
| 往々にして、コンセプトカーの運命とは「奇妙」なものである |
この記事の要約
- 意外な出品場所: 博物館級の1983年製「フォード・プローブIV」がFacebookマーケットプレイスに登場
- 驚異の空力性能: 空気抵抗係数(Cd値)は0.152。現代の最新EVすら凌駕する超エアロボディ
- 出品車両の正体: 2台製作されたうちの「展示用モデル」。木製シャシーを採用した極めて珍しい構造
- 歴史的価値: 後の名車「トーラス」のデザイン革命に多大な影響を与えた重要モデル
なぜ、2台しか存在しないコンセプトカーが「Facebook」で売られているのか?
中古の家具や日常品が並ぶFacebookのマーケットプレイスに、突如として「博物館に並ぶべき至宝」が現れたら……。車好きならずとも、自分の目を疑うことになるのかもしれません。
今回「11,111ドルで」出品されたのは、1983年にフォードが発表したコンセプトカー「プローブIV(Probe IV)」。
イタリアの名門カロッツェリア・ギア(Ghia)が手掛けた、フォードの歴史を変えた一台です。
「なぜこんな場所に?」という疑問への答えは、この車両が歩んできたであろう、そして詳細が明かされていない数奇な運命にあり、かつては華やかなモーターショーの主役だった一台が、現在はテキサス州ヒューストン近郊で新たなオーナーを待っているという「悲しき事実」には涙せずにはいられません。
なお、コンセプトカーは一般に「道交法に適合しない」ことがほとんどで、かつ安全に関する基準も多くの場合は満たしておらず、よって「世に出ては困る(なにかあるとメーカーの評判を傷つける)」ため、ひっそりと”処分”されるのが常。
ただし何らかの事情で「処分」を免れる個体も存在し(廃棄を依頼された業者がこっそり持ち帰ったり、バックヤードから盗まれたり)、このプローブIVもそういったうちの一台であると目されています。
空力革命の申し子「プローブIV」の真実
1970年代の石油危機を経て、自動車業界は「燃費向上」という大きな課題に直面していて、そこでフォードが導き出した答えが「徹底したエアロダイナミクス(空気力学)の追求」。
プローブIVは、その「プローブ・シリーズ」の中でも、最も過激に空力を突き詰めたモデルで、フラッシュマウントヘッドライト、完全に覆われたホイール(スパッツ)、隠されたワイパーなど、あらゆる手段で空気の壁を切り裂くデザインが採用されています。
車種概要:スペック・デザイン・市場での位置付け
プローブIVには実は2台の個体が存在し、今回出品されたのはそのうちの「1号車」であると考えられています。※フォードでは「はじめて」コンピューターを使用し設計されたクルマでもある
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プローブIV(出品車両)の主要スペック
| 項目 | 内容・特徴 |
| 製作年 | 1983年 |
| デザイン | カロッツェリア・ギア(Ghia / イタリア) |
| 空気抵抗係数(Cd値) | 0.152(現代のテスラ Model Sより低い数値) |
| シャシー構造 | 木製(ウッドシャシー)+複合素材ボディ |
| パワートレイン | なし(本車両は展示用。別個体は1.6L直4ターボ搭載) |
| 現在の状態 | 一部パーツ欠損、ドア・ハッチ動作不可、内装は完備 |
市場での位置付けと希少性
もう一台の個体(シャシー番号002)は、ロサンゼルスにある世界的に有名なピーターセン自動車博物館に収蔵されており、そちらは2022年にオークションで12万5000ドル(約1,800万円以上)で落札されたという記録を持ちますが、こちらは「走行可能なモデル」なのだそう。
対して今回の車両は「エンジンなしの展示用」ではあるものの、木製シャシーにボディを載せた構造にとどまるとはいえ、当時のプロトタイプ製作の舞台裏を知る上で極めて貴重な歴史的資料であると考えられます。
結論:この車は、フォードが描いた「消えない夢」の跡
「プローブ(調査・探査)」はフォードによる一連のコンセプトシリーズですが(同名の市販車もある)、このプローブIVが切り拓いたエアロデザインの道は、後にアメリカで大ヒットし、フォードを救った「トーラス(Taurus)」へと繋がっています(日本でもけっこう売れた)。
カクカクとした箱型車が主流だった時代において、この流線型を提示したフォードの先見の明には驚かされるばかりではあるものの、Facebookマーケットプレイスという、あまりにも日常的な場所で売られているこの「未来の残像」。
もし木製シャシーの巨大な模型を置けるガレージと、歴史を守る情熱(そして修復予算)を持っているならば、これほど面白い買い物はないかもしれません(あるいはフォード自身が買い取る可能性もある)。
知っておきたい知識:なぜ「プローブ」はSUVにならなかった?
現代のフォードは「マスタング」を除いてほぼSUVとピックアップトラックに特化していますが、1980年代のフォードは、こうした「空力セダン / クーペ」こそが未来だと信じており、実際、後に市販化された「プローブ」(マツダと共同開発)」は未来的な流線型フォルムを持っています。
そしてコンセプトカーとしてのプローブはあわせて5つが存在するものの、いずれも「3ドアハッチバック」「4ドアハッチバック」「ミドシップスポーツ」など「低い」車高を持っており、つまりSUVはこの中には含まれず。
つまり当時の「未来予想図」には現在のSUVブームがまったく「存在しなかったもの」ということになりますが、これはフォードのみではなく多くの自動車メーカーにおいても同様で、そして「予想外の」SUVがここまで流行したという事実にも驚かされますね。
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