| ルシードはテスラをターゲットとするのではなく、フィスカーやリビアンのように「わが道を」行くべきであった |
数年前のEV市場はチャンスに溢れており、にもかかわらず市場創出ではなく「売れ筋」を追いかけたことが災いか
さて、かつて「テスラのライバル」と言われた米ルシード(ルーシッド)の減速が鮮明に。
ロイターが報じたところによると、ルシードは第3四半期に1,550台を生産し1,457台を納車したそうですが、納車台数こそ前年同期の1,404台から(わずかに)増加したものの、生産台数は前年同期の2,173台から大幅に減少しています。
加えて、このペースだと「年間1万台」としていた目標台数に達することは非常に難しく、この報道を受けて株価は約25%も下落することに。
ルシードは1台あたり5070万円の赤字を出している
さらにロイターはルシードにつき、「1台販売するにつき、338,000ドル(現在の為替レートにて5070万円)の損失を出している」ともレポートしており、これはフォードの「450万円」、リビアンの「442万円」と報じられた赤字額に比較してまさに「桁違い」。
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なお、フォードは「儲からない」EVよりもハイブリッドに注力することで収益を改善する計画を発表し、リビアンは生産台数を伸ばすことで着々と赤字を削減しつつあるものの、ルシードの場合は今後赤字を縮小したり収益率を改善する見込みは立っておらず、このままだと債務不履行に陥ると見られています。
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ルシードはテスラを退社したメンバーが中心となって設立した米EVスタートアップですが、当時テスラの主力車種はモデルSであったため、ルシードはモデルSをターゲットとしてモデルSを超えることを目標に車両を開発し、それが現在生産されている「エアー」。
ただし計画開始当初から数年経った今、EVの主力はモデルSが属するセグメントではなく「もっと低いポジション」へと移ってしまい、実際にこの間にテスラはモデル3とモデルYを発売して完全に主戦場を移しています。
ルシードがここから立ち直ることは非常に困難である
その結果、モデルSについては(フェイスリフトを行ったにも関わらず)2023年上半期で(前年から半減した)9,743台にまで落ち込んでおり、つまりこのセグメントはすでに(ポルシェ・タイカンやメルセデス・ベンツEQSなどの参入によって)レッドオーシャン化しており、かつ顧客も別のセグメントへと流出しているため、もう将来性がないと言っていいかもしれません。
反面、リビアンは(当時)当時誰も手を付けなかった「エレクトリックピックアップ」という新境地を切り開いており、そこで自身の生息域を確保する一方、着々とそのエリアを広げているわけですね。
しかしながらルシードはこの「将来性のない」マーケットを”未来だと信じて”やってきたがために苦境に立たされているのが現在の状況で、(世界中で車両を販売している)テスラですらモデルSを年間2万台売れるかどうかという中において、ほぼ北米でしか展開していないルシードが1万台のエアーを売ることは非常に困難だと思われます。
実際のところファースト・アメリカン・トラストのジェリー・ブラークマン最高投資責任者(CIO)は「ルシードは、今年1万台の生産を達成するのに必要なペースを大幅に下回っており、そのために赤字が続いている。販売台数が大幅に伸びたことを示せるまで、株価は低迷を続けるだろう」とコメントしており、2022年に自動車メーカーのCEOの中ではもっとも高給取りであったとされるピーター・ローリンソン最高経営責任者(CEO)の報酬に影響が出るのは間違いなさそう。
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しかし、ルシードにはいくつか期待できる材料もあり、ひとつは11月にも新型SUV「グラビティ」が発表されること(ただしこれも競合が非常に多く、ルシードは人気マーケットを追いかけすぎたがために自身を窮地に追い込んだ感がある)。
加えてアストンマーティンとの提携、さらにはサウジアラビアの公的投資ファンドの支援もあり、「もう少しの間は」生きながらえることができるものと思われ、そしてこの間になんらかの抜本的な対策を行わねば「そのまま赤字を垂れ流して倒産」の憂き目を見ることになりそうです。※ルシードは11月7日に決算発表を行うが、一波乱ありそうだ
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参照:Bloomberg