
| 「EV狂騒曲」に振り回された自動車メーカーの損失は計り知れない |
この記事の要約
- 予測の大外れ: 「絶滅」と思われていた内燃機関に対し、自動車メーカーが再び巨額投資を開始
- GM・クライスラーの決断: V8エンジン存続のために数千億円規模の資金を投入
- マツダの超技術: 走行しながら「藻」でCO2を回収・燃料化する驚愕のコンセプトが登場
- 政治の激変: 米トランプ政権のEV優遇廃止と欧州の2035年禁止令撤回が追い風に
- 結論: EVは「唯一の正解」から「選択肢の一つ」へとポジションが変化
なぜ今、ガソリンエンジンが「死の淵」から戻ってきたのか?
数年前まで「2030年までに全ての新車をEVにする」といった野心的な目標が業界のスタンダードではあったものの、わずか数年後の2025年現在、その熱狂が冷めつつあるというのが現状です。
消費者の「航続距離への不安」や「充電インフラの不足」、そして政策の変更といった現実がメーカーを再び「ガソリンエンジンの磨き上げ / 再開発」へと向かわせており、かつて「時代遅れ」と揶揄されたガソリンエンジンが「今や最新技術と政治の力を借りて」力強い咆哮をあげ始めているわけですね。
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メーカー各社が投じる「エンジンへの巨額資金」
もはやエンジン開発を諦めたと思われていたビッグスリー、そして欧州勢が次々と方針を転換しており・・・。
GMとクライスラーの「V8愛」
- GM(ゼネラルモーターズ): ニューヨーク州の工場に約8億8,800万ドル(約1,300億円)という、単一施設としては過去最大の投資を行い、次世代V8エンジンの生産を継続
- クライスラー(ステランティス): 米国生産に130億ドル(約2兆円)を投じ、大型SUVや中型トラック向けの新型エンジン開発を加速
- ベントレー、ポルシェなど:EV投入を先送りし、当面はハイブリッドに注力(ポルシェに至ってはEVに内燃機関を搭載するための再設計を行う)
- フェラーリ:V12エンジンに関する特許を次々出願
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欧州・アジアの革新的な試み
ちょっと前までの「ガソリンエンジンの開発を終了させる」「工場内の製造ラインもEV向けに再整備」「これまで貢献してきたガソリンエンジン時代のエンジニアや作業員は閑職に回すかクビ」といった流れが完全に変わっているのが現在の状況です。
そして面白いのは、大手自動車メーカーだけではなく、イギリスのHorse Powertrains(吉利汽車傘下)といった新興勢力からも「スーツケースサイズの超コンパクトなハイブリッド用ロータリーエンジン”C15”」が発表されるなど自動車業界全体にガソリンエンジンの復権が見られるほか、マツダは「走れば走るほど空気をきれいにする」という、これまでの常識を覆すコンセプトを打ち出すなど「これまでには見られなかった進化」が見られるといった傾向も。
そのほかフェラーリ、ポルシェ、トヨタなど様々な既存自動車メーカーより「高い環境性能とパフォーマンスを両立する」エンジンに関する特許が出願されるなど「いまだかつてないほどガソリンエンジンが活性化しつつある」ようにも感じられます(さらに言えば、ハイブリッドシステムとの組み合わせを前提として設計することでガソリンエンジンのネガを消し去り、メリットを強調するような考え方も一般化している)。
ただ、ぼくが思うに、こういった傾向は「絶滅の危機にさらされたこそ」見出された解決策なのかもしれず、つまり「もしガソリンエンジンが永遠に存続することが約束されていた状況では」こういった進化が促されなかった可能性があり、直近の進化は「発明は必要の母」、あるいは映画「ジュラシック・パーク」シリーズのテーマでもある「Life finds a way」なんじゃないかとも考えているわけですね。
注目すべき「次世代エンジン」スペック比較
| 開発メーカー | エンジン形式 / 技術 | 特徴・メリット |
| GM | 新世代スモールブロックV8 | 伝統のパワーを維持しつつ燃費性能を極限まで向上 |
| Horse (Geely) | C15(1.5L 直4ターボ) | スーツケース大の超小型設計。ガソリン、エタノール、合成燃料に対応 |
| マツダ | 2ローター・ロータリー(PHEV) | 「モバイル・カーボン・キャプチャー」搭載。藻類でCO2を回収・燃料化 |
| トヨタ | 新型V8ツインターボ | スポーツカーおよび大型車向けの次世代高効率ユニット |

Image:TOYOTA
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知っておきたい新知識:「藻」が燃料を作る仕組み
マツダが提案した「モバイル・カーボン・キャプチャー」は、車内に微細藻類の培養タンクを備えるという斬新なアイデアです。
排出されるCO2を藻に吸わせて増殖させ、その藻から抽出したオイルを精製して再び燃料にするという「循環型」の仕組みを採用しており、まだ研究段階ではあるものの、これが実現すればエンジン車は「環境を汚す存在」から「環境を浄化する存在」へと180度イメージを変えるのかもしれません。
政治が動かした「エンジンの寿命」
なお、この「ガソリンエンジン復活劇」の裏には政治的背景があることも間違いなく、これは「自国の産業保護」が主な理由となっていて、「ガソリンエンジン廃止による雇用の消失」を防ぐこと、新車販売をすべてEVとすることによって「新車市場が中国車に占拠されてしまい既存の(自国の)自動車メーカーの新車市場が縮小してしまう」といった懸念に対処するための戦略の変更であると思われます。
Image:Lamborghini
- トランプ政権(米国): 2025年の第2期政権発足後、バイデン政権の「2030年EV目標」を撤回し、7,500ドルのEV税額控除を廃止。エンジン車への回帰を強力に後押し
- 欧州連合(EU): 自動車メーカーからの猛烈な反対を受け、2035年の「エンジン車新車販売禁止」の実質的な撤回に合意。排出削減目標を100%から90%に引き下げ、ハイブリッド車の生存権を認める
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結論:エンジン車は「愛される選択肢」として生き残る
ガソリンエンジンはもはや「絶滅を待つ過去の遺物」でははく、EVの普及が一段落した今、改めてその「実用性」と「走りの楽しさ」、そして「カーボンニュートラル燃料(e-fuel)」による持続可能性が見直される存在。
「パワー」「加速」が重要視されてきたスポーツカー業界においても、「ハイブリッド、1000馬力」のスーパースポーツより、たとえ馬力や加速が劣ろうとも「シンプルなガソリンエンジン」が好まれるという事実が昨今の傾向を象徴しているかのように思います。
「EVかエンジンか」という対立の時代は終わり、2020年代後半は”それぞれの強み”を活かした「共存の時代」になるものと思われ、ぼくらドライバーにとって、自分のライフスタイルに合ったパワートレインを選べる、幸せな時代がもう少し続くということになりそうですね。
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