| フェラーリSP30は縁起が良くない個体ではあるが、唯一入手可能なワンオフモデルでもある |
フェラーリのワンオフモデルはデザイン面において重要な役割を果たしている
さて、これまでに4度売りに出されたことがあるフェラーリのワンオフモデル「SP30」。
今回ボナムズが開催したオークションにて2,296,000ドル(現在の為替レートでは約3億5120万円)という高額にて落札され、新たなオーナーを見つけることに成功しています。
このSP30は、フェラーリが上位顧客のためにそのデザイン含め「完全なる個別の仕様」にて製作する”フオーリ・セリエ”プログラムを通じて納車されたもので、ベースは599GTO、搭載されるエンジンは6リッターV12(670馬力)、ボディカラーはロッソ・フオッコ、インテリアにはグレーのアルカンターラという仕様。
走行距離はわずか121マイル(つまりほぼ新車)、そして整備記録や専用のラゲージセットも付属しており、非常に高いコレクション価値を持つと考えて良いかと思います。
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フェラーリはもともと「顧客向けのワンオフ」を多数製作している
なお、ワンオフモデルの歴史を語るうえで外せないのが「近代のフオーリ・セリエの前」にあったフェラーリ初期のコーチビルド。
フェラーリ黎明期から1960年代にかけては顧客の要望にあわせてボディ形状を変更する例が少なくはなく、よってピニンファリーナ、ギア、ベルトーネ、ザガート、ボアノ等のカロッツェリアによる様々なワンオフ、もしくは極めて少ないバージョンのフェラーリが存在します(さらにその前の時代では、自動車メーカーは車体とエンジンを作り、購入者がボディを別に発注するのが常であったが、その名残といえるかもしれない)。
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これらはフェラーリが公式に行う場合もあればそうでない場合もあり、しかし1970年代にフィアットの管理下に置かれるに際して合理化が押し進められ、いったんここでフェラーリの(手間がかかる)ワンオフあるいはビスポークの可能性が消滅してしまうわけですね。
しかしながら転機が訪れたのがその後の1980年代で、そのきっかけは「ブルネイ王室」。
御存知の通りブルネイ王室は「他にはない」フェラーリをオーダーするための経済的な余裕があり、ここでその要望に応えるためのオーダーメイド部門が”秘密裏に”設立されたといい、ここでフェラーリはセダン、カブリオレ、シューティング ブレークなどの特別なフェラーリが作られることとなるわけですね。
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もちろんこれらについてはフェラーリが直接製造するものもあればピニンファリーナのようなカロッツェリアが製造する車両もあり、しかしピニンファリーナが手掛けたものであっても当時フェラーリが発行した年間に収録されていたというので、つまり「フェラーリは無関係ではない」ということもわかります。
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しかしながらその後、ブルネイ王室からのオーダーが徐々に減ることになり、フェラーリはこの「失われ行く利益」をカバーするために重要顧客のみを対象としてワンオフモデルの製造を開始することになり、これが近年におけるフオーリ・セリエのはじまりと言って良いかもしれません。
ここで作られた最初のワンオフモデルは著名コレクターであるピーター・カリコウ氏の依頼によるもので、これは612 スカリエッティを大幅に改装した「612カッパ」。
これによってフェラーリは大きなビジネスチャンスを感じ取り、そこで「秘密裏に」活動していた特別モデル(フオーリ・セリエ=シリーズ外)部門を正式に表舞台へと引っ張り出すことになるわけですが、ここではエリック・クラプトンのために製作されたSP12 EC、P540 スーパーファスト アペルタなどが送り出され、これが現代のワンオフモデルへとつながっているわけですね。
フェラーリ SP30は謎が多い
そして今回オークションにて提供された「SP30」と呼ばれるワンオフモデルは、特別プロジェクトの車両の中でも最も謎めいたものの1つだとされ、 2011年に発売された際にいくつかの初期報道が行われた後、表舞台からいっさい姿を消してしまいます。
このSP30はアラブ首長国連邦に拠点を置くインド出身の石油化学業界の大物、チアラグ・アリヤ氏がオーダーしたもので、しかし引き渡し後間もなく、大規模な財政破綻をめぐって現地当局と衝突し、このSP30が差し押さえられてしまうことなるのですが、(チアラグ・アリヤ氏は逃亡)、その後負債が清算されるに際し、このフェラーリSP30は米国に輸入され、そこからはずっと米国にて保管され、2018年9月、2019年1月、2020年10月、2024年2月にも売りに出されていたわけですね。
その外観は完全に独自のデザインを持つもので、ヘッドライトは458イタリアから、ウイングレットとエアロパーツは599 XXにインスピレーションを得たもの、そしてここで採用されたいくつかの新しいディティールは後のF12tdfやポルトフィーノ、812コンペティツォーネへと受け継がれており、この頃から「ワンオフモデルで採用された意匠がのちの市販モデルに反映される」という伝統がスタートしたのかもしれません。
こういったワンオフモデルについては、フェラーリのデザイナーが資金的制約を気にせずに思う存分クリエイティビティを発揮し、そこで実現可能性を立証した後に市販モデルへとそのデザインを用いるというサイクルを確立するための重要なモデルだとぼくは捉えており、XXモデルが機能面において同様の役割を果たしているとすれば、ワンオフモデルはデザイン面においてXXモデル同様の役目を担っているとも考えることが可能です。
一方でインテリアは(ほかのワンオフモデル同様)ベースモデルの持つ形状を色濃く残していて、しかし使用される素材やカラー、エアコン吹き出し口のフィニッシュなどでその存在感をアピール。
出品時の記載によれば、2022年にイリノイ州レイクブラフにあるフェラーリ レイクフォレストによって整備されたことが示されており、その作業内容はエンジンオイル交換、タイミングベルトの交換、オイル/ウォーターポンプアセンブリやシールの交換等であるとされ、いつでも走り出せる状態にあるようですね。
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参照:Bonhams