
| 1,800馬力V16ハイブリッドに「3ペダル」の衝撃。ブガッティが目指す究極のアナログ体験とは |
「機械式MT」はたしかにブガッティのコンセプトともマッチする
スーパーカーおよびハイパーカーの世界において、DCT(デュアルクラッチトランスミッション)やATによる極限の変速スピード追求が一巡し、今あえて「ドライバーが自らシフトを操る喜び」を求めるマニュアルトランスミッション(MT)回帰の波が急速に広がっているというのがいま現在。
その頂点に立つフレンチ・ハイパーカーブランド、ブガッティのCEOであるメイト・リマック(Mate Rimac)氏が、海外自動車メディアのインタビューにおいて、「V16エンジンとマニュアルトランスミッションの組み合わせ」について驚くべき肯定的な見解を示したというのが今回のニュースです。
8.3リッター自然吸気V16エンジンに3基のエレクトリックモーターを組み合わせ、システム総合1,800馬力を叩き出すという”規格外のパワーユニット”を自らの手と足でねじ伏せる「本物の3ペダルMT」が果たして実現するのかどうか、その真相とハイパーカー市場の最前線について考えてみましょう。
この記事の要約
- ブガッティCEOメイト・リマック氏がV16エンジンへの「本物のMT(マニュアルトランスミッション)」採用に極めて前向きな発言
- 擬似的な電子制御MT(疑似MT)ではなく、クラッチペダルを備えた「本物のアナログ機構」を重視
- 新型ハイパーカー「トゥールビヨン」の限定モデル、またはワンオフ特注部門「ソリテール(Solitaire)」での実現が有力視
- ハイパーカー市場全体で巻き起こる「アナログ・MT回帰」の世界的トレンド

メイト・リマックCEOが語った「本物のマニュアル」へのこだわり
「V16にMTを想像してみてほしい」──トップが語った本気度
カリフォルニア州で開催されたモントレー・カー・ウィーク期間中、米自動車誌『Road & Track』の取材に応じたメイト・リマックCEOは、ブガッティにおけるMT採用の可能性を問われ、次のように熱弁を振るったとされています。
「ええ、間違いなく(可能性は)あります。100%同意しますよ。マニュアルのV16を想像してみてください。それも『本物のマニュアル・トランスミッション』です」
(ブガッティCEO メイト・リマック氏)
現在、新型ハイパーカー「トゥールビヨン」には8速DCTが組み合わされており、当初はMTの選択肢は存在しないと発表されていましたが、しかし、トップ自らがここまで踏み込んだ発言をしたことは、社内で既に何らかの技術的検討やコンセプト議論が行われていることを示唆しています。

フェラーリとは異なるアプローチ:「疑似」ではなく「本物」を追求
今回の発言で特に興味深いのは、リマック氏が「Real Manual(本物のマニュアル)」という言葉を強調した点。
近年のスーパーカー業界では、フェラーリが「12チリンドリ マヌアーレ(12Cilindri Manuale)」などで見られるような、電子制御とパドルシフトを駆使してMTの挙動やシフトショックをソフトウェアで再現する「擬似MT」の技術を模索するという傾向も。
-
-
フェラーリが12チリンドリ「マヌアーレ」で採用した”電子制御マニュアル”。今後一気に普及し「ハイパワー車を救い、環境規制からスポーツカーを守る」技術革新となるか
Image:Ferrari | 現在はその重要性に気づいていないかもしれないが | この技術はスポーツカーの歴史を変える可能性を秘めている 自動車業界では他社との差別化を図るため、常に新しい「業界初」 ...
続きを見る
これに対し、ブガッティはソフトウェアによる擬似的なフィードバックではなく、物理的なクラッチペダルとHパターン・シフトレバーを介してトランスミッションと機械的に繋がる、本物のアナログ体験を目指していることが伺えます。
このほか、アストンマーティン、マクラーレン、そして米ヘネシーなどいくつかのメーカーが「本物の」機械的リンクを持つマニュアル・トランスミッション登載車をリリースしていますが、これらはある意味「過去の焼き直し」で、しかしブガッティがマニュアル・トランスミッションを搭載するとなると「話は別」であり、なぜならトゥールビヨンは「マニュアル・トランスミッションとの結合が極めて困難」なハイブリッドシステムを持っているから。

ハイブリッドシステムは極めて「合理的に」シフトプログラムを制御しますが、そこへ「非合理的で予測不可能な」人間によるシフトを組み合わせることは非常に難しく、しかしリマックはエレクトリックパワートレインにおいて一日の長があり、ここで「HV+MT」が実現できるとすれば、それは「大きな技術的飛躍」を示すことにほかならず、他メーカーが「過去に存在していた」機械式MTを採用するのとは意味合いが全く異なってきます(ほぼ不可能とすら言われる技術の実現に挑戦せねばならない)。
そしてブガッティは「100年後もその魅力を失わない」ための手段として「デジタル」を排除しており、そのコンセプトと(アナログな)マニュアル・トランスミッションとは整合性が非常に高く、やはりここも「現在のちょっとしたブーム」であるMT導入とはその根幹の思想が違う、ということになるのだと解釈しています。
市販化の現実味と「プログラム・ソリテール」という選択肢
1,800馬力+電動ハイブリッドをMTで制御できるのか?
技術的な観点から見ると、上述のように、トゥールビヨンにMTを搭載するには巨大なハードルが存在します。
トゥールビヨンは、8.3L V16自然吸気エンジン(1,000馬力)に、フロント2基・リア1基の電動モーター(800馬力)を組み合わせた1,800馬力のモンスターですが、この膨大なトルクに耐えうる手動用クラッチの設計や、モーターによる力強いアシストと人間のクラッチ操作をいかに自然に協調させるかという制御面の難易度は極めて高く、開発コストも天文学的数値になる可能性も。※しかも足元スペースに余裕がないのでカーボンモノコックの設計変更も必要になる

ただ、リマックはヒョンデやポルシェ、その他多くの自動車メーカーと提携関係にあり、その内容としてはエレクトリックシステムの共同開発や供与というもので、よって「もし」ブガッティ・リマックが今回「HV+MT」を実現する技術を開発できたならば、それを他の自動車メーカーへと供与するというビジネスモデルが考えられ、これが実現すれば「確実に自動車業界が変わる」ことが考えられます。
ワンオフ特注部門「ソリテール」での登場が最有力
ただし現実的な路線として考えられるのは、カタログモデルとしての量産トゥールビヨンにMTが用意されるよりも、ブガッティの超限定ワンオフ製造プログラム「Programme Solitaire(プログラム・ソリテール)」を通じて裕福な顧客のためだけの特別車として発表される可能性。
この方法だと、「顧客の負担で」ハイブリッドシステム+マニュアル・トランスミッションを開発することができ、それがのちに量産モデルに転用されたとしても、最初にMT車両を受け取った顧客は「それが自分たちの資金によって可能となった」という矜持を保つことも可能です。
なお、ソリテールは、かつてのコーチビルディング(車体製造)の伝統を現代に蘇らせ、世界で最も特別な顧客のために年間数台のみ完全オーダーメイド車両を仕立てる顧客仕立てプログラムですが、シロンをベースとした究極のワンオフモデルなどに続き、トゥールビヨン世代のソリテール第1弾として「3ペダルV16」がお披露目されるとなれば、世界中のコレクターを揺さぶる歴史的な一打となりそうですね(要するに、MT導入はブガッティの将来にとっても非常に有用であり、戦略上”理にかなって”いる)。
-
-
【全高わずか1m】ブガッティの新ワンオフモデル「Destrier」正式発表。ボリードのパワーを美しさへと昇華させた「走る彫刻」、その名は中世の戦馬に由来
Image:Bugatti | 究極の美を追求した「走る彫刻」──Destrier誕生の背景 | ブガッティ史上もっとも「抑揚」にあふれ、造形美を主張する存在 フランスのラグジュアリーハイパーカーブラ ...
続きを見る
車種概要・スペック比較と市場での位置付け
ハイパーカー界における「MT回帰」は、すでにパガーニ(Utopia)やゴードン・マレー・オートモーティブ(T.50 / T.33)、さらにはアストンマーティン(Valour)などが火をつけ、富裕層の間で熱狂的な支持を集めています。
仮にブガッティがV16マニュアルを実現させた場合、既存のハイパーカー市場でどのような立ち位置になるのか、主要な最高峰アナログ&ハイブリッドモデルと数値を比較してみると・・・。
-
-
これまたスゴいの出たな・・・。ランボルギーニ「ディアブロ」のレストモッド、「エッチェントリカ V12 ロードスター」が”V12+マニュアル”にて限定販売
Image:Eccentrica | エッチェントリカ V12 ロードスターの凄み | 「最新作」はさらにそのデザイン性と工業製品としての品質を高めている 90年代を象徴するスーパーカーの代名詞、ラン ...
続きを見る
最高峰アナログ&ハイブリッド・ハイパーカー比較表
| 項目 | ブガッティ トゥールビヨン (標準車) | パガーニ ウトピア | GMA T.50 | ブガッティ V16 MT仕様 (予測値) |
| パワートレイン | 8.3L V16 NA + 3モーターHV | 6.0L V12 ツインターボ | 3.9L V12 NA | 8.3L V16 NA (HV脱着の可能性あり) |
| トランスミッション | 8速DCT | 7速MT または 7速AMT | 6速手動MT | 「本物の」手動MT |
| 最高出力 | 1,800 PS | 864 PS | 663 PS | 1,000 PS 〜 1,800 PS |
| クラッチ機構 | パドルシフト(自動) | 3ペダル(手動) | 3ペダル(手動) | 3ペダル(手動) |
| 生産形態 | 世界限定500台 | 世界限定99台 | 世界限定100台 | ワンオフ または 極少数量産 |
※ブガッティがMTを開発する際、電動ハイブリッドシステムを削ぎ落として「V16エンジン単体+純粋な機械式MT」という超軽量仕様に仕上げてくる可能性も囁かれている。あるいはW16か

-
-
アストンマーティン史上最強のV12、「Valen(ヴァレン)」世界初公開。850馬力を誇るグランドツアラーの頂点、限定わずか150台のコレクターズカー
Image:Astonmartin | アストンマーティンの伝統に則り「V」で始まるネーミングを採用 | アストンマーティンは直近での発表の通り「V12」を継続 アストンマーティンが2026年8月、米 ...
続きを見る
結論:時代の逆を行く「究極のアナログ」がブランド価値を決定づける
0-100km/h加速のタイム競争や、スペック上の馬力数値バトルが電気自動車(EV)の台頭によって飽和状態を迎えた今、自動車愛好家が求めているのは「数字」ではなく「感じ取る体験(感性)」。
ブガッティのようなハイエンドブランドにとって、単に速いクルマを作ること以上に、「ドライバーと機械の一体感」を提供することが最高の価値となりつつあり、1,800馬力を発生させるV16エンジンのサウンドを背中に聞きながら、右足でヒール&トウを決め、金属製のシフトレバーを吸い込まれるように叩き込む──。
メイト・リマックCEOが語った「本物のV16マニュアル」が実現したとき、それはEV時代における“内燃機関への究極のオマージュ”として、自動車史に刻まれる金字塔となる可能性を秘めています。
そしてここに「HV+MTをはじめて実現したハイパーカー」、そして「不可能を可能にした挑戦の歴史」というストーリーが加わることになれば、「過去と未来の融合」という新たなる価値が生じ、これによってさらにブガッティはそのポジションを盤石なものとできるのかもしれません。
合わせて読みたい、マニュアル・トランスミッション関連投稿
-
-
マセラティ「誰も静かで快適なスーパーカーを求めてはいなかったようです」。大排気量V8と「本物のマニュアルトランスミッション」の復活を検討中
Life in the FAST LANE | マセラティが挑む超限定アナログスーパーカーの逆襲 | マセラティはやはり「メジャー」から「ニッチ」へとその方向性を変更すべきであろう 「静かで速いだけで ...
続きを見る
-
-
マクラーレンが36年ぶりに「MT」解禁。マニュアル・トランスミッション搭載の新型V8ハイパーカー「McL 6GT」がついに世界初公開【動画】
Image:McLaren | なぜ今、マクラーレンは「3ペダルMT」に戻ってきたのか? | McL 6GTが既存ラインアップとは異なる世界に属する 電動化やパドルシフト(DCT)によるシームレスな加 ...
続きを見る
-
-
ランボルギーニCEOがMT(マニュアル・トランスミッション)復活を完全否定。ファンが熱望するも「優先事項ではない」と断言する理由とは
Life in the FAST LANE. | モントレーでは「マニュアル・トランスミッション」のオンパレードであったが | まさかの「マクラーレン」もMT市場へと参入 今年のモントレー・カー・ウィ ...
続きを見る
参照:Road & Track











