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新型カイエンEVは「史上もっとも重い」ポルシェ。それでもポルシェが「重量は気にする必要がない」と語る制御技術とは

新型カイエンEVは「史上もっとも重い」ポルシェ。それでもポルシェが「重量は気にする必要がない」と語る制御技術とは

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| ポルシェが挑む「巨象」の制御術 – なぜEVはガソリン車より軽く感じるのか? |

クルマの中核は「車体制御技術」へ

ポルシェのベストセラーSUVであるカイエンに待望のフル電動モデルが追加され、しかしそのスペックに不安を隠せないポルシェファンも少なくはなく、その理由は「新型カイエン エレクトリック」は、ポルシェ史上最も重い市販車となる見込みだから。

その車重はなんと2,645 kg(約2.6トン)にものぼり、そのうち巨大な113kWhサイズのバッテリー単体では600kgもの重量を占めています。

これは、かつてル・マンで勝利を収めた1951年製のレーシングカー「356 SL」とほぼ同じ重さであるといえば「いかに重いか」がわかるかもしれません。

ポルシェ史上最重量のEVが「軽く感じる」驚きのメカニズム

しかし、ポルシェはこの驚異的な重量について、「ドライバーは全く気にする必要がない」と断言しており、ここではこの「重いのに重さを感じさせない」という逆説的な主張の裏にある、ポルシェの革新的な技術と戦略を考察してみましょう。

  • 驚異の車重: カイエンEVの車重は2,645kg、ポルシェ史上最重量。
  • 重さの根源: 113kWhバッテリー単体で600kg
  • ポルシェの回答: 「ガソリンモデルより軽く感じる」と開発担当副社長が明言
  • 秘密の技術: 低重心化アクティブライドシステムが鍵を握る
  • 意外な利点: EVの瞬発力により、オフロード性能もICEモデルより優れている
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上述の通りカイエン エレクトリックの重量は2,645kg

ガソリンモデルのフラッグシップ「カイエン ターボ(V8エンジン搭載)」の欧州仕様が2,570kgであるため、その差はわずか75kgということになり、ある意味では「EVなのにそれほど重くはない」と捉えることができるものの(ポルシェならではの軽量化技術の評価がわかるところである)、それでも「もっとも重いポルシェ」ということは間違いのない事実です。

しかしその一方、ポルシェのカイエンラインナップ担当副社長であるマイケル・シェッツル氏はこの重量差をものともしない魔法のような技術が存在すると語っています。

低重心化がもたらす運動性能のパラダイムシフト

まずシェッツル氏が強調するのは、バッテリーの配置。

「バッテリーの重量は非常に低い位置にあります。クルマの重心よりも下です。正直に言って、重いバッテリーはクルマのパフォーマンスとハンドリングの向上に役立っています。新しいタイヤ、新しいアクスル、そしてアクティブライドシステムを搭載しています。このクルマは、ICE(内燃機関)モデルよりも軽く感じます

つまるところ重量物を車体下部に集中させることでロールセンターが下がり、カーブでの車体の傾きが抑えられ、これによって(重量物の移動が抑えられるので)ドライバーは実際の重量よりも軽快なフィーリングを得られるというわけですね。

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これは「EV専用設計」ならではの恩恵であり、ガソリンエンジン搭載を前提としたプラットフォーム、そしてPHEVでは得られないメリットということになりますが、さらにポルシェはこれに独自の「アクティブライドシステム」を組み合わせています。

【スペック比較】カイエンEVとV8ターボモデル

そこでガソリン版のカイエンターボそしてカイエン ターボ エレクトリックとを比較してみると、ポルシェがEV化にあたりいかに重量を抑えつつ「EV化をなしとげた」かがわかります。

項目カイエン ターボ エレクトリックカイエン ターボ (V8 ICE)
車両総重量2,645kg 2,570kg
バッテリー容量113 kWhN/A
バッテリー単体重量60 kg N/A
重量差ターボモデルより75kg重いEVモデルより75kg軽い

参考までにですが、ハイパフォーマンスEVというくくりだと、ほかモデルはざっとこういった「重量」を持っています。

BMW XM2,749kg
BMW X72,465〜2,675kg
メルセデス・ベンツ GLS2,540kg
ベントレー・ベンテイガ
2,440kg
ランボルギーニ・ウルス Urus SE2,300〜2,505kg

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ポルシェのアクティブライドシステムとは?

そこで「アクティブライドシステム」について触れておくと、これはポルシェが誇る最新のサスペンション技術で、「4つのホイールすべてに個別の油圧制御システムを搭載し、走行状況に応じて車高や減衰力を瞬時に調整する」というロジックを持っています。

  • ロール制御: コーナリング時に車体が傾くのを積極的に抑制し、フラットな姿勢を維持
  • ピッチング制御: 加速時やブレーキング時のノーズダイブやスクワットを防止
  • 乗り心地向上: 不整地や段差を乗り越える際の衝撃を吸収し、快適性を極限まで高める

簡単に言えば、「EV化によって獲得した強力なエレクトリックパワーにより、その重量を押し戻すほどの力を持つサスペンションを装備した」ことによってその重量を相殺したということになりそうですが、このシステムがあるからこそ、EVの重たいバッテリーを積んでも、スポーツカー並みの俊敏性と快適性を両立できるというわけですね。

なお、こういった車体制御技術は現代の「クルマがどんどん重くなる」環境においては非常に重要な意味を持っており、ちょっと前だとBYDの「ダンスするクルマ」のような”バカにされた”デバイスがクルマを軽く感じさせるのに役立っているということになりそうです。

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EV化で進化するオフロード性能と市場のリアル

さらにシェッツル氏は、カイエンEVはオンロードだけでなく、オフロード性能においてもICEモデルを凌駕すると主張していますが、これはマカンEVが発表されたときと同様のニュアンスです(マカンEVだと、EV版はガソリン版に比較して20倍の速度でのアクセルに対する出力の調整が可能だと説明されている)。

EVモーターがオフロードにもたらす恩恵

  • 即座のレスポンス: 電動モーターは、アクセル入力に対して遅延なくトルクを発生させる
  • 精密な電力調整: 悪路でのスリップ状況に応じて、各ホイールへのトルク配分を極めて細かく調整できる

これによってEVは泥道や砂地などでのトラクション制御がICEモデルよりも優れている、としています。

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結論:重量級EVを「ポルシェ」たらしめる技術革新

「ポルシェ カイエン エレクトリック」は、その2.6トンを超える巨体にもかかわらず、ポルシェの代名詞であるドライビングダイナミクスを失うことはなく、その秘密は「バッテリーの低重心化」と、革新的な「アクティブライドシステム」の組み合わせ。

重量を運動性能の「おもり」ではなく、「資産」として活用するポルシェのエンジニアリングの勝利だとも考えられ、「重量に対するパラダイムシフト」の成果であるとも考えられます。

そして今後の自動車業界では、この「重量」をどう扱うかが明暗を分けることになるのかもしれません。

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