
| 「AMG」はもともとメルセデス・ベンツとは異なる別会社である |
さて、メルセデス・ベンツのハイパフォーマンスブランド「AMG」。
BMW「M」、アウディ「RS」、ポルシェ「GT」、レクサス「F」、スバル「STi」、最近だとヒョンデ「N」やジェネシス「マグマ」といった高性能を示す文字列ですが、今回は「AMG」の意味、歴史について掘り下げたいと思います。
AMGとは?|メルセデス・ベンツのエンジニアによって設立される
ほとんどの自動車メーカーに、高性能モデルを手がける専用のパフォーマンス部門があり、そして上述の通りメルセデス・ベンツでそれに該当するのが「AMG」。
AMGは、もともと独立したチューニングメーカーであったものの、現在はメルセデス・ベンツの高性能モデルを手掛けるサブブランドとなっています。
AMGの創設と初期
AMGは、1967年にハンス・ヴェルナー・アウフレヒト(Aufrecht)とエルハルト・メルヒャー(Melcher)の2人のエンジニアによって設立され、「G」は、アウフレヒトの故郷であるグロースアスパッハ(Großaspach)に由来しており、ドイツらしい合理的な命名がなされていることがわかりますね。
- A:ハンス・ヴェルナー・アウフレヒト(Aufrecht)
- M:エルハルト・メルヒャー(Melcher)
- G:アウフレヒトの出身地「グロースアスパッハ(Großaspach)」
もともと彼らはダイムラー・ベンツ(当時のメルセデス・ベンツ)のレース部門で働いていたのですが、ダイムラー・ベンツがモータースポーツ活動を中止したため、自分たちの情熱を追い求めるために独立を決意。
設立当初はレーシングエンジンの開発とテストを行うエンジニアリング会社としてスタートしています。
モータースポーツでの成功
AMGが一躍その名を世界に知らしめたのは、1971年のスパ・フランコルシャン24時間レース。
彼らがチューニングした「メルセデス・ベンツ 300 SEL 6.8 AMG(通称 "レッド・ソー")」がクラス優勝、総合2位という驚異的な成績を収め、その技術力の高さを証明することとなり、1980年代後半には、AMGはダイムラー・ベンツと提携してオフィシャルレーシングパートナーとしてドイツツーリングカー選手権(DTM)に参戦。
1988年から1993年の間に実に50勝を挙げるなど、圧倒的な強さを見せつけることとなり、この成功が両者の関係をさらに密接なものへと発展させることとなるわけですね。
また、1986年には「AMG 300 E 5.6」が最高速度303km/hを達成し、アメリカでは「The Hammer(ハンマー)」というニックネームで呼ばれ、世界中でその性能が称賛されるとともに、その活動の場を世界へと広げます。
メルセデス・ベンツとの統合
1990年、AMGはダイムラー・ベンツと協力協定を締結し、大きな転換期を迎えますが、この頃には販売網も世界中に広がっていて、従業員も400名を超えるという大規模な会社へと成長。
Image:Mercedes-benz
参考までに、ダイムラー・ベンツと協業を行う前には他社とのコラボレーションを行っており、三菱 デボネアAMG(1986年)、三菱 ギャランAMG(1989年)といったクルマも登場し、これらは「(メルセデス・ベンツ傘下となった)今となっては二度と実現しない、幻のクルマ」として知られています。
そして1993年には、メルセデス・ベンツとの初の共同開発モデルである「メルセデス・ベンツ C 36 AMG」を発表し、これは、AMGが量産車の生産に本格的に乗り出すきっかけに。
1999年には、ダイムラークライスラーグループ(当時)がAMG社の株の過半数を取得していますが、この時点でアウフレヒトは自社株を手放し、モータースポーツ部門と一部のスペシャルモデルの開発を担うH.W.A. GmbH(現在のHWA.AG)を独自に設立。
こちらは現在もモータースポーツ活動を行う傍ら、「アポロ・インテンサ・エモツィオーネ」や「デ・トマソ」など少量生産ハイパーカーの開発や生産を受託するなどのビジネスも手掛けており、AMGに負けぬ発展を遂げていると言われています。
Image:De Tomaso
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そして2005年、AMGはダイムラーの100%子会社となり、現在の「Mercedes-AMG社」が設立され、これによりAMGはメルセデス・ベンツの高性能部門として、その地位を確固たるものにしています。
なお、同様の例は少なくはなく、ミニは「JCW」を、BMWは「アルピナ」を、ベントレーは「マリナー」、ポルシェは「マンタイ・レーシング」を買収し、それぞれの事業展開を拡大する一つの手法として活用していることでも知られていますね。
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AMGのエンブレムの意味とは?
AMGのエンブレムは、その歴史と哲学が凝縮されたデザインとなっており、いくつかの意味が込められていますが、ここでその構成、それぞれのパーツが表す意図を見てみましょう。
Image:Mercedes-Benz
エンブレム全体の構成と意味
- 月桂樹(外側の縁取り): エンブレム全体を囲む月桂樹の葉は、モータースポーツにおける「勝利」と「名誉」を象徴しています。
- これは、AMGがレース活動や高性能車開発において築き上げてきた輝かしい実績と、今後も勝利を追求し続けるという強い意気込みを表しています。
左右に分かれた中央部の意味
エンブレムの中央部は、左右で異なるモチーフが描かれており、それぞれの意味は以下の通り。
- 左側:リンゴの木と川
- これは、AMGの本拠地であるドイツの「アファルターバッハ (Affalterbach)」の地名に由来しています。「アファルター (Affalter)」はリンゴの木、「バッハ (Bach)」は小川を意味しており、この地でAMGの高性能エンジンが生み出されていることを示しています。
- 右側:カムシャフトとバルブ
- これは、AMGが誇る「卓越したエンジン開発技術」と「精密なものづくり」を象徴しています。高性能なエンジンを生み出すために不可欠な部品であり、AMGのエンジニアリングに対するこだわりと情熱を表しています。
こうやって見ると、AMGのエンブレムは、単なるブランドロゴではなく、創業者の情熱、本拠地への愛着、モータースポーツでの勝利への追求、そして卓越したエンジン開発技術という、AMGのDNAそのものを表現していることがわかりますね。
Image:Mercedes-Benz
現在のAMG
メルセデス・ベンツのサブブランドとなってからも、AMGの「One Man, One Engine(一人のマイスターが最初から最後まで1基のエンジンを手作業で組み上げる)」という哲学は受け継がれ(ただし一部モデルでは現在これが失われている)、2009年には、AMGが初めてゼロから開発したモデルとして、往年の名車300 SLをモチーフにした「SLS AMG」を発表。
さらに2014年には「メルセデスAMG GT」を発表するなど、独自のスポーツカー開発も積極的に行っています。
AMGは「もともとはメルセデス・ベンツを中心としたチューナー」で、しかしその技術力を認められてメルセデス・ベンツと提携を行うようになり、その後は本家メルセデス・ベンツに組み入れられるといった歴史を持っていますが、創業以来55年以上にわたり、パワー、パフォーマンス、ドライビングダイナミクスを追求し、モータースポーツで培われた技術を市販車にフィードバックするという姿勢は変わっておらず、いまもメルセデス・ベンツのスポーティな分野を牽引し続けています。
参考までに、以前は「メルセデス・ベンツ AMG」として展開されていたものの、現在ではより明確に差別化するために「メルセデスAMG」というブランド名でラインアップされており、これは「メルセデス・マイバッハ」と同じように「サブブランド展開を行うことで、それぞれのキャラクターをより際立たせる」という戦略に基づくもの。
現在のAMGラインアップ間での違いとは?
そしてこの「際立つキャラクター」をもってメルセデス・ベンツは新しい展開を行っており、いまではこの「AMG」の名が最大限に活用されていて、同じAMGであっても以下のような相違も存在します。
1. AMGライン(AMG Line)【ルックスがAMG的に変更されたスポーツ仕様】
「AMG」と名がついていても、すべてが高性能というわけではなく、この「AMGライン」はあくまで「見た目をスポーティにするパッケージ」。
性能はノーマルモデルと同じで、ホイールや内装、バンパーなどがスポーティな外観へと変更されています。※レクサスの「Fスポーツ」、BMWの「Mスポーツ」のような感じ
2. AMG 43/AMG 53シリーズ【中間グレード】
次に位置するのがAMG 43/53モデル。
これらはAMG 63モデルの外観や足回りを取り入れつつ、エンジンは少し控えめ。とはいえ、一部モデルは「ワンマン・ワンエンジン」方式で手作業で製造されているため、本格的なAMGの魅力を味わえます。
Image:Mercedes-Benz
3. フルAMG(AMG 63/45など)【真のAMG】
これこそが本物のAMGモデル。たとえば以下のようなモデルが該当します。
- AMG CLA45
- AMG C63
- AMG E63
- AMG GLS63
これらはすべて手作業で作られたハイパフォーマンスエンジンを搭載し(ときにはトランスミッションすらベースモデルからの変更を受けている)、サスペンションも専用チューン。
内装やエクステリアにも専用デザインが与えられ、価格も性能もトップクラスに位置します(Sクラスだとマイバッハよりも高価である)。
さらに現在では「AME One」などのハイパーカー、「ピュアスピード」のような少量生産モデルの展開を行っており、「電動ハイパーカー」の発表も予告されているといった状況です。
Image:めrせでs-Benz
まとめ:AMGはただのエンブレムじゃない
こういった歴史、そして展開を見るに、今や「AMG」という3文字は、単なるサブブランドを超え、性能・デザイン・こだわりの象徴に至ったということがわかるかと思いますが、これはメルセデス・ベンツが「AMG」を強調する傾向にあることからも理解可能。
たとえばAMGモデルではフロントフード上のエンブレムが「メルセデス・ベンツ」から「AMG」へ置き換わり、かつ車体随所に「AMG」を示す意匠が取り入れられているのもその証左だといえるかもしれません。
そしておそらく、今後さらに「AMG」の排他性が強められることは間違いなく、そのエンブレム、「AMG」の3文字が持つ重みが増すこととなりそうですね。
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