| スポーツカーからスーパーカー、そしてハイパーカーへとゆくにつれその定義が難しくなる |
結局のところ、「なんとなくそう思わせたもの勝ち」なところもあるが
さて、前回は「スポーツカーの定義」、そしてそれに伴いGTカーや高級車の捉え方についても触れましたが、今回は「スポーツカーとスーパーカー、さらにはハイパーカーとの違い」について考えてみたいと思います。
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スポーツカー、GTカー、スーパーカー、ハイパーカーとは何なのか(1)?スポーツカーとしての定義はどこにあり、GTカーとはどう違うのか
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どの段階で「スポーツカー」は「スーパーカー」になるのか?
最初の議題は”どの段階で「スポーツカー」は「スーパーカー」になるのか?”。
これも非常に難しく(明確な線引が存在しない)、まずスポーツカーについておさらいしておくと、一般的な定義は「モータースポーツ参戦のために設計されたクルマ、もしくはスポーティな運転、パフォーマンス、ドライバーの楽しみを主な目的とし、快適性や実用性は二の次であるクルマ」。
そしてスーパーカーの定義については(ぼくが思うに)「スポーツカーとしての要件を満たし、それをさらに引き上げたもの」。
この「スポーツカーとしての要件を満たし」というのが重要で、というのも現在「1,000馬力オーバーのエレクトリックセダンやSUV」が大量に登場しているものの、それらについてはスポーツカーとして捉えることが難しく、もちろん(いかにハイパワーであったとしても)スーパーカーと認めることは難しいであろうと考えています。
よって、テスラ・モデルSプレッドやルシード・エアー、BYD U8などは「スーパーカーとは認めづらい」ということになりますね。
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ただ、この「馬力」については無視できるものではなく、たとえば「間違いなくスポーツカー」であるホンダS660をスーパーカーと呼ぶことは難しいかもしれませんし、究極のサーキットウエポンであるロータス・エキシージもまたスーパーカーとは呼びにくいかもしれません。
ちなみにですが、アメリカでは小排気量エンジンや4気筒エンジンは「スポーティ」だとみなされず、よって初期のロータス・エスプリ、最近だとアルファロメオ4Cも北米市場で苦戦したと言われ、よってスーパーカーを決するにはある程度の馬力、そしてより大きなエンジンが必要であるとも考えられます。
なお、一般的に「スーパーカーとして成立する条件」として捉えられているのは「エンジンの位置」で、リヤミッドにエンジンがマウントされていることが”スーパーカーに必要”だとされ、これはランボルギーニ・ミウラ(世界初の大排気量ミドシップ)が世界初のスーパーカーとして認知されていることからも推測可能。
よって、(ヴァルキリー以外の)アストンマーティン各モデル、C8以前のコルベットが(その驚異的なパフォーマンスに関わらず)スーパーカーであると認識されにくいのものまた「フロントエンジンレイアウトであるがゆえ」だとも考えられます。
ただ、ミドシップであればすなわちスーパーカーというわけではなく、ポルシェ718ケイマン/ボクスター、トヨタMR2やMR-S、ポンティアック・フィエロなど「ミドシップであってもスーパーカーに分類することが難しい」クルマも存在し、これらもまた「エンジン型式」「排気量」がそれを妨げているのかもしれません。
反面、ダッジ・ヴァイパーやメルセデス・ベンツSLS AMG、メルセデス・ベンツSLRマクラーレンはフロントエンジンといえど明らかにスーパーカーであり、フェラーリ812スーパーファスト/812GTSもまた同じ。
そしてこれらをスーパーカーたらしめているものはそのスタイリングだとも考えられ、つまり「乗用車離れしたエキゾチックなデザイン」を持つことが共通しており、スポーツカーよりもさらに一歩進め、実用性を犠牲どころか「無視」したかのようなエアロダイナミクス、そして重心を下げるために採用された極端に低い車高など、「速く走る」以外には全く使えないほどの潔さを持っていることが「スーパーカー」だと認識させる要素ということになりそうです。
さらに言うなれば(これは副産物かもしれませんが)、こういった”極限の性能を追求したがために”機能が形を成したかのようなスタイリングが演出する「非日常感」も重要であり、逆にポルシェ911が「スーパーカーとして認知されない」のは高い実用性を併せ持つ(そして外観からも実用性を伺うことができる)からなのかもしれません。
とにかく「スポーツカーの定義」と同様に、考えれば考えるほどわからなくなるのが「スーパーカー」を決定する要素ではあるものの、なんとかまとめるのであれば以下の通りになろうかと思います。
- スーパーカーとは大排気量、マルチシリンダー、パワフルなエンジンを搭載するクルマ
- スーパーカーとは、ミドシップレイアウトを採用し、それに起因するエキゾチックなスタイルを持っている
- フロントエンジンレイアウトであったとしても、ほかを圧倒する個性的なスタイリングを持っている
- サイズ、ディティール、低さなど「非日常感」が感じられる(日常性を無視している)
参考までに、フェラーリは自社のクルマを「スーパーカー」と呼ぶことが非常に少なく(殆どの場合において、スポーツカーだと呼称している)、しかしランボルギーニは「スーパーカー」という言葉を好んで用いているという差異があり、これは「フェラーリはモータースポーツをバックボーンとしている」「ランボルギーニは元祖スーパーカーであるミウラを送り出したこと」に由来するのかもしれません。
スーパーカーとハイパーカーはどう違うのか
そして最後は「スーパーカーとハイパーカーはどう違うのか」。
これもまた「スポーツカー」「スーパーカー」同様に難しい問題であり、というものやはり明確な定義付けがなされていないため。
ハイパーカーと聞いて思い浮かべるのはパガーニ・ゾンダ / ウアイラ / ユートピア、ブガッティ ヴェイロン / シロン、そしてマクラーレンP1、ポルシェ カレラ GT / 918 スパイダー、ジャガーXJ220、ラフェラーリ、ケーニグセグ各モデルあたり(ケーニグセグは自社のクルマをハイパーカーではなくメガ・カー」と呼んでいる)。
ただしハイパーカーについてもスポーツカー、スーパーカー同様に「速く走る」ことを目的としているので、圧倒的なパフォーマンスが必要であることは間違いないものの、たとえばパガーニ・ウアイラはポルシェ911GT3RSに比較してニュルブルクリンクを速く走ることができないとされているので、必ずしも「トップレベルの速さ」は必要ではないのかも。
さらにリマック・ネヴェーラもニュルブルクリンクでは「最速」の部類ではなく、しかし誰もが認めるハイパーカーです。
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いかにトップレベルの速さを持たないといえど、パガーニ各車は「宝石のような」美しいインテリア、そして究極とも言える加工品質を持ち、リマック・ネヴェーラでは2,000馬力級の突出した馬力を誇っていて、よって「どのような分野であっても、ほかでは達成できないレベルに到達した」クルマには「ハイパーカー」を名乗る資格があると考えていいのかもありません。
ただ、その突出するベクトルは「パフォーマンス」に直結するものでなければならず、それはいかに高額で、高いクラフトマンシップを誇ろうとも、ロールス・ロイスのビスポークモデルをハイパーカーだと呼べないことからもわかります。
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そしてパフォーマンスにおける新しいページを記したクルマとしてはブガッティ・ヴェイロン(自動車市場最速)、ポルシェ918スパイダー(ニュルブルクリンクで初の7分切り)等があり、マクラーレンP1やラフェラーリはハイブリッドシステムによる新しい可能性を示唆するとともに「ガソリンエンジン車では踏み込めなかった」領域へと足を踏み入れていて、こういった”なにかに挑戦し、成し遂げた”実績を持つことも重要なのかもしれません。
さらに言うなれば、「手が届かない」価格や販売方法を持つこともハイパーカーの重要な条件であるとも考えていて、たとえば「300万円のハイパーカー」「いくらでも量産できるハイパーカー」といったモノはない、と認識しています。
加えて、先進性を持つことも外すことはできず、「パフォーマンスは非常に高いものの、パワフルなエンジンと軽量な車体を持つだけで、既存技術のみを使用しており目新しさがないクルマ」もまたハイパーカーとは捉えにくいのかもしれません(スーパーカーの出力を上げただけではハイパーカーとしては不十分である)。
よって、3Dプリンタを使用して世界トップクラスの性能を実現したジンガーC21や・・・。
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さらには「質素な外観や内装を持つハイパーカー」というのも想像しにくく、存在したとしても諸手を挙げてそれを受け入れることもできないので、内外装のデザイン、そしてフィニッシュにおいても一般のクルマはもちろん、スーパーカーをも凌駕する必要があると認識しています。
ボクはハイパーカーを「こういったクルマ」だと定義している
そう考えると、ハイパーカーの定義はスポーツカーよりもさらに(狭いようで広くもあり)困難ではありますが、ざっとまとめてみるとおおよそ以下の通りになるかと思われます。
- ハイパーカーは、スーパーカーの要件をおおよそ満たし、さらにはそのパフォーマンスが引き上げられている
- 一般人には手が届かない価格、購入条件を持っている
- 既存技術を超える新技術を採用し、それによって前人未到のパフォーマンスを達成している
- そのクルマや自動車メーカーしか持ち得ない技術や加工精度、デザインを持っている(排他性がある)
- ラグジュアリー性、もしくはクラフトマンシップの感じられる内外装を持っている
総括すると、スポーツカーとは「モータースポーツ参戦のために設計されたクルマ、もしくはスポーティな運転、パフォーマンス、ドライバーの楽しみを主な目的とし、快適性や実用性は二の次であるクルマ」、スーパーカーとは「スポーツカーのパフォーマンスをより高め、そのためにより多くを犠牲にし、その結果として成された特徴的で非日常的なスタイリングを持つクルマ」、ハイパーカーとは「スーパーカーの限界をさらに押し広げ、時代のルールを書き換えるテクノロジーを採用し前人未到の領域に到達するクルマであり、デザインやフィニッシュにおいても頂点を極めたクルマ」であるというのがぼくの結論です。