| すでにフェラーリのブランド価値は世界トップクラスにある |
フェラーリが「常に供給は需要以下にとどめる」とコメント。
これは先日「我が社は台数を追求することに興味はない」と述べたのと同様の意図ですが、やはりフェラーリのマーケティング部門のボス、エンリコ・ガリエッラ氏が語ったもの。
なお、フェラーリが”顧客が求めるよりも少なく作る”のはフェラーリの伝統でもあり、というのはフェラーリ創業者であるエンツォ・フェラーリのモットーが「顧客が買いたいと思うよりも一台少なく作る」。
フェラーリの限定モデルの生産台数が「299台」「499台」といった感じでキリのいい数字から常に一台少ないのはこの伝統を今に至るまで守っているからですが、今回エンリコ・ガリエッラ氏は改めてこれを強調した、ということになります。
フェラーリは手に入れることができない美女
さらに「フェラーリは排他性・希少性を追求する」とも主張しており、これは「需要よりも少なく作る」という意味のほか「新車の注文から納車まで、顧客をを待たせる」という戦略も含まれる模様。
これについても様々な意味があり、「手に入りにくい」環境を作ること、そして「ようやく念願叶って手に入れた時の喜びを増大させる」ことを考えているようですね。
フェラーリの市販車ビジネスは、もともとレーシングカーを市販用に手直しして富裕層に販売したことからスタートしており、その段階から「引く手あまた」。
そして当時から客を選ぶというビジネスを展開しており、気に入らない客には「売らなかった」とも言われます(ヒールを履いてフェラーリを買いに行った女流詩人に対し、”そんな靴では運転できん!”と一蹴したことも有名)。
このスタイルはどの会社にでもできることではなく、「レースで勝たないと成立しない手法」。
よってフェラーリはレースで勝つことを最大の宣伝としており、それ以外の広告活動はけして(今に至るまで)行わない、というスタンスも貫いています。
さらに今なおフェラーリはその限定モデルについて「客を選ぶ」ことで知られており、以前は「購入台数や保有状況」が重視されたものの、現在では「若く、ネット上で影響力がある人々」に重きを置かれている模様。
よって実業家はじめビジネスで成功した人、そしてスポーツ選手に対してフェラーリがアプローチを行うことが多いようですが、そのためにフェラーリは顧客もしくは潜在顧客に対し、どういった人々を重視するかというアンケートも積極的に行なっています。
こういった例を鑑みても、フェラーリはそのブランドならびにクルマに対し、「強い憧れ」を抱くように様々な手法を用いているということになりそうで、かなり綿密な計画に従いマーケティングを行なっているということがわかりますが、マーケティングなどという言葉のなかった時代に、エンツォ・フェラーリが本能的にこれをやっていた、ということにも驚かされますね。
なお、フェラーリの前々CEO、ルカ・ディ・モンテゼーモロ氏はフェラーリのクルマをして「手の届かない美女」と表現しており、これは言いえて妙。
ただしその後のCEOであるセルジオ・マルキオンネ氏はフェラーリの販売台数増加政策推進や、SUV投入を決めたことでフェラーリブランドをいささか希薄化させてしまった印象があり、そして現体制になってからその方向性を修正している、とも考えることができるのかもしれません。
にもかかわらずフェラーリはここ最近、F8トリブート、SF90ストラダーレ、そして812GTS、F8スパイダーと矢継ぎ早に新型車を投入しており、これは「希少性」を追求するのとは逆方向のようにも思えます。
ただ、フェラーリはこれから1モデルあたりのモデルサイクルを短くするとしており、つまりそのモデルあたりの「累計生産台数」を少なくするのかも。
そうなると、ニューモデルが発表されたのちに注文したとしても「すでに予定生産台数の枠が埋まっている」という状況にもなってしまい(実際のところF8とリブートは発表されて間もないのに、すでに生産予定台数に達したために注文できない)、結果的に希少性と排他性を引き上げることになりそうですね。
フェラーリは中古市場も常に重視
そしてこういった希少性や排他性は中古相場の高騰をを引き起こす可能性がありますが、かねてよりフェラーリは中古市場を重視。
フェラーリは、「エントリーモデルを作らないのか」というメディアの問いに対し「中古フェラーリこそがエントリーモデルである」と回答。
さらに、中古市場に出回っているフェラーリは「(お金はあっても注文の枠が確保できなかったなど様々な理由で)新車でフェラーリを買うことができなかった人」ということになるのかもしれず、そういった人々が中古市場のフェラーリを購入することで中古相場が上昇する、ということになりそう。※実際にフェラーリの限定モデルはそういった構造となっている
フェラーリは「中古車と新車とは密接化な関係がある」と認識しており、そのために「新車に7年保証を付与し、中古車でもそれを(一定の条件のもと)引き継ぐことができる」体制を整え、中古車であっても安心して購入できる体制を整えているのだと思われます。
そうすることではじめてフェラーリの中古車(=フェラーリのエントリーモデル)を購入してフェラーリの世界に入り、そこで経験を積んだのちに新車を購入するという通過儀式的な図式が出来上がる可能性もありそうですね。
そして最終的には、(限定ではなくレギュラーモデルであっても)新車でフェラーリを購入できるのはフェラーリオーナーのみで、非フェラーリオーナーはまず中古にてフェラーリを購入しなければならない、ということにもなりそう。※かつてフェラーリの重役は「ランボルギーニを購入しているのは、フェラーリを売ってもらえなかった人々である」という発言をしたことがある