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ポルシェはかつて924ターボ「タルガ」の開発を行っていた。走行わずか328kmのプロトタイプ1台を残して計画が廃棄されたその理由とは

ポルシェはかつて924ターボ「タルガ」の開発を行っていた。走行わずか328kmのプロトタイプを残して計画が廃棄されたその理由とは

Image:Porsche

| ポルシェは昔から様々な可能性を追求してきた |

それでも実際に発売されるクルマは非常に少なく、それだけポルシェは「慎重」ということなのだろう

さて、それぞれの自動車メーカーはそれぞれの思惑を胸に様々なクルマを企画していますが、中には企画だけで終わったもの、企画から進んでプロトタイプが制作されたもののそこで頓挫したもの、生産開所直前まで進みながらも何らかの事情で計画が潰えたものなど実に多種多様です。

そして今回紹介するのはわずか1台のみしか生産されなかった「ポルシェ 924ターボ タルガ」で、この個体は現在シュトゥットガルトのポルシェミュージアムに展示中なのだそう。

ボディカラーはアルピンホワイト、インテリアはブラックにタータン柄といった特徴を持ち、走行距離はわずか328kmにとどまります。

ここでこのユニークなプロトタイプが誕生した経緯を詳しく見てみましょう。

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Porsche

ポルシェ 924 ターボ タルガはこんな歴史的背景を持っている

そもそもの924 ターボ タルガの前には「924 ターボ」が存在し、924ターボの前には「924」存在します。

ポルシェのエントリーモデルである912および914の後継である924は、もともとポルシェとフォルクスワーゲンの共同プロジェクトとして開発が進められ、より具体的には、スポーツカーを販売するために2つのブランドが設立した共同販売およびマーケティング会社である「 VW-ポルシェ ヴェルトリーブスゲゼルシャフト (VG) 」によって開発が行われています。

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この時点だと、フォルクスワーゲン社内にはスポーツカー関連部門がなかったため、スポーツカーの研究、設計、開発作業のほとんどはポルシェによって行われていたものの、VWはエンジンを供給していたという経緯もあり、ポルシェは既存のVWおよびアウディ製エンジンと互換性のある車両を作成する契約を結んだわけですね。

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Porsche

しかし一連の要因により、このコラボレーションは短命に終わり、その理由は上記VGの解散と、VW-アウディ(当時)の社長であるクルト・ロッツがルドルフ・リーシングに交代したこと、そして1973年の石油危機と米国の規制変更。

これらの事情によって924プロジェクトは完全に放棄され、フォルクスワーゲンはその代わりとして、より安価で実用的なモデルであるシロッコの開発を進めるという選択を行うこととなるのですが、しかしポルシェは914に代わる新しいスポーツカーを必要としており、さらに924の設計と開発作業がかなりの段階まで進んでいたことから924プロジェクトの所有権を完全に(VWから)取得することとなっています。

924はポルシェの歴史において多くのマイルストーンを象徴するクルマだとされますが、「ポルシェの純粋主義者」にとって最も衝撃的な変化は924が”水冷式になったポルシェ最初の量産モデルだったこと(これは924の発売時にある程度の論争を引き起こした)。

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Porsche

そして924はもう1つの大きな技術的進歩を象徴しており、それはポルシェにとってトランスアクスルレイアウトを採用した最初のモデルであったことで、これはのちの944、928、968にも引き継がれます。

オリジナルの924には、デザイン、燃費、ハンドリング、信頼性など、賞賛に値する多くの領域があったものの、110馬力というわずかな出力に起因するパフォーマンスの欠如が自動車雑誌から酷評されてしまい、しかし、そういった状況も924の発売から2年後である1978年に「924ターボ」が市場に登場すると文字通り「状況が一変」。

924ターボは、924と911の間のミッシングリンクとなり、ポルシェがこの「ギャップ」を認識したときに企画が開始されたと言われますが、当時のテストの結果、924のシャシーは「ずっと高い馬力に対応できる」ことがわかったため、ポルシェはそこで924のハイパワーバージョンの作成にかかります。

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当時ポルシェは主にモータースポーツ、さらには911ターボ開発の経験を通じてターボに関する知見を深めており、実際にこの924ターボに使用された技術の多くは911ターボから借用されたもの。

2.0リッター直列4気筒「ターボ」エンジンは手作業で組み立てられ、エンジン本体はターボチャージャーに対応するために大幅にアップグレードがなされており、具体的にはシリンダーヘッドやコネクティングロッド、特殊な形状のピストンまで、ほとんどの部分が再設計されていますが、車両の外観上だと通常の924との差異はさほど大きくなく、識別点だと「ボンネットにNACAダクトを備え、4つのスロット付きエアベントを備える給気口」、そのほかはダックテールリヤスポイラーや15インチの専用デザインアルミホイールなど(つまり911ターボのようにワイドボディ化がなされていない)。

はたしてこの924ターボは、(924を酷評していた)自動車メディアから高い評価を受け、さらにはモータースポーツの世界でも一定の成功を収めて1979年のモンテカルロラリー(GT4クラス)では4位を獲得したことも。

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そこでポルシェはこの成功を確固たるものとすべくバリエーションの拡大を検討し、そのひとつが「タルガ」バージョン。

当時このアイデアを実現するための試みが何度か行われ、そのうちの1つが現在シュトゥットガルトに保管されているプロトタイプというわけですが、当初の計画だと、ポルシェは924の自然吸気バージョンとターボ バージョン両方のタルガトップを生産するつもりだったそうで、このプロジェクトは1977年5月1日に開始され、941と942というコードネームにて開発作業が開始されています。

その過程において提案されたコンセプトの1つは、リアウィンドウの上にスライドできる革新的なガラスルーフだとされますが、しかしこれは採用には至らず(20年後、993世代の911タルガで実現している)、プロトタイプ製作時に選ばれたのは画像のとおりの伝統的なアプローチ。

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タルガバー上部はタルガ ルーフと同じ種類のプラスチックで作られており、(911タルガとは異なって)シームレスな外観を実現しており、脱着式ルーフは特別なキーでロックおよびロック解除を行うことが可能です。

この924 ターボ タルガの開発は80年代初頭まで続いたものの、そこでプロジェクトは完全に棚上げされまい、その理由は(ポルシェの最大限の努力にもかかわらず)924 ターボ タルガの生産には多くの問題が立ちはだかり、最初の問題は開発とツールコストが高すぎると判断されたこと、そしてもう1つの重要な問題はボディ剛性を確保できないと判断されたこと。

オープンモデルは一般的に、ボディ剛性の低さとシャーシのたわみに悩まされることが多く、924 ターボ タルガも結果的にこの問題を解決することができず、それがプロジェクト終焉の一因になったと伝えられています。

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なお、924 ターボ タルガの「開発中止」の”間接的”要因となったのが「944」だといい、ポルシェは開発や製造コストが高くつく924 ターボ タルガの開発をあきらめ、代わりにそこで得た資産を944のオープンモデルに注ぎ込むことでラインナップのギャップを埋めることに専念することになったわけですが、このアルピンホワイトの924 ターボ タルガはそういったポルシェの歴史の「生ける証人」というわけですね。

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参照:Porsche

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