| F1の技術をベースにしながらも、F1にはないアクティブエアロ、前輪トルクベクタリングといった機能も |
メルセデスAMGの開発チームにとって、このクルマは「呪い」のようなものだったらしい
さて、予告通りメルセデスAMGがそのハイパーカー「AMG One」を発表。
このAMG Oneはもともと2017年にAMG設立50周年記念モデルとして「発表」されたものの、その開発の遅れから発売がたびたび延期され、しかしようやく”AMG55周年”となる2022年にようやく開発が終了し「発売」に至ったわけですね。
なお、6月1日に発表されたのは「AMGの設立が1967年6月1日だったため」で、ぴったり55周年を迎えた今日に発表された、ということになります。
市販スペックのメルセデスAMG Oneはこんなクルマ
そこでメルセデスAMG Oneについて振り返るとともに最新スペックを紹介したいと思いますが、これはF1に搭載される1.6リッターV6ターボ、そしてやはりF1由来のエレクトリックモーターを搭載した2シーターレイアウトのハイパーカー。
1.6リッターV6ターボエンジンのレブリミットは1万1000回転、最高出力は574HPを誇り、ハイブリッドシステムのうちMGU-K(クランクシャフトに装着)は163HP、MGU-FL/MGU-FR(フロントアクスル左右に装着)は326HP、MGU-H(電動ターボ)は122HPを発生することでトータルでは1063HPを誇ります。
つまりはガソリンエンジン1基+エレクトリックモーター4基という極めて複雑な構成を持つということになり、これはもちろん市販車部門とF1部門との密接な協力関係によって開発が進められたもの。
車体構造はカーボンファイバー製モノコック、ボディパネルにもカーボンファイバーを採用していますが、荷重支持型エンジン/トランスミッションユニット、アクティブエアロダイナミクス、プッシュロッドサスペンションなどモータースポーツ由来のテクノロジーを多く備え、これらに加えてAMGパフォーマンス4MATIC+フル可変全輪駆動というモータースポーツでは投入されていない(レギュレーション上実現できない)駆動方式も導入され、さらには「ピュアエレクトリックモード」での走行も可能です。
トランスミッションには7速デュアルクラッチを採用しますが、これは完全に新設計されており、カーボン製のクラッチプレートを4枚備える、と紹介されています。
ボディサイズは全長4756ミリ、全幅2010ミリ、全高1261ミリ、車体重量は1695kg、ホイールサイズはフロント19インチ/リア20インチ、タイヤはフロントが285/35 ZR19、リアでは335/30 ZR20。
タイヤは専用のミシュラン パイロットスポーツカップ 2R M01が装着され、サイドウォールにはAMG Oneのシルエットが刻印されている、とのこと。
運動性能に関しては0-100km/h加速は2.9秒、0-200km/h加速だと7.0秒、300km/hまでだと15.6秒、トップスピードは352km/h、ピュアエレクトリックモードでの走行可能距離は18.1kmというスペックが公表されています。
メルセデスAMG Oneはひとつの、そして大きな挑戦
メルセデスAMG社取締役会長のフィリップ・シーモア氏によると「Mercedes-AMG ONEで、私たちはひとつの限界を超えることができました。最新のF1パワートレインを日常的な道路走行に適合させるという困難な技術的挑戦は、間違いなく私たちの限界に挑戦するものでした。開発期間中、多くの人がこのプロジェクトの実現は不可能だと考えたかもしれません。しかし、アファルターバッハ(MAG)とイギリス(F1)のチームは、決してあきらめず、自分たちを信じて取り組んでくれました。私は関係者全員に最大の敬意を表し、このチームの功績を誇りに思います。このようなハイパーカーの上にF1のパワーユニットを乗せることは確かにユニークなことです。これは、私たちメルセデスAMGが技術的な観点からだけでなく、忠実な顧客との密接な交流を目指すという点にも当てはまります」。
さらにメルセデスAMGのテクニカルマネージングディレクター、ヨッヘン・ヘルマン氏は「メルセデスAMG ONEの性能データは、結局のところ、このクルマに搭載されている技術のほんの一部でしかありません。比較的小型で高効率の内燃機関と4つの電気モーターを組み合わせて1063hpを発生するF1パワートレインを除けば、記念碑的な仕事は何よりも排気ガスの後処理でした。メルセデスAMGとメルセデスAMGハイパフォーマンス・パワートレインズのチームは、ここで本当に素晴らしい仕事をしたと思います。このプロジェクトは呪いのような部分もありましたが、同時に祝福のようなものでもありました。AMG oneに使用されている素材、卓越したシャシー部品、空力的な改良に至るまで、複雑さという点では、メルセデスAMG ONEに勝るものはないのです。F1マシンでは、ラップトップコンピューターを使用してエンジニアのチームがパワートレインの始動を確認しなくてはなりません。しかし私たちのハイパーカーのエンジン指導において必要なのはボタンを押すだけです。これは、このクルマに注ぎ込まれた膨大なソフトウェアのノウハウを示すものでもあります」とコメント。
とにかく技術的には大変な困難を乗り越えて開発されたのがこのメルセデスAMG Oneとなりますが、F1マシンからのパワートレイン面での変更点は主に「市販ガソリン用にエンジンを再調整したこと」「フロントアクスルにエレクトリックモーターを搭載したこと」。
そしてF1にはないフロントモーターが事態をさらにややこしくしたといい、トルクベクタリングの調整のほか、運動エネルギーの回収(日常的な走行だと80%を回収できる)、さらにはAMG One専用に開発したリチウムイオンバッテリー、そしてその冷却システムなど想定外の困難が待ち受けていたようですね。
ちなみにバッテリーシステムには800Vを採用し、「ダイレクトクーリング」を取り入れることで各セルを個別に冷却することが可能となったため「45度」の温度を保つことが可能となったほか、万一のクラッシュに備えた安全構造も採用している、とのこと。
メルセデスAMG OneのパフォーマンスはF1譲り
メルセデスAMG Oneには6つのドライブプログラムが備わり、これらは「レース・セーフ」「レース」「EV」「レースプラス」「ストラト2」「インディビデュアル」となりますが、「ストラト2」ではアクティブエアロダイナミクスがON、サスペンションがもっとも硬めのチューニングとなって37mm(フロント)/30mm(リア)の車高ダウンが自動的に行われ、F1予選と同様に全モーターをフルパワーで駆動するというスパルタンな仕様となるもよう。
シャシー構造は上述の通りカーボンファイバー製のモノコックですが、フロントとリアはアルミ製のサブフレームにて構成され、サスペンションは進行方向に対して「縦」に設置されたプッシュロッド(この配置によって、急激な旋回の際にも不快なローリングを避けることができる)。
このほか、ホイールベアリングには摩擦の少ないセラミックを使用し、ホイールにもカーボンファイバー製のパーシャルカバーを装着するなど細部に至るまでこだわりが発揮されています。
ブレーキシステムはもちろんカーボンセラミックディスクを備え、フロントには6ピストン、リアには4ピストンキャリパーが与えられることに。
なお、マグネシウム製”バイオニックデザイン”ホイールもオプションで用意され、こちらのパーシャルカバーは「ブレーキ冷却の最適化、空力効率の向上を両立した」と紹介されています(今回、画像は公開されていない)。
メルセデスAMG Oneのエクステリアはモータースポーツのトップカテゴリにインスパイアされている
メルセデスAMG Oneのボディデザインはモータースポーツ、とくにトップカテゴリにインスパイアされているそうですが、なによりも重要視されたのは「魅力は常に機能と結びついている」というAMGの基本原則。
LMP1クラスのレーシングカーのようにコクピットが前面に押し出され、前後ホイールアーチが盛り上がり、車体中央は「ハチのように」くびれています。
なお、もっとも重視されたのはエアロダイナミクスであり、時速50kmの時点からダウンフォースを発生させ、速度が上がるにつれダウンフォースも(アクティブエアロとともに)強化されてゆくようですね。
フロントセクションの特徴はボディ幅めいっぱいに広がるフロントエプロン、そしてU字型のデフレクターとエアインテーク、ボンネット状のエア排出用スリットなど。
フロントディフューザーにはアクティブエアロが仕込まれ、もちろんフェンダー状のルーバーも「可動式」。
ちなみにフロントのメルセデス・ベンツのエンブレム(スリーポインテッドスター)はエアブラシで(反射までもが)描かれたもので、つまりは平面です。
キャビンは「バブル形状」、そしてルーフ上にはシュノーケル、そしてシャークフィンも。
ボディ下部はF1マシンを連想させるブラック、そして後半にかけて再現されるグラデーションはF1マシンをペイントするアーティストによって施されるのだそう。
リアウインドウに相当する部分は「全閉」となり、リアウイングは2ピースの格納式ブレードと可動式フラップにて構成されます。
テールランプ内には3連のブロックがあり、これはヘッドライトと同じですね。
ちなみにドライブモードは「6つ」ですが、ドライブモードによってさらにアクティブエアロの動作形態を選ぶことができ、「レースセーフ」「レース」「EV」「インディビジュアル」の各ドライブプログラムだと「ハイウェイ(ローダウンフォース)」を選択でき、「レース・プラス」および「ストラト2」では「トラック」「レースDRS」を作動させることができるようですね。
メルセデスAMG Oneのインテリアも「サーキット優先」
そしてメルセデスAMG Oneのインテリアもやはりモータースポーツに強くインスパイアされており、F1のテクノロジーを公道でも体験できるように設計されています。
コンセプトは「ノー・スタイリング」だといい、これはデザイン優先ではなく機能がデザインを決定するということ、彫刻的な造形表現と妥協のないレーシングデザインの融合、大胆なミニマリズムを表しているのだそう。
ただし一方では人間工学を強く意識しており、レーシングシート(30度と25度に調整できる)とフットウエル、さらにサイドシルが溶け込むデザインや、シンプルなスイッチの配置を持つセンターコンソールなど、使いやすさにも配慮されています。
ちなみにステアリングホイール位置は電動、ペダルボックスは11段階に調整することができ、ドライビングポジションの調整範囲はかなり広いようですね。
メーターは10インチ液晶ディスプレイ、そしてその横にはインフォテイメントシステム用のディスプレイがもう一つ。
ケーシングはいずれも質感を重視した金属製。
ステアリングホイールはスクエア形状を持ち、トップにはシフトランプが内蔵され、そしてドライブプログラム、9段階のAMGトラクションコントロール、DRSの作動、サスペンションの設定などはステアリングホイールから手を離すことなく操作を行うことが可能です。
ただしメルセデスAMG Oneでは日常性も考慮されており、USBポート(2つ)やエアコン、パワーウインドウといった快適装備も完備(ステアリングホイールにはエアバッグも内蔵)。
後方の確認にはミラーではなくモニターを用いますが、このハウジングの処理を見ても、メルセデスAMGが「ある程度の高級さ」を演出しようとしたことがわかりますね。
そして左右シート中央には「万が一の際には役に立つ」消化器が備わります(燃えないことを祈る)。