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| なぜフェラーリは「V12ミドシップ」の象徴ともいえる名称をV8モデルに与えたのか |
さて、フェラーリは新型車「849テスタロッサ」を発表していますが、「1,050馬力」というフェラーリのロードカー史上もっとも高い出力以上に話題となったのが「テスタロッサ」というネーミング。
「テスタロッサ」と聞けば、自動車に詳しくない人でもフェラーリを思い浮かべるものと思われ、実際に1980年代を代表するスーパーカーのひとつであり、自動車史に残る名車でもあります。
しかし実はフェラーリは一時期、この「テスタロッサ」という名前を失いかけていたことがあり、長い法廷闘争の末、権利を取り戻したフェラーリは新型モデルに「テスタロッサ」の名を冠し、再び歴史を動かそうとしているわけですね。
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「テスタロッサ」名称を巡る法廷闘争
- 1987年:フェラーリが「Testarossa」を商標登録(赤いカムカバーに由来する“赤い頭”という意味)
- 2006年:商標を更新、車名としては使用されていなかったものの、グッズや玩具などで継続利用
- 2015年:ドイツの玩具会社役員クルト・ヘッセが「使用実績がない」として異議を申し立て勝訴。EU知的財産庁はフェラーリの商標を無効に
- 2023年:フェラーリが逆転訴訟を起こし、2025年にEU一般裁判所がフェラーリの主張を認めて商標を復活
新たな商標「849 Testarossa」
そしてフェラーリは勝訴直後に「849 Testarossa」という新商標をアイスランドで出願。
- 既存の「Testarossa」商標(有効期限2026年10月)とは別に確保
- アイスランドは地理的に欧州と北米の両プレートにまたがっており、権利確保の戦略上有利とされる
- 新商標は2035年1月まで有効
この動きはフェラーリが「テスタロッサ」という名を今後も確実に自社のものとするための布石だとも受け取ることが可能です。
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新型「849 テスタロッサ」の登場
2027年モデルとしてデビューする新型「849 テスタロッサ」は、SF90ストラダーレの後継に位置づけられ、2基のモーターがフロント、1基がエンジンとトランスミッション間に搭載されてトルクベクタリングを実現し、空力面では約275km/hで100kgのダウンフォースを発生させる可動式リアスポイラーも採用しています。
主要スペック
- パワートレイン:4.0リッターV8ツインターボ+3モーター
- システム総出力:1,050馬力
- トランスミッション:8速DCT
- 0-100km/h加速:約2.3秒
- EV走行距離:約26km(最高130km/hまでにおいてEV走行可能)
デザインはF80コンセプトや往年のプロトタイプレーシングカー「512 S」「512 M」からインスピレーションを得ており、水平基調のフロントや攻撃的なディフューザー形状が特徴です。
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フェラーリと「名前」を巡るもうひとつの歴史
実は「テスタロッサ」騒動がフェラーリにとって初めてのネーミングトラブルではなく、創業者エンツォ・フェラーリは、アルファロメオとの関係解消後に一時的に(アルファロメオとの取り決めにて)自分の名前を車に使えなくなり、最初の自動車メーカーを「Auto Avio Costruzioni」という別名で立ち上げざるを得なかったということも。
その後、1940年代にその猶予期間が無事終了して「Ferrari」の名を復活させ、F1やロードカーで成功を収めたのはご存じのとおりです。
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なぜフェラーリはV8モデルに「テスタロッサ」の名を与えたのか
そこでどう考えてもわからないのが「なぜV8モデルにV12ミドシップの象徴的ネーミング、テスタロッサを与えたのか」。
その理由はまったくわからず、かつ明かされてもおらず、しかしフェラーリ内部ではかなりの議論があったのかもしれません。
参考までに、「849」というのは「8気筒」「1気筒あたりの排気量が約499ccであること」に由来していますが、フェラーリの命名法則は時代やモデルによって多種多様で、厳格なルールがあるわけではありませんが、いくつかのパターンに分類でき、ここで代表的な例を見てみましょう。
1. エンジン排気量に基づく命名
初期のモデルで多く見られた、最も古典的な命名方法です。
- 1気筒あたりの排気量: フェラーリの黎明期(1950年代頃まで)によく使われていたもので、例えば、「125 S」は1気筒あたりの排気量が125cc、12気筒なので総排気量は約1.5Lとなります。同様に、「250 GTO」は、1気筒あたり250ccの12気筒エンジンを搭載しています。
- 総排気量+気筒数: 1960年代後半から1980年代にかけてのV6やV8モデルに多く見られる方法で・・・。
- 「最初の2桁が排気量(L)、最後の1桁が気筒数」:例として「348」は、3.4LのV8エンジンを意味します。
- 「最初の1桁が排気量(L)、最後の2桁が気筒数」:例として「512 BB」は、5.0Lの12気筒エンジンを意味します。※エンツォ・フェラーリはパワー同様、数字にもこだわりがあったとされ、1気筒あたりの排気量が「小さく」、それを命名に採用すると数字が小さくなってしまう場合は、「(非力に見えることを避けるためか)より大きい数字に関連した」命名を行ったとされる
- 総排気量のみ: 1990年代以降のモデルでは、総排気量(L)を小数点以下を四捨五入して表すことが多くなっています。例:「360モデナ」は3.6L、「F430」は4.3Lです。
2. 馬力・性能に基づく命名
比較的最近のモデルで採用されるようになった方法です。
- 「最初の数字が馬力、最後の数字が気筒数」:例:「812 Superfast」は、約800馬力(正確には800ps)の12気筒エンジンを搭載していることを示します。
3. アルファベットやサブネームの意味
数字の後ろに付くアルファベットやサブネームにも意味があります。
- GTB: Gran Turismo Berlinetta(グランツーリスモ・ベルリネッタ)の略で、クーペタイプを表します。
- GTS: Gran Turismo Spider(グランツーリスモ・スパイダー)の略で、オープンタイプを表します。
- GTO: Gran Turismo Omologata(グランツーリスモ・オモロガータ)の略で、レースのホモロゲーション(公認)を取得したモデルであることを意味します。
- MM: Mille Miglia(ミッレミリア)の略で、伝説的な公道レースを記念したモデル。
- SP: モンツァSP1 / SP2、デイトナSP3など、ICONAシリーズに用いられることが多いもよう(ワンオフモデル=フオーリ・セリエにもよく用いられていた)。
4. 特別な命名
特定の記念日や人物、地名にちなんだ、命名法則に当てはまらない特別なモデルも存在します。
- F40/F50: フェラーリ創業40周年、50周年を記念したモデル。
- Enzo Ferrari: 2002年に発表されたモデルで、創業者エンツォ・フェラーリの名を冠しています。
- Dino: エンツォの若くして亡くなった息子、ディーノにちなんで命名。
- Testa Rossa: イタリア語で「赤い頭」を意味し、エンジンの赤いカムカバーに由来します。
- Modena: フェラーリの本社がある街の名前。
- Maranello: フェラーリの本拠地がある街の名前。
- Italia: イタリアという国名そのものを冠したモデル。
- Amalfi: イタリアのリゾート地を命名に用いたもので、カリフォルニア、ローマ、ポルトフィーノ同様に「ライフスタイル系」に多い。
- Purosangue: もっとも特殊な命名の例でもあり、イタリア語で「純血」を意味。おそらくは「SUV」というフェラーリらしくないクルマを発売する際のエクスキューズのひとつであったのだと思われる。
- EC: エリック・クラプトン向けに制作されたワンオフモデルに付与。このほか「CZ」などオーナーにちなむ固有の命名がいくつか存在します。
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このように、フェラーリの命名法則は一つのパターンに縛られることなく、時代やモデルのコンセプトに応じて柔軟に変化しているのが特徴で、今後も様々な名称が登場することになるのかもしれません(そして実際に様々な商標が出願されている)。
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まとめ
- フェラーリは「テスタロッサ」の名称権を失いかけるも法廷闘争で取り戻した
- 新商標「849 Testarossa」を出願し、今後の安定的な利用を確保
- 2027年には1,036馬力のハイブリッド・ハイパーカー「849 テスタロッサ」として復活
- フェラーリの命名法則には厳格な決まりはない
- なぜV8モデルにV12エンジンの象徴的な名称を与えたのかはわからない
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