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GR GTに積まれるトヨタの新開発4.0L V8ツインターボは「V10の魂」を受け継ぐエンジニアリングの傑作、あるいは凡作か

GR GTに積まれるトヨタの新開発4.0L V8ツインターボは「V10の魂」を受け継ぐエンジニアリングの傑作、あるいは凡作か

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| EV時代に内燃機関の火を灯す豊田章男会長の「賭け」 |

GR GTは神格化されたレクサスLFAのV10エンジンを超えることができるのか

世界の主要自動車メーカーが内燃機関(ICE)に「弔辞」を捧げようとしていた数年前、トヨタは当時のトップ、豊田章男氏の「全方位戦略」の下、非常に高度なV8エンジンの開発を開始しています。

つまり、ほとんどの自動車メーカーが「ガソリンエンジンの終焉」を宣言して内燃機関の開発を終了させる中、トヨタ(とBMW)は大排気量マルチシリンダーV8エンジンを開発するという「賭け」に出ているわけですね。

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ガソリンエンジンへの「賭け」は最終的に正しかった?

そして今、ESG(環境・社会・ガバナンス)への意識が高いメディアや投資家から批判を浴びたこの「エンジンへの賭け」は、最終的に正しかったことが証明されつつあるというのが現在の状況で、そのギャンブルが生み出したエンジンが、レクサスLFAやトヨタ2000GTといった時代の名車に連なる後継スーパースポーツ「トヨタ GR GT」として結実しようとしています。

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ここでは、トヨタの技術者が低重心、高性能、そして感動的なサウンドのすべてを追求した新開発4.0L V8ツインターボ・ハイブリッドの驚異的なエンジニアリングを見てみましょう。

GR GT V8ハイブリッドの主要スペックと技術

項目スペック / 技術特徴
エンジン構成4.0L V8ツインターボ + 1モーターハイブリッド徹底的な小型・軽量化を追求
システム最高出力650 PS以上(目標値)”必要十分な”レベルにあるパフォーマンス
システム最大トルク850 Nm以上(目標値)モーターアシストによる低速トルクを補強
エンジン配置フロントミッドシップ理想的な重量配分(前45:後55)と整備性を両立
ターボ配置ホットV方式(Vバンク内側にターボ)パッケージの小型化とターボレスポンスの向上
潤滑方式ドライサンプ潤滑システムエンジン全高を低く抑え、超低重心化に貢献
駆動系リア トランスアクスル(8速AT + モーター + LSD)軽量なCFRPトルクチューブでエンジンと接続し、重量配分を最適化
ボア/ストローク87.5 mm / 83.1 mm (オーバースクエア)高回転域の応答性爽快な吹け上がりを追求

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詳細:エンジニアリングの3つの極意

① 超低重心化への挑戦:究極の運動性能

GR GTの開発は「徹底した低重心化」から始まっており、これはレースカーであるGR GT3とコンポーネントを共有するための「必須条件」。

  • ドライサンプ方式: エンジンオイルを外部タンクで管理するドライサンプ方式を採用し、オイルパンを極限まで薄くすることで、エンジン全体を低く搭載することに成功
  • ホットV配置: 2基のターボチャージャーをVバンクの内側に配置するホットV(Hot-V)レイアウトにより、エンジンをコンパクト化。排気管の短縮によって、ターボレスポンスの向上にも貢献
  • ショートストローク設計: ボア(87.5 mm)がストローク(83.1 mm)を上回るオーバースクエア設計は、低速トルクと引き換えに、レスポンスの良い高回転型エンジンを実現
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② ハイブリッドシステムによる「トルクの補完」

GR GTのエンジンは、低速トルクを犠牲にしてでも高回転での性能を追求した設計を持ち、この弱点を補うためにハイブリッドシステムが組み込まれていますが、これはつまり「ハイブリッドありき」の設計思想ということになりますね(フェラーリ 296GTBのV6、ランボルギーニ テメラリオのV8と同じ)。

  • トランスアクスル内蔵モーター: シングルエレクトリックモーターがリアに配置された8速オートマチックトランスアクスルと統合
  • トルク・フィル(Torque Fill): このモーターは、主にエンジンの低回転域や変速時に発生するトルクの落ち込みを埋める(トルク・フィル)役割を担い、途切れのない強力な加速と扱いやすさを公道で実現
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③ LFAの魂:感動的なサウンドの創造

GR GTは、史上最高のエンジンサウンドと称されたLFAのV10エンジンを持つモデルの系譜に連なります。

ターボチャージャーは通常、排気音を(排気ガスを還流させることで)抑制することとなるものの、トヨタはLFAが構築した評判に応えるため、サウンドのチューニングに膨大な時間を費やしたのだそう。

  • 排気系の徹底的な作り込み: エンジン回転数の変化を正確に反映し、ドライバーに「クルマと対話できる」感動的なサウンドを届けるため、排気システムの構造を綿密に設計。これは、感覚に訴えかけるパフォーマンスを重視するトヨタの哲学を示している
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Image:TOYOTA

パッケージングと競合:最高のバランスを求めて

さらにGR GTは、そのコンポーネント配置によって理想に近い重量配分を実現しています。

  • 重量配分: エンジンを車体の中心近く(フロントミッドシップ)に置き、ギアボックス、モーター、機械式LSDを統合したトランスアクスルをリアに配置することで、前後重量配分45:55を達成
  • 車両重量(目標): 1,750 kg以下

なお、エンジンスペックのみを見ると、フェラーリ296GTBは3リッターV6エンジンのみでGR GT3を上回る660馬力を発生し、マセラティMC20 Puraの3リッターV6は630馬力、そしてランボルギーニ・テメラリオのV8エンジンは800馬力を発生するため、GR GTの「ハイブリッドシステムをあわせて650馬力」というのは数字上だとやや非力。

しかもシャシー、プラットフォーム共に「目新しさ」が感じられない(ほかのライバルと同様の範囲に収まり、それを超えるものではない)ようにも思われます。

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しかしトヨタは「数字」よりも上述のような「バランス」を最重要視したのだと思われ(クルマはエンジンだけでその優劣が決まるわけでははない)、その結果はモータースポーツの場にて、GR GT3が証明してくれるのかもしれませんね。

将来性と市場投入:公道とレース、そしてその先へ

市場投入とテスト

GR GTは2027年頃の発売を目指して開発が進められており、すでにドイツのニュルブルクリンクを含む世界中のサーキットや公道にて「限界までプッシュされ、故障させ、再構築する」という厳しい信頼性テストが繰り返されています。

 V8エンジンの未来への布石

トヨタは、この新V8エンジンが「継続的な販売」を可能とするため、今後さらに厳しくなる排ガス規制にも対応できるように開発されたことについて触れており、これはGR GTとそのレースバージョン(GR GT3)を超え、将来の高性能SUV、そしてセンチュリーのような最上級モデルへの搭載も視野に入れていることを強く示唆しています。

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GR GT、レクサスLFAはそれぞれ異なる方面において未来を背負うという事実を意味しますが、それぞれの続報に期待したいと思います。

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