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文字どおり跳ね”馬”。車でありながら機械よりも馬に近い、フェラーリ488スパイダーに試乗する

2016/09/26

| やはり新型ターボエンジンの加速感は強烈 |

フェラーリ488スパイダーに試乗。
以前にはクーペ版の488GTBに試乗していますが、今回はそのオープン版の「488スパイダー」に試乗、ということになります。
488スパイダーはトップの開閉機構を持ったり、オープン化による補強のため488GTBと比べると約350万円ほど高価ですが、フロントリフターが標準で装備されるなど、その価格差を埋めるだけの装備も持っています。

フェラーリ488GTBのスペック
全長/全幅/全高:4568/1952/1211ミリ
車両重量:1525キロ
エンジ:3902cc 670馬力
トランスミッション:7速DCT
価格:3570万円

おなじ488でもクーペとは印象が異なる

488GTBのルーフからなだらかなラインをもってテールに繋がりますが、一方で488スパイダーのルーフ後端はリアデッキでいったんストップし(テールまで繋がらない)、かつトンネルバック形状となっているため、クローズド時のボディ形状がクーペ(488GTB)と大きく異なるのが特徴。
そのぶん488GTBのようにエンジンルームおよびエンジンを外から見ることはできませんが、車体上部がコンパクトにまとまっていて、視覚的に低く、かつ安定感があるようにも思えます。
実際のところ488においてはスパイダーの人気が高く、488GTBで今のところ納車までに要する期間は1年7ヶ月、488スパイダーだと2年ほど、とのこと。

内装のフレンドリーさもフェラーリの美点

さて車に乗り込みますが、サイドシルが低く乗りやすいのはフェラーリの美点。
乗降性においては、これだけのパフォーマンスを持つ車としてはずば抜けて良いかもしれません。
シートも申し分なく、硬くも柔らかくもなくぴったり体にフィット。
これだけ違和感を感じさせないシートも珍しいですね。

内装のデザインは独特で、大胆な中にも繊細さ、未来的なイメージの中にもクラシックさや優雅さが感じられるもの。
ただし奇をてらったわけではなく、すべてがよく考えられていて、458から続いて採用された独特のウインカー操作(ステアリングホイールの左右スポークに左/右ウインカースイッチがある)も慣れると非常に使いやすいと感じます。
加えて操作系が特殊な車であるにもかかわらず、何度か操作すればすぐにその操作に慣れてしまうのも面白く、むしろフェラーリのインターフェースが特殊なのではなく、フェラーリこそが「普通」で、普通の車の操作系のほうが特殊で面倒なんじゃないかと思えてくるほど。

このあたり操作ミスや判断ミスが命取りになりかねないF1というカテゴリで競うフェラーリならではの考え方と思われ、なにもかもが直感的に操作できるようになっています。

ステアリングホイールの太さや位置もシート同様にごくごく自然で、ペダル類のタッチもそれは同じ。
ドライバーに違和感を感じさせず、運転のみに集中できる環境が整っていると言えますね(殆どの車は、シートが硬いとか柔らかいとか、ステアリングホイールが太いとか細いとか、回した感覚が重いとか軽いとか、ペダルもやはり重いとか軽いとか感じるもの)。

視界に関して優れるのもフェラーリの優れた点で、フロントやサイドの視認性に優れ(シートポジションが低いにも関わらずダッシュボードが低く見切りが良い)、フロントウインドウがラウンドしAピラーも細いので死角が少なく、ルームミラーからの後方確認も容易。
488スパイダーだとリアクォーターウインドウがないので物理的に不可能ですが、488GTBだとリアクォーターウインドウも実際に後方確認に重宝します。

視認性が良いというのは非常に重要で、なんだかんだで走行時間の多くを占めることになる市街地での走行時に威力を発揮。
運転していて先が見えずに首を伸ばすことも、後ろが見えずに体を捻って後方確認を行う必要もなく、シートにすっぽりと体を収めたまま、その姿勢で前に見えるものだけを頼って運転ができる、ということです。
スポーツカーといえども市街地での扱いに困ると「乗るのが苦痛になる」のは事実で、そうなると自動車に乗る楽しみが半減してしまうのですが、フェラーリV8(ミドシップ)モデルはそういった「苦痛」を全く感じさせない車と言えるでしょう。

ぼくは試乗するときには「実際に自分が買うことを前提に」その車を見るので、直接目に入り手に触れる内装、そして現実的な使い勝手、という部分は非常に気になるわけですね。
そして経験上、運転に苦労する車はどんどん乗る頻度が少なくなり愛着が薄れることも体験しているので、いかにパフォーマンス重視の車であっても乗り心地や扱いやすさは無視できない要素だと考えています(何台も同時に車を保有できる環境であればまた話は別なのですが)。

さてエンジン始動ですが、これもステアリングホイールを握ったまま、左下にあるボタンを押してエンジンスタート。
いつもコーンズさんの試乗においてありがたいと思うのは、試乗する際にキーを渡してくれ、自分で車に乗り込んでエンジンを始動させてくれること。
ディーラーさんによっては(心遣いだと思いますが)エンジンをかけドアを開けて待機してくれているところもありますが、ことスポーツカーに関しては「乗り込むことも含めてスポーツカー」だと考えており、加えてエンジン始動も重要な儀式であるため、こういったコーンズさんの流儀には感心するばかり。

さて実際に走り出しますが、488GTBでも感じたのはまずアイドリングや低速域で静かになった、ということ(フェラーリというと停車時でも音や振動がけっこうある、という印象を持っている)。
F430から458イタリアへモデルチェンジしたときも静かに、そして快適になったと感じましたが、それに輪をかけている感じですね。
上述の通り見切りが良いので下道を走っていても神経をすり減らすような場面はなく、低速時のブレーキフィールについてもスチールローターのようにごく自然です(セラミックディスクブレーキ採用ですが、ローターが冷えていてもコントローラブル)。

下道を抜けて高速に乗り、一気に加速しますが、さすがに670馬力だけあって加速は強烈のひとこと。
このあたりは488GTBで体験済みではありますが、それでも驚かざるを得ません。
ただし今回は多少の「慣れ」もあり余裕をもって運転でき、488GTB試乗の際に気づかなかったこともいくつか。

まずは「エキゾーストのバルブが比較的低回転から開く」ということ。
具体的には3000回転から開くのですが、そのために普通に乗っていてもその快音を楽しむ機会に遭遇することができます。
この「バルブが開く」タイミングが上の方だと、こういったハイパワーな車ではそうそう回転数を上げる機会はなく、そのためになかなかサウンドを楽しむことができないのですが、そこはさすがフェラーリ(わかっている)、という味付けです。
なおこのバルブについてはアクセルを踏み込んだ際にもガバっと開くようで、単に「回転数」だけのロジックで開閉せず、加速しようと思ったときに音と加速がシンクロする、というのは素晴らしいところですね(回転数だけで開閉を制御すると、加速して一定の回転数に達してからサウンドが大きくなるので不自然な場面もある)。

二つめはバブリング。
高回転からアクセルを抜くと発生する音ですが、これは各社各様。
ランボルギーニはNAらしく高い炸裂音が生じ、ジャガーは豪快な雷のようなサウンド。
フェラーリはと言うと「いかにも内燃機関」らしくシリンダー内の圧がエキゾーストから塊となって抜けるような、質量があるものが詰まっていたところを一気に開放されるような、シリンダーからエキマニ、エキゾーストパイプを通って何かが「ズッポン!」と抜けるような重量を伴った音が出ます(もしかすると火を吹いているかも、と思うような音)。
これはなかなかに魅力的で、演出ではなく「必要というか構造上そうなっている」のでバブリングが出る、という感じですね。

三つめはブレーキ/ステアリング/アクセルの操作に対する反応。
これはシート等で触れたのと同様に「全く違和感がない」もので、しかしこういった「違和感がない=人の感覚とズレがない」反応を持つ車を作るのは非常に難しいわけです。
多くの車が加速しようと思ってアクセルペダルを踏んでも思ったより加速しなかったり、逆に一瞬だけ加速してその後は伸びなかったり、ハンドリングに関してもステアリングを切った以上に曲がったり曲がらなかったり、ブレーキについても踏んだ分だけ停まったり止まらなかったり、効きが強すぎたり弱すぎたり。

しかしこのフェラーリ488スパイダーでは「ブレーキを踏んだだけ止まり、アクセルを踏んだだけ加速し、ステアリングを切っただけ曲がる」性質を持っており、これはちょっと文字では伝わらないのが残念。
たとえば人と人との付き合いでも、魅力感じていながらも「一緒にいると緊張する/疲れる」人がいるかもしれませんが、同じように魅力を感じても「一緒にいると安心する」タイプの人がいると思うのですね。
いうなればフェラーリ488スパイダーは後者のようなもので、なにもかも安心できる、といって良いでしょう。

ほか特筆すべき点としては乗り心地。
458世代から大きく乗り心地がよくなっていますが、フェラーリのサスペンションの特徴として「伸び側が長くて強い」というものがあり、そのためにちょっと荒れた路面を通っても(試乗コースの一部は大型トラックのよく通るところで、轍も多かった)ボディがシェイクされることはなくフラットな姿勢を保ちます。
また記憶の範囲内でしかありませんが、ロール、ピッチともに抑えられているようで、にもかかわらず458よりも乗り心地が良くなっているようですね(458は思いっきり加速するとけっこうノーズがリフトした印象がある)。
先日試乗したマクラーレン540Cも非常に乗り心地の良い車でしたが、さらにその上を行っていると断言できます。

シフトについては458よりもアップ側、ダウン側ともに30-40%ほど速度が向上しており、通常はシフトショック皆無ながらも回転数によってはガッツンガッツンつながるようになったので、「いかにもシフトチェンジしている」感が出て高回転での運転が楽しくなっているように思います。

触れておかねばならないのは、ありふれた表現ですが「人車一体感」で、これはぼくが今まで試乗した車の中では間違いなくトップ。
フェラーリはターボラグに関してもギア比や回転数に応じて微妙に過給圧を変化させたり、以前には心拍数を検知してその時のドライバーに合った車両制御(電子的な介入度合いの決定)の研究を行うなど、とにかく「人と車とのコミュニケーション」を大事にするメーカー、という印象があります。
それが上述のようなシートやステアリングホイールの自然さ、各部のタッチの自然さにつながっているのだと思いますが、感覚的な部分においても加速したいときに音と速度が一致したり、操作と反応がイコールだったり、というところにもその考え方と技術を見て取ることができます。

おそらくは殆どのメーカーがこういった「自然さ」「人の感覚に近い操作感、車体の動き」を目指しているのだと思いますが(反面、意図的に違和感を持たせて特定の印象を与えようとするメーカーもある)、実際にそれを実現できるのはフェラーリや、ほか少数のごく限られたメーカーのみ、というのが「それがいかに難しいことか」を物語っているようには思います。
乗り心地の良さを表現するのにシートのみを柔らかくするメーカーもありますが、フェラーリはボディ剛性やサスペンションという「車の構造そのもの」でそれを表現しており、速さを表現するのも低いギア比と急激な加給でそれを表現するメーカーがあるもののフェラーリは「フィーリング/扱いやすさ」にこだわっている(実際に速いので、あえて速さを強調する必要もない)と考えられ、根本からして目指しているところがほかのメーカーと異なり、それがモータースポーツと直結している、というのがフェラーリの魅力なのでしょうね。

なおポルシェだと「アクセル、ブレーキ、ステアリングなどの操作を行ったら、それに正確に反応する」というのがぼくの認識ですが、フェラーリの場合は「アクセル、ブレーキ、ステアリングなどの操作を行うと、それと”同時に”反応する」という印象を受け、その「タイムラグ”ゼロ”」の反応に驚くわけです。
かつ、あまりにその反応がぼくの意図する通りのものなので、「この車は自分が次に何をするか、何をしたいのかを予め知っている(いた)んじゃないか」と思えるほど。
もちろんそんな訳はないのですが、たとえば馬に乗っていて優れた馬が自分の考えていることを察知し、なんらかの手綱などの操作に対して「待ってました」とばかりに意図したとおりの動きをする、というようなイメージです。

よってポルシェが「精密極まりない機械」だとするとフェラーリは「人の心がわかる名馬」だと感じ、文字通りフェラーリは馬なんだなあ、と改めて今回の試乗で感じた次第。

なお試乗中にルーフはずっと開けたままでしたが、風については意識しなかったので、おそらくはほとんど風の巻き込みや進入はなかったものと思われます(本当に気にならなかった)。
この電動格納式ハードトップは14秒で開閉が終了し、時速45キロまで作動させることができるようですね。

フェラーリは年々、そしてモデルを追うごとに快適かつ乗りやすくなっていると思いますが、逆に内装はどんどんエキゾチックになっているよう思います。
さらには純正オプションによるカスタムにて選択できる範囲や部位/素材が多く、「刺激的すぎる内装」を選択するのも可能。
よって、「快適なのに目に入るもの、手に触れるものはスーパー」な車を作ることもでき、「ゆっくり乗っていても、渋滞したとしても楽しく満足感を得られる車」にすることもできるわけですね。

今回試乗させていただいたのはコーンズさんの大阪・南港ショールームにて。
ここはサービス拠点としても有名で、数々のヒストリックカーの他希少なモデルが入庫もしくは展示されています。
納車待ち?のロールスロイスが非常に多く、ぼくのウラカンと比べるとロールスロイスは非常に大きく見え、またウラカンが小さく見えるのが非常に面白いですね。

末筆になりましたが、コーンズさんには感謝いたします。

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