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ポルシェ911はこの60年で「排気量が2倍、パワーは4倍」。そしてその進化の影には常に「ターボ」が存在し、ポルシェが改めて電動ターボ、911のハイブリッド化を語る

ポルシェ911はこの60年で「排気量が2倍、パワーは4倍」。そしてその進化の影には常に「ターボ」が存在し、ポルシェが改めて電動ターボ、911のハイブリッド化を語る

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| ポルシェの歴史を追ってゆくと、市販車に採用される多くの技術がモータースポーツと密接に結びついていることがわかる |

そして創業当初から「効率化」を追い求め、その手法が時代と技術の進歩によって変化していることもよく分かる

さて、ポルシェ911がこの世に登場してからはや61年、911ターボが登場してから50年を迎えようとしていますが、ポルシェ911は今も変わらぬ「リアエンジン、フラットシックス」というパッケージングを維持し、しかしそのエンジンは2リッターから最大で4リッターへ、そして出力は130馬力から650馬力(911ターボS)へと拡大しており、つまり排気量は2倍、出力は4倍以上にも達しています。

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ポルシェ911の革新はいつも「ターボ」によって実現された

そこでポルシェ911に積まれるエンジンの進化を振り返って見ると、やはり最初のブレイクスルーは1974年の930ターボ。

この930ターボは「市販車初のターボエンジン搭載モデル」としても知られますが、シングルターボ+燃料噴射装置との組み合わせで260馬力を発生しており、つまり911発売当初の「倍」のパワーを生み出します。

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ポルシェはこれについて「自動車業界、およびスポーツカーのエンジンに革命をもたらした」と述べていますが、市販化に至るまでには様々な課題があり、ポルシェはそれらの課題をモータースポーツという舞台において解決してきたわけですね。

ターボエンジンの中核となるのはもちろんターボチャージャーで、このターボチャージャーはタービンホイールとコンプレッサーホイールによって構成され、最高では10万rpmを超えて回転することになるのですが、重要なのが「ブースト圧のコントロール」。

エンジンの排気を受けてこのタービンが回転し、そこで圧縮した空気をエンジンへと送り届けるという動作原理を持っていて、しかし排気流量が多くなるとタービンの回転数が高くなり、そのままだとエンジンへ送る空気が「過大」となってしまってエンジン含むコンポーネントを破損してしまう可能性が生じます。

そこで当時のポルシェのエンジニアが考案したのが「高くなりすぎたブースト圧を逃がすためのウェイストゲート」。

これによって「ブースト圧が限界値になると、バイパスを通って圧力を逃がす」ことが可能となり、これは今や一般的な機構ではありますが、その元祖はどうやらポルシェということになりそうです。

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その後にポルシェのエンジニアが導入したのが「インタークーラー」。

上述の通りタービンは超高速で回転しますが、これは「熱」という問題を生じさせ、この熱はシリンダー内の混合気の燃焼に悪影響を及ぼすこととなり、しかしポルシェは1978年以降の930ターボにて新しく設計されたインタークーラーを導入し、そしてこれによって「300馬力」を達成しています。

なお、このインタークーラーは「ターボウイング(ホエールテール)」の上面の真下に位置しており、つまりターボウイングの形状は「ちゃんと意味がある」わけですね(もちろん、ポルシェは今まで意味のないモノを作ったことはない)。

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993世代の911ターボでは「ツインターボ」によるターボラグの解消

ただしそれでも「ターボラグ」という大きな問題が残っており、930ターボにおいては「3,500回転までだと自然吸気エンジンと同じフィーリングであるが、そこからブーストが掛かると、後ろからバットで叩かれたように飛んでゆく」と表現され、高回転しか使用しないレーシングカーであればともかく、市街地を走るロードカーにとってはドライバビリティ上”解決せねばならない問題”でもあったわけですね。

そこでポルシェが導入したのが「ツインターボ」であり、これはターボチャージャーのサイズを小さくすることで低回転からリニアでレスポンスの良いブーストが得られ、しかし小さい容量に起因するブースト圧不足は「タービンを2つ」設けることで解決しています。

このツインターボは第4世代の911ターボ(993)で導入された機構で、これによって993ターボは怒涛の408馬力を発生することになりますが、このパワーをコントロールするためにポルシェははじめて911ターボに「4WD」を導入しています。

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その後に登場したのが、ポルシェ自身が「新技術への入口」と称する水冷世代の996ターボ。

ここではじめて「燃焼室ごとに4つのバルブを持つシリンダーヘッド」が採用され(これもやはりモータースポーツ由来の技術であり、962からのフィードバックである)、これに次ぐ997世代の911ターボでは「可変タービンジオメトリー(VTG)」なる新技術が導入されており、これによってパワーとトルクが一気に10%以上も向上することに。

このVTGは「タービンのブレード(羽根)の角度を任意の変更することで」圧縮空気の流量をコントロールするという画期的な技術ですが、理論上は容易であっても「1000度以上の温度に達し、10万rpm以上で回転する」タービンを制御することは容易ではなく、よってポルシェはこれを実現するるために宇宙産業グレードの素材を使用しています。

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ついにポルシェの「ターボエンジン」はハイブリッド化されることに

そして今回の本題が先ごろ発表されたばかりの新型911(992.2)カレラGTSに積まれる「超軽量T-ハイブリッド」パワートレイン。

このパワートレインのハイライトはeATLと呼ばれる電動ターボチャージャーで、通常の(排気ガスで回転する)タービンとコンプレッサーとの間に仕込まれたエレクトリックモーターが強制的にタービンを回転させることでブースト圧を生み、これによって事実上ターボラグのない加給が可能となります。

これによってタービンは「2個から1個へ」と930ターボ時代へと逆戻りするものの、電動タービンによってターボラグが解決されており、しかも構造がシンプルに、そして補機類含むエンジンの重量とサイズが「より小さく」。

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さらには高電圧システムを使用したハイブリッド化を前提として車両が設計されているため、この高電圧システムがエアコン用コンプレッサーを駆動することで「いままでエンジンからベルト駆動によって取り出していた」デバイスが不要となり、当然ながらこれによって重量が削減され、かつ「エンジンから持ってゆかれるパワー」も軽減することが可能となるわけですね。

さらにエンジン本体は3リッターから3,8リッターへと排気量アップしつつもクランクケースの高さが20%低くなっており、そのスペースに(ハイブリッド化のための)パルスインバーターやDC-DC変圧器を押し込むことが可能となっています(911としてのパッケージングを維持している)。

ちなみに新型911カレラGTSは「ハイブリッド」でありながらもエレクトリックモーターのみでは走行できず、それはポルシェのエンジニアが「911を可能な限り軽く仕上げるため」バッテリー容量を1.9kWhに留めたから。

この点においても、911カレラGTSのハイブリッドシステムがパナメーラやカイエンの「燃費重視型」プラグインハイブリッドシステムとは根本的に異なるということがわかるかと思います。※新型911カレラGTSは結果的に先代比で+50kgに収まっている。ハイブリッドシステム自体はもっと重いが、上述の高電圧システムの採用によって削減できたパーツも多い

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そして特筆すべきはこの「電動ターボ」そのものがエネルギー回生を行うこと。

エンジン回転数が低い際にはエレクトリックモーターがタービンを回転させて電力を放出するものの、エンジン回転数が高まりブースト圧が上がりすぎるとタービンに「ブレーキがかかり」、これによって回生が生じてバッテリーへと給電することが可能となるわけですが、このロジックによって(電装品駆動用の)バッテリーを小型化することができ、ここでも軽量化を達成することが可能となっています。※エンジンを3.8リッターに排気量アップしたのは回生を積極的に活用したかったからなのかもしれない

ポルシェ
ポルシェが911(992.2)で採用したハイブリッドは自社の従来システム、そしていずれのライバルとも異なるものだった。わずか50kgと引き換えに多くのものを手に入れる

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加えてこの電動ターボのもう一つのメリットは「ウェイストゲートが不要になること」で、今までタービンから逃がしていた不要な圧力さえをも「回生を通じ電力として再利用する」という効率面での改善を果たしており、ポルシェによれば「この形態では世界初」。

つまりはウェイストゲートを最初に発明したのもポルシェであるならば、電動ターボ化によってこれを廃止したのもポルシェであるというユニークな事実がここにあるわけですが、このポルシェ911カレラGTSについては、「もともとの911に、ハイブリッドシステムを後付けしたのではなく」、ターボチャージャーとハイブリッド化、エネルギー回生、エンジンの設計、さらには各コンポーネントの配置を含めて再設計・最適化したと考えて良く、従来の911とは全く別の思想を持つ別のクルマであると捉えるべきなのかもしれません(しかしその設計思想はポルシェ設立当初の”効率化”に基づいたものであり、911としてのパッケージングを維持している)。

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参照:Porsche

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