる側のテスラや中国のEVメーカーは「追ってくるものがあれば、もっと速い速度で先に行く」ことも考えられ、ここからのEVレースはちょっとした見ものかもしれませんね。
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