さて、マクラーレン570Sに続き、570GTに試乗(試乗の機会をくださった八光さんには感謝です)。
マクラーレンは現在「スポーツシリーズ」として570S、540C、570GTを展開していますが、数字はそれぞれの馬力を表しています。
なおスポーツシリーズの上にはマクラーレン650S/675LTの属する「スーパーシリーズ」、そのまた上にはP1の属する「アルティメット・シリーズ」があり、マクラーレンが現在この3つのシリーズでモデル展開を行っている、ということですね。
なお「C」は「クラブ」、「S」はスポーツを表し、「GT」はグランツーリスモ。
C→Sの順にスポーティーになり、GTはゆったり(と言ってもマクラーレンなのでそんな甘いものではないですが)ツーリングといったイメージで、そのため「570GT」には他にない荷室も設置されています。
価格はマクラーレン540Cが2188万円、570Sが2556万円、570GTは2750万円(2017年モデルは価格の変更あり)。
外観については基本的に570Sと共通で、マクラーレンの提唱する「シュリンク・ラップト(凝縮された)」スタイル。
ボディパネル表面は複雑な面構成を持っており、とくにサイドからCピラーへと風を抜く構造は独特です。
フロントバンパー開口部から入る空気は4つに分断されてボディ上/下/左右へと流れるようにコントロールされており、その奇抜なデザインは「奇をてらった」ものではなく「考えに考え抜かれた」構造であることもわかります。
スパイフォトを見る限りですが、マクラーレンの新型車「P14」も570S/540Cによく似たデザインを持っており、このデザイン(エアロダイナミクス)は一定の効果があると考えて良さそうです。
なお、570Sとの外観上の相違は車体後部で、570Sがトンネルバックになるのに対し、570GTは「ハッチバック」に。
そのため、わずかではありますが後部荷室容量が増加しています(数字で表すと増加分は大きいと思われますが、実際には薄いものしか後部荷室に入れることができず、使い勝手が良いとは言えない。この車を購入する人はあまりそれを気にしないと思いますが)。
加えてルーフもグラストップとなり、そこからリアハッチへと連続したラインが描かれています。
美しさでは570GTの方(540C/570Sに比べて)やや上かもしれませんね。
↓こちらはマクラーレン570S。
ディへドラル・ドアを開けると目に入るのはぶっといサイドシルですが、これは12Cに採用される「カーボン・モノセル」の第2世代にあたる「カーボン・モノセル2」となっており、これでもサイドシルフロント部が8センチ低く設定され乗降性を向上させています。
シートは(車幅の割に)センターに寄せられており、ロールセンターを可能な限り中央に持ってこようという意図が感じられますね。
なお「左右シートの距離」はフェラーリやランボルギーニ、ポルシェと比べても「近い」ようです。
このあたり、マクラーレンは「F1」でもロールセンター集中を考えて採用した「3座」構造の流れを一貫して持っているのだと想像できます。
室内は(全長を伸ばしたおかげで)スーパーシリーズよりも広く、かつAピラーが左右に押しやられたことで視界が広くなり、おそらくはスポーツシリーズよりもAピラーが細い模様。
これはBピラーも同様で、これによって周囲の視認性が大幅に向上しているようです。
独特な形状のドアミラーも車体のかなり外側に出ていることもあって広い範囲を映し出すことができ、パフォーマンス重視の車といえども日常性を重要視していることがわかります。
なお現代に車らしくインフォテイメントシステムも充実していますが、タッチスクリーンは他の車にはあまり見られない「縦型」。
これも左右のシートをできるだけ接近させるためのデザインだということで、「ここまでやるか」と驚かされる部分でもありますね。
加えて、このタッチスクリーンのおかげで物理的スイッチが少なくなり、車内はシンプルな印象となっています。
なお車体後部の荷室については、上述の通り、実際の使い勝手では570Sも570GTもあまり変わらないようにも思います。
570Sでは座席の後ろにしか荷物を置くスペースがないものの(バッグ二個、上着くらいはそこに置ける)、570GTではそれに加えて極めて薄いものであれば車体後部に置くことができる、ということに。
ただ、そこに機内持ち込みサイズのバッグが入るわけではなく、そのいくばくかのスペースを確保するためにエンジンが見えないという犠牲を払っていることになります(もしかするとボディ剛性も多少は異なるかも)。
もしぼくが570GTを選ぶとすると、その理由としては「グラスルーフ」や「リアセクションの(ボディラインの)美しさ」の方が大きいかもしれません。
マクラーレン570GTはエンジン出力が570Sと同じで、サスペンションやステアリング周りのセッティングが540Cと同様、と言われます。
つまりはステアリングがややスローで足回りが柔らかいということになり、その名の通り「快適志向」ということですね。
その素晴らしい操作系やフィーリングについては540C、後に公開する570Sそれぞれの試乗レポートを参考にしていただきたいと思いますが、570GTについて特筆すべきは文字どおり「540Cのいいところと570のいいところを組み合わせた」車であること。
普通に乗れば全く普通に乗れる車ですし、一度ムチを入れれば弾かれたように飛んで行く俊敏さも持ち合わせています。
570GTの場合、トルクカーブで言うといわゆる「台形」のように思われ、低回転のトルクが扱いやすく乗りやすい印象(540Cも同じ)。
570Sはトルクが回転数にあわせて右肩上がりに増す印象なのでずいぶんフィーリングが異なることになりますね。
570GTは価格だけ見るとちょっと割高なようにも見えますが、540C/570S両者の良いところを持ち合わせていることを考えると、むしろ「コストパフォーマンスが良いのでは」と思えるほど。
マクラーレンは非常に特殊なメーカーであり、F1をバックボーンに持つのはフェラーリ同様ですが、カーボン製のバスタブシャシーなど、F1との共通性はフェラーリよりも高いのかもしれません。
その高い剛性を背景としてよく動く足回りを持っており、そのためにこのクラスのスポーツカーとしては望外に快適な乗り心地を持っていると考えていますが、これは一般道の不整路や、高速道路においても継ぎ目の多い場面で大きく威力を発揮することになり、「固められただけ」の足回りとは異なり、しっかりと路面をつかむという印象もあります。
メカニカルグリップが高く「安心して踏んで行ける」車だと言えますが、4WDでなくてもこれだけの安心感と安定性を出せるのはマクラーレンならではかもしれません(”速く走る”ということだけを考えると、ポルシェ、フェラーリ、ランボルギーニにも勝る、とぼくは考えている)。
なお各モデル間で「基本構造やエンジンが同じなのに、狙った通りの性格の違いを演出」していることは特筆すべき点で、これはそう簡単にできることではない、とぼくは考えています(逆に一部国産メーカーではプラットフォームやエンジン、足回りが違うのに皆同じような乗り味になってしまっている)。
これについては、「この部分をこうするとこうなる」ということを熟知している必要があるわけで、これと同じようなことをできるのはポルシェだけではないかと思うのですね(ボクスターとボクスターS、911カレラと911カレラSとの間にもかなりの差異がある)。
その意味でもマクラーレンは優れた車作りを行うメーカーであることは間違いなく、その技術や考え方はモータースポーツに直結するものであり、非常に新しいメーカーでありながらも確固たる考え方、そして地位を確立したと言ってよいかと思います。
なおマクラーレンはその形状やディティールが非常に特異であり、フェラーリの優美さ、ランボルギーニのエクストリームさとも異なる特殊な造形を持っています。
その造形は(いい意味で)異質さを感じさせるものであり、そのため試乗中に感じた周囲からの視線はフェラーリ、ランボルギーニ以上。
加えてドア開閉時には老若男女関わらず凝視されるので、注目度としてはスーパーカー中随一、と言えるかもしれませんね。
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メディア向けにマクラーレン570GTの試乗会が行われ、その試乗レポートが続々公開中。
日本語だと「オートカー」より試乗インプレッションが公開されています。
マクラーレン570GTはマクラーレンの「スポーツシリーズ」に属する車ですが、同じスポーツシリーズの「570S」の快適性と積載性を向上させたモデル。
文字通り「グランツーリスモ」的性格を強調したモデルで、日本での価格は2752万7000円(570Sは2556万円なので”GT"化によってけっこう価格が上昇している。なお540Cは2188万円)。
外観上では[570S」に比べてパノラミックサンルーフ、リアのガラスハッチが相違点となりますが、リアが伸びやかに見えるぶん、スタイリング的には570GTのほうがバランスが良いのではと考えたりします。
サスペンションもいくぶん柔らかく、内装も豪華になっているとされ、試乗レポートでは室内の騒音も抑えられているとのことなので、思いのほか570GTと570Sとの差は大きいのかもしれません。
なお「570S」は先進国(要はお金がある国)向け、「540C」は新興国向けと位置づけられ、540Cは主にアジアマーケットに投入されていますが、日本では幸運な事に[570S」「540C」両方の購入が可能に。
なお「GT」に540が設けられるかどうかは不明です。
ちなみにマクラーレンは「スポーツシリーズ」のほか650Sが属する「スーパー・シリーズ」、P1の属する「アルティメット・シリーズ」を展開しており、価格的にもスポーツ・シリーズが再量販シリーズと言えますね。
なお540Cはカーボン製バスタブ・シャシー、ガルウイングドアを持つ車としては非常に価格が安く、ある意味驚異的な価格設定とも考えています。
ランボルギーニ・ウラカンの後輪駆動モデル「LP580-2」の価格が2535万円なので、10馬力劣るといえどもマクラーレン570Sの2556万円はもちろん、540Cの2188万円はかなりお買い得に感じますね。
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下記は各メディアによる試乗インプレッション動画。
マクラーレンは現在「スポーツシリーズ」を拡大中ですが、大阪に570GTが初登場(以前にプロトタイプながらも540Cは展示)。
9/15からの展示ですが、同時に試乗会も開催をしているとのことで、予定を調整して試乗の予約を取った上で訪問しようと考えています。
マクラーレン570GT/540Cともに「スポーツシリーズ」に属しますが、540Cは価格2188万円とその素材(カーボン)や性能に比べると割安とも言える設定。
フェラーリのV8モデル、ランボルギーニV10モデル(4WD)が3000万円というゾーンに突入したためにさらに割安に感じられますが、やはりこの価格帯だとかなり訴求力はあるようで、フェラーリも「ディーノ」での参入を検討したりランボルギーニもウラカンの2WDを当ててきたりという動きがあるほか、ポルシェ911ターボ、アウディR8、新型ホンダNSXといった車もこの価格帯に。
要はかなり「熱い」ゾーンであると言えますが、その中でもカーボン製バスタブシャシーやガルウイングドア採用ということではコストパフォーマンス的にひとつ抜けているとも言えますね。
実際の走行性能だと新型ホンダNSXがもっとも優れるかもしれませんが、やはり「ガルウイング」は特別なものがあると考えています。
なお正確に言うとマクラーレンのロードカーが採用するドアは「ガルウイング」ではなく「ディへドラル・ドア」もしくは「バタフライ・ドア/インセクト・ウイング・ドア」ということになりますが、ここでは”わかりやすく”ガルウイングドアと呼ぶことにしています。