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ポルシェのハイブリッド戦略:「伝統とビジョン」が拓く未来のパフォーマンス。ポルシェの第一号車は「EV」、そしてそこから現代につながる基本思想とは

ポルシェ

| 100年以上の歴史を持つポルシェのハイブリッド戦略 |

ポルシェ創業者は「エレクトリック」「ハイブリッド」に強い関心

ポルシェのハイブリッド駆動への関心は、創業者フェルディナンド・ポルシェの時代に遡ります。

彼は当時から、モーターとエンジンの長所を組み合わせるというアイデアを抱いており、まず最初に設計した自動車は「インホイールモーターを備えるレンジエクステンダーつきEV」、そしてその後に設計したティーガー戦車の試作車(制式名称:VK 45.01 (P)、通称:ポルシェティーガー)は、非常に先進的な駆動方式を採用する「ガソリンハイブリッド(これもレンジエクステンダーEV)」、さらにその後のエレファント重駆逐戦車(フェルディナント)も同じ電気駆動システムを持っています。

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Image:Porsche

そして創業から100年以上が経った今、ポルシェのエンジニアたちは、このハイブリッドのアイデアを様々な形で継承し、未来へと発展させていますが、ポルシェにハイブリッド技術が本格的に導入されたのは2010年のことで、「インテリジェントパフォーマンス」のスローガンのもと、以来この技術はポルシェを支える核の一つとなっています。

なお、ポルシェがこれまで生み出してきたハイブリッドシステムは多岐にわたり・・・。

  • 走行中にバッテリーを充電するフルハイブリッド
  • 外部電源からの充電も可能なプラグインハイブリッド(PHEV)
  • 電動アシストターボチャージャーを備えたTハイブリッドシステム

など、ポルシェのエンジニアは常に効率的なソリューションを追求し続けていることがわかります(そのモデルによって、もっとも適したハイブリッドシステムを開発している)。

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ポルシェは「世界初の電気自動車」だけではなく、「世界初のハイブリッド」「世界初のエレクトリック4WD」を作っていた。とくにハイブリッド車は300台が量産されタクシーにも
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ポルシェ・ハイブリッドの歴史を彩る主要モデル

ポルシェのハイブリッド技術は、ロードカーからレーシングカーに至るまで、常にマイルストーンを刻んでおり、その主な歩みは以下の通り。

1. 黎明期(1900年):Semper Vivus

1900年、フェルディナンド・ポルシェは世界初の実際に走行可能なフルハイブリッドカー、ローナーポルシェ “Semper Vivus”を開発。

このアイデアは当時のバッテリーの信頼性の低さや充電インフラの不足という課題から生まれたもので、4気筒ガソリンエンジンがジェネレーターを使って電気を供給することにより、外部充電に依存しないシステムを完成させています。

参考までに、ポルシェの基本理念は「効率性」「合理性」にあり、それはドライブトレーンはもちろん車両のパッケージング(RRレイアウトによって4人乗車を可能としたのはその端的な例である)、その前段階のコンセプトにも見られます。

そしてポルシェは常に社会的要求に沿った課題解決を行う姿勢を示していて、このローナーポルシェもまた、ポルシェの思想を「最もよく表した」一台なのかもしれませんね。

2. 市販化と効率化(2010年代):カイエン、パナメーラ、918スパイダー

カイエン S ハイブリッド (2010年)

第2世代のカイエンで市販化が開始された初のパラレルフルハイブリッド車。

電気駆動、エンジン駆動、および両者の併用が可能で、ブースト、エネルギー回生、セーリング(コースティング)などのモードを活用し、スポーティかつ効率的なドライビングを提供しています。

2014年には、プレミアムSUVセグメントで初のプラグインハイブリッド車であるカイエン S E-ハイブリッドがこれに続くことに。

パナメーラ S ハイブリッド (2011年)

カイエンで実績のあるパラレルフルハイブリッドのコンセプトがパナメーラにも導入され、出力280kW (380PS)を誇りながらも、歴代ポルシェの中で最も経済的なモデルとなっています。

その後、新開発のリチウムイオンバッテリーを搭載したモデルは最高出力306kW (416PS)、エレクトリックモーターのみで36kmの航続距離を実現しています。

918 スパイダー (2013年)

2013年に生産が開始されたスーパースポーツカーであり、ポルシェのプラグインハイブリッドコンセプトの頂点の一つ。

4.6リッターV8エンジンと2つのモーターを組み合わせ、システム出力652kW (887 PS)、最高時速345km、燃費3.1リッター/100km (NEDC)という性能で新たなマイルストーンを打ち立てています(そしてニュルブルクリンクのラップタイムにおいて、はじめて市販車で「7分」を切ったクルマでもある)。

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3. モータースポーツでの革新:レーシングハイブリッド

911 GT3 R ハイブリッド (2010年)

ハイブリッドの原理を再定義したレーシングカー。

ブレーキ時に回収されたエネルギーを蓄え、ボタン一つで短時間に2基のモーターへ戻すことによって合計120kW (164PS)の追加パワーを解放する仕組みです。

ポルシェはこれをパフォーマンスアップや燃費戦略のために活用しています。

919 ハイブリッド (2015-2017年)

2015年から2017年にかけてル・マン総合優勝を3度達成し、ハイブリッドコンセプトの性能と信頼性を絶対的に証明することに。

2.0リッターV4ターボがリアアクスルを駆動し、ブレーキング時および排気システムで発生するエネルギーを回収・蓄積し、必要に応じてフロントアクスルにパワーを与えます。

システム出力は約664kW (902PS)に達し、レギュレーションの制約を受けない「Evoバージョン」は、ソフトウェアのアップデートだけで853kW (1160PS)に達しています。※これはすべてのクルマの中で、ニュルブルクリンク最速タイムを誇っている

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963 (2023年)

現在のLMDhプロトタイプ「ポルシェ963」は、918スパイダーのパワーユニットをベースにしたツインターボV8エンジンを搭載。

モータージェネレーターユニット(MGU)がブレーキングエネルギーを回収・蓄え、リアアクスルを駆動することになりますが、蓄えられた1.35kWhのエネルギーは加速時にいつでも利用可能です。

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4. 最新世代のハイブリッド(2025年):TハイブリッドとEハイブリッド

911 カレラ GTS

モータースポーツの知見を基礎としたパフォーマンスハイブリッドシステム(Tハイブリッドドライブ)を市販車へと初採用。

新開発の3.6リッター水平対向エンジンに統合されたモーターが加速時にターボチャージャーに必要な回転数を瞬時に提供し、ブースト圧を即座に利用可能にします。

このモーターは発電機としても機能し、最大11kW (15PS)の電力を供給し、911カレラGTSクーペは、0-100km/h加速3.0秒、最高時速312kmという驚愕の性能を達成しています。

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カイエンとパナメーラ Eハイブリッド (現行モデル)

現在のEハイブリッドモデルは、2つのパワーユニットを1つの駆動方式に統合する原理を採用。

Eモードでの強力なエレクトリックモーターによる走行性能と加速時のエンジンサポートを特徴とし、全面的に改良された現行のドライブトレインは、航続距離の延長、システム性能の向上、充電時間の短縮を実現しています。

ポルシェ・ハイブリッドモデル パフォーマンスランキング

ポルシェのハイブリッドシステムの歴史的な進化を示すため、主要モデルをシステム出力に基づきランキング化したのがこちらの表です。

順位モデル名システム出力補足事項
1919 Hybrid Evo (レコード仕様)853kW (1160PS)レギュレーション非適用バージョン
2919 Hybrid (WEC仕様)約664kW (902PS)ル・マン総合優勝3回達成
3918 Spyder (PHEV)652kW (887 PS)市販スーパースポーツカー
4Panamera S E-Hybrid (改良型)306kW (416PS)リチウムイオンバッテリー搭載
5Panamera S Hybrid (初期型)280kW (380PS)歴代ポルシェの中で最も経済的
6911 GT3 R Hybrid (ブースト)120kW (164PS)レーシングカーの一時的な追加パワー

最新の市場動向とポルシェの考察

ポルシェのハイブリッド技術の歴史を辿ると、常に「パフォーマンス向上」と「効率性の追求」を両立させてきたことがわかります(つまり、ポルシェのハイブリッドシステムは燃費向上のみを追求したものではない)。

そしてこの戦略は、最新の市場動向に照らしても非常に理にかなっており、ローナーポルシェから脈々と連なる「ポルシェらしい製品開発思想」のあらわれであるとも捉えることが可能です(社会的な要求、課題を技術によって解決する)。

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モータースポーツ技術のフィードバック

現代の市場において、高性能車の電動化は避けられないトレンドで、ポルシェは919 Hybridや963(LMDh)といった究極のレーシング環境で培ったエネルギー回生技術(ブレーキング時や排気システムでの回収)を市販車にフィードバックしています。

Tハイブリッドの登場:911 カレラ GTS 

この技術移転の最たる例が、最新の911カレラGTSに搭載されたTハイブリッドドライブであり、エレクトリックモーターが(強制的にタービンを回転させることで)ターボチャージャーの遅延を解消し、ブースト圧を瞬時に提供するというこの仕組みは、電動化を単なる燃費対策ではなく、ポルシェの根幹である「ドライビングダイナミクスの向上*に直結させていることを示しています。

これは、環境規制が厳しくなるという中においても、純粋なスポーツカー体験を維持し、さらに強化するというポルシェのビジョンを体現したものに他なりません。

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実用性と高性能の融合

現行のカイエンやパナメーラEハイブリッドモデルは、航続距離の延長や充電時間の短縮を実現しており、日常的な利便性と、加速時に強力な電気モーターがエンジンをサポートする高性能の両立を目指しています。

高性能PHEVは、規制の厳しい都市部での利用と、長距離移動でのパフォーマンスを求める富裕層のニーズに応える戦略として有効で、これもまたローナーポルシェにて示された「貧弱なインフラに左右されない」安定したパフォーマンス、そしてオーナーの安心にもつながるもの。

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ポルシェの戦略は、創業者が確立した「起源に忠実であり続ける」という哲学に沿い、電動化においても最高の性能と効率を追求し続けること、すなわち「継続性」の原則に基づいていることがわかります。

さらにいうならば、ポルシェの電動化は「環境規制が厳しくなるから電動化しないと」という外部からの圧力によってなされるもの、あるいは同調圧力に屈した結果ではなく、「その時代にマッチした、そしてその時代の最先端かつ”最も進んだ”技術を採用した結果」だとも考えられます。

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そしてポルシェはマクラーレンがW1を、フェラーリがF80を登場させる中においても「918スパイダーの後継となるハイパーカー」を発売しておらず、その理由は「ポルシェのハイパーカーは、常に新しい時代を築く存在であり、既存のクルマではできなかったことを、テクノロジーというソリューションをもって実現する存在でなくてはならないから」。

つまるところ、今の段階では「既存技術を使用して”速いクルマ”を作ることは可能ではあるが、それではポルシェのフラッグシップとしてふさわしいものではなく」、よって新しい技術の実用化がなされないかぎり、ポルシェの新しいハイパーカーは登場することがないのかもしれません。

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参照:Porsche

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