
| 現在、中国では「ポップアップ式ドアハンドル」に関する規制が進んでいるが |
この記事の要約
- 衝撃の調査: 過去10年のテスラ車火災事故を調査した結果、ドアが開かなかったことが原因で少なくとも15名が死亡
- 増加する悲劇: 15名の死者のうち、8名以上が2024年11月以降に亡くなっており、事故が急増している
- 物理的な罠: 電子スイッチが電源喪失で無効化。手動レバーはカーペットの下やスピーカー裏に隠され、パニック時に見つけるのは不可能に近い
- テスラの対応: 批判を受け、デザイン責任者が「電子と手動を一体化させた新型ハンドル」への設計変更を明言
なぜテスラのドアは「開かない」のか?
テスラの象徴的な「フラッシュハンドル(埋め込み型)」や「電子式ボタン」は、見た目の美しさと空力性能には優れていますが、非常時には一転、「牙を剥く」装備であることが明らかに。
1. 12Vバッテリーの死角
テスラのドアロックは電気信号で動いているため、激しい衝突でフロントにある12Vバッテリー(電装系電源)が損傷したり切断されたりすると、電子スイッチが一切反応しなくなる
2. 「隠しコマンド」のような手動レバー
テスラにも物理的な手動レバーは存在するものの、その配置が問題視され、煙が充満し、炎が迫るパニック状態において、これらの隠されたレバーを見つけ出し操作することは極めて困難である
- モデルS: 後部座席のレバーは足元のカーペットの下に隠されている。
- モデルY: 後部座席のレバーはドアポケット底のプラスチック蓋を外した中にある
- モデル3: 窓のスイッチのすぐそばにあるが、ラベルがなく「窓を開けるスイッチ」と誤認しやすい
生々しい証言:Apple Watchが捉えた最後の叫び
今回ブルームバーグが公開した記事では2024年にウィスコンシン州で起きたモデルSの事故についても触れられていて、ここでは犠牲者の一人が装着していたApple Watchが自動で911(緊急通報)へのコールを行い、録音された音声に(炎が迫る中で)「閉じ込められた!出られない!」と叫ぶ乗員の悲痛な声が残されていた、とのこと。
また、バージニア州の事故では、駆けつけた警察官が外からドアを開けられず、窓を叩き割ってようやくドライバーを救出するという緊迫した状況がボディカメラに記録されており、このドアハンドルに起因して「救助が遅れる」「それによって死者が出る」のは間違いのない事実であるもよう。
業界の動向:テスラがようやく認めた「設計ミス」
これまで「自社車両は世界一安全だ」と主張してきたテスラではありますが、当局(NHTSA)の調査や相次ぐ批判を受け、ついに重い腰を上げたというのが直近の状況で、2025年9月、テスラのデザイン責任者フランツ・フォン・ホルツハウゼン氏は、「電子ボタンと手動レバーを一つに統合した、新しいドアハンドルの設計に取り組んでいる」と語っています。
「パニック状態でも、筋肉が記憶している通りにレバーを少し強く引くだけで、物理的に開錠できる仕組みが理にかなっている。」
フランツ・フォン・ホルツハウゼン
これは、すでにアウディやレクサスが採用している「e-ラッチ(電子と物理の併用)」に近い仕組みになると予想されていますが、実際に採用されるのは「モデルYをベースにした市販版ロボタクシー」からとなるのかもしれません(あるいは、中国の規制に対応する形で既存モデルにも順次導入されるか)。
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中国、ドアハンドルの新基準案を公表:事故時の「物理的な開閉」を義務化し「事実上」ポップアップ式は禁じ手に
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結論:今すぐできる対策
このニュースは、テスラオーナーだけでなく、電子ドアを採用するすべてのEV・高級車オーナーへの警鐘となるもので、自身及び乗員の命を守るため、日頃から何らかの準備を行っておく必要がありそうです。
- 手動レバーの場所を「今すぐ」確認する: 納車時に説明を受けなかったとしても、マニュアルを読み、目を閉じてでも操作できるように練習しておくことが好ましい
- 緊急脱出用ハンマーの常備: ドアが開かない場合に備え、サイドウィンドウを割るためのハンマーを、運転席から手が届く範囲(コンソールボックス内など)に固定して設置することが推奨される
デザインか、命か
「ドアハンドルを隠す」というテスラが始めたトレンドにては多くのメーカーが追随し、しかし、緊急時の「脱出しやすさ」という基本をおざなりにしたデザインは、もはや許容されない段階に来ています。
今回の15名の犠牲が、自動車業界全体の安全基準を塗り替えるきっかけになることを願って止みません。
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参照:Bloomberg
















