
| すべてのフェラーリが「サーキット仕様」になるわけではない |
現在のフェラーリはモデルごとにその方向性を大きく分けている
これまでの歴史を見るに、フェラーリは「V12エンジンを愛するのと同じくらい」カタログモデルをさらに過激に、さらにシャープに仕上げた「スペチアーレ(特別モデル)」を投入することを好みます。
過去には「XX」「スペチアーレ」「スクーデリア」「ピスタ」「GTO」などの特別モデル、さらには「ハンドリングパッケージ」「アセットフィオラノ」などのオプションにてカタログモデルをアップグレードしてきたという過去があるわけですね。
しかし、この伝統的な流れから外れる(ローマに続く)二例目の2ドアモデルが登場し、それが発表されたばかりの新型クーペ「Amalfi(アマルフィ)」。
最新の報道によると、このV8エンジン搭載のアマルフィには、ハンドリングパッケージを含む一切の硬派なトラック(サーキット)向けアップグレードが提供されないとのことで、ここではなぜフェラーリがアマルフィを「サーキット仕様」の対象外としたのか、そして開発担当者のコメントからアマルフィの「二つの魂」に秘められた真の目的を読み解き、その裏にあるフェラーリの巧妙な販売戦略を考察してみたいと思います。
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要約:アマルフィが「サーキット仕様」にならない核心的な理由
- 目的の明確化: アマルフィは「エントリーモデル」としての役割が最優先。新規顧客でも簡単に運転でき、日常的な使いやすさを持つ「グランツーリスモ」としての位置づけ
- 開発担当者のコメント: 「通常、このポジショニングのクルマにはフィオラノ・パックを開発しない」と担当者。アマルフィには「スポーティさ」と「イージーな運転(過度な緊張感をもたらさない)」という二つの魂を持たせる必要があるとコメント
- 過去モデルの踏襲: 先代のエントリーモデルである「カリフォルニア」や「ポルトフィーノM」にはハンドリング・スペチアーレ・パックが設定されていたもの、後継の「ローマ」では同様のパッケージは提供されなくなった流れを踏襲
- 巧妙な販売戦略: より速く、よりシャープなハンドリングを求める顧客には、価格帯を上げて「296 GTB」(ハイブリッドV6/830馬力のミッドシップ)や、中古のV12モデルを提案することで、全顧客層を逃さないビジネスモデル
- スペックの相対性: アマルフィは640馬力を発生させる3.9L V8ツインターボを搭載しており、性能自体は超一流だが、フェラーリのラインナップの中では「最も過激ではない」立ち位置を維持
アマルフィが持つ「二つの魂」とは?
アマルフィのプロダクトマーケティングマネージャー、マッティア・メッジョーリン氏のコメントが、この異例の判断の核心を突いており・・・。
1. 「ハイ・モーメンタム・ポジション」におけるスポーティさ
アマルフィは3.9LツインターボV8エンジンから640馬力を発生させ、これは先代のローマよりも20馬力向上しており、一般的なスポーツカーの枠を超えた超高性能車であることに変わりはなく、したがって、一つ目の魂は、「非常にスポーティなクルマ」であること
2. 「ロー・ポジション」におけるイージーさ(新規顧客の受け皿)
しかしその一方、「特に新しい顧客にとっても運転が非常に容易で、過度な緊張感を持たずに運転できるクルマ」である必要がある。アマルフィは、フェラーリの「(他ブランドからの)入口」としての役割を担っており、もし最初から硬すぎる足回りや過敏なセッティングが施されていれば、新規顧客がフェラーリというブランドに抱く敷居を上げてしまう
この「二つの魂」のバランスを取るため、アマルフィは日常のグランツーリスモとしての快適性と公道でのハイパフォーマンスの両立を優先しており、よって「純粋なサーキット走行」はその役割に含まれていないというわけですね。
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フェラーリにおける「エントリーモデル」の伝統
アマルフィのようなエントリーモデルが硬派な仕様を避ける流れは、実は最近のフェラーリで確立されており、とくに顕著になったのはローマです(実際、フェラーリはローマ発売時に、サルーンやミニバン、SUVのユーザーすら取り込みたいと発言している)。
| モデル名 | ポジション | サーキット仕様の有無 | 特徴 |
| カリフォルニア | フロントV8エントリー(初代) | 有り (ハンドリング・スペチアーレ・パック) | 最初のモダン・エントリーモデル |
| ポルトフィーノ | カリフォルニア後継 | 無し※ただしポルトフィーノMには「ハンドリング・ダイナミクス・ハンドリング・パッケージ」(通称HSパッケージ)が設定 | 扱いやすさを重視する傾向が強まる |
| ローマ | ポルトフィーノのクーペ版 | 無し | デザイン性と洗練された走りを重視 |
| アマルフィ | ローマ後継 | 無し | 快適性・日常性と高出力を両立(640馬力) |
アマルフィのこの決定は、カリフォルニア時代の「サーキット仕様も提供する」という方針から、「最もカジュアルなモデルは日常性に特化させる」というフェラーリの明確な進化を表しています。
更に捕捉するならば、車体設計技術やマネッティーノの進歩、サスペンションの進化によって「とくにオプションを設定せずとも、幅広いシーンに対応できるようになった」ことも(ローマ以降で)ハンドリングパッケージを設定していない事実に結びついているのかもしれません。
フェラーリの巧妙な販売戦略:顧客を逃さない導線
では、アマルフィの性能では満足できない、よりハードコアなドライビング体験を求める顧客はどこへ行くのか?
ここでフェラーリのラインナップ戦略が際立ちます。
- 選択肢 A:純粋なサーキット性能を求める顧客
- 推奨モデル: 296 GTB
- 魅力: エンジンを運転席後方に配置するミッドシップレイアウト、V6エンジン、ハイブリッドシステムを含めて830馬力。「アセット・フィオラノ」トラックキットを選択すればカーボンファイバー多用やサスペンション強化による本気のトラック仕様が手に入る
- 戦略: エントリーモデルで満足させず、より高額なミッドシップモデルへのステップアップを促す※新車だけではなく中古車も含むものと思われる
- 選択肢 B:V12のグランツーリスモを求める顧客
- 推奨モデル: 認定中古車 GTC4 Lussoなど
- 魅力: 自然吸気のV12エンジンという、フェラーリの「魂」を求める顧客層に対応
- 戦略: 新車以外にもV12を求める顧客のニーズを満たす選択肢を提供し、顧客の要求を全方位でカバー
つまるところ、アマルフィを「あえて過激にしない」ことで、フェラーリはエントリー層の受け皿を確保しつつ、真のハイパフォーマンスを求める顧客を確実に高価格帯モデルへ誘導するという、極めて合理的で巧みな販売戦略を実行しているわけですね。
さらには「中古車までをも含めてユーザー層の形成を図る」というフェラーリ独特のビジネスモデルを垣間見ることも可能です。
結論:「イージーさ」こそがアマルフィの最高の武器
フェラーリ「アマルフィ」がハードコアなトラック仕様を持たないことは、決して「性能が低い」ことを意味しません。
むしろ、これは「このクルマは、あなたを追い込むためのハードコアマシンではなく、フェラーリの特別な体験を毎日、ストレスなく楽しむためのクルマです」という開発者からのメッセージです。
この「イージーさ」こそが、新規顧客や日常使いを重視する顧客にとってアマルフィの最高の武器となり、そしてこの戦略はフェラーリというブランドが「単なるサーキットマシンメーカーではなく、多様な顧客のニーズに応える”ラグジュアリー・ブランド”へと進化しているこ」とを示している端的な例なのかもしれません。
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参照:Drive




















