さて、トヨタのキモ入りサービスなのに利用者が思ったよりも増えないというKINTO。
サービス開始時からぼくはこれに対して否定的で、その理由は「消費者目線ではなく、トヨタがクルマを売ろういう魂胆しか見えないから」。
このKINTOについて、一見すると「ネットで手軽にクルマを選んですぐ乗れる」という印象を受けますが、実態は大きく異なるようです。
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KINTOは「借りる」よりも「買う」に近い
まず、このKINTOは「なんだかんだでクルマを分割払いで購入するのと変わらず、しかも自分のものにならない」というのがぼくの認識です。
KINTOの利用手順としては、まず申し込みを行う必要があり、車種選択→販売店選択→利用規約同意→必要事項入力→審査というのがまず第一段階。
KINTOとしては「お店にゆかなくてもネットで申し込みできる」としていますが、昨今のコロナウイルスの影響もあって、KINTOでなくてもここまではオンラインで対応してくれるディーラーが多数存在します。
ただ、問題はここからで、審査が通ると正式契約となるのですが、この契約が通るとクルマの「発注」が行われるわけですね。
KINTOでは自分のためにクルマを製造することになり、キャンセルはできない
え?発注?と不思議に思うかもしれず、それもそのはずで、KINTOで自分が契約するクルマはまだこの世に存在するわけではなく、契約してから発注を行い、製造することに(よってキャンセルができない)。
つまり、レンタカーのように、今あるクルマの中から車種を選んで乗るというわけではなく、クルマを買うのと実際は変わらない責任を追うということになります。
もちろんガレージも自分持ち
そしてその後、クルマが完成すると納車となるのですが、納車までには保管場所を確保する必要があり、車庫証明の取得が必要。
自宅に保管場所があればよいのですが、そうでなければ自費で駐車場を「借りる」必要が出てきます。
ちなみに保険も自分で別途加入する必要があり、これもレンタカーとは異なって「自分でクルマを買う」のと変わらない部分です。
KINTOは「ネットで申し込みができるので便利」だとしていますが、あくまでもそれはクルマ本体に関わる部分の話で、それ以外は自分で手配を行う必要があり、自動車購入にかかわる手間全体を見ると、KINTOによって簡素化される部分はさほど大きくない、ということですね。
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KINTOは契約期間満了まで基本的にクルマを返せない
そしてもう一つの問題は、一旦契約してしまうと、契約期間中はクルマを返す、つまり契約解除できないのも懸念。
ただ、初期に比べるとすこし規約がゆるくなっていて、「海外転勤や免許返納」といった、運転困難になるような事情であれば中途解約金は不要だそう。
しかしながら、それ以外の事情、つまり自己都合で解約するの場合は中途解約金(残利用料+追加生産金)を支払う必要があるわけですね。
なお、KINTOの契約期間は3年と5年、7年となっていて、つまり「冬の間だけ4WDに乗る」といった使い方ができず、契約すると3年は乗らないといけないというのは大変なプレッシャーです。
そして3年乗るとクルマを返却することになり、この際にも「原状回復」が求められ、つまりカスタムしているともとに戻す必要があったり、さらにはKINTO側の定める基準よりも状態が悪いと「原状回復費用」が発生することも。
返却についてはディーラーにて査定を受ける必要があり、これもやはりユーザーの手間を要するところで、「購入」の場合と変わらない部分です。
ここで重要なのは、クルマを返してしまうと何も残らないということであり、これは逆に自分がクルマを購入した時とは大きな相違があって、クルマを自分で購入したのであれば、(残金や売却金額にもよりますが)なんらかのお金が残ることもあるだろうに、と考えています。
実際に比較するとこうなる
ここでひとつシミュレーションをしてみたいと思いますが、現在KINTOで一番人気のハリアーを選んだ場合。
これも一番人気グレードであるZ、そしてボディカラーも人気のホワイトパールクリスタルシャインを選び、かつ快適装備の入ったパッケージを装着すると、毎月の支払額は74,800円(3年)となります。
3年契約の場合はこれを36回払うので合計で2,692,800円という計算ですね。
そして購入の場合ですが、同じくハリアーの「Z」を選び、同様の(完全に同じではない)オプションを選ぶと4,069,700円となり、購入金額は諸費用を入れるとおそらく450万円くらい。
3年乗るとここに点検やメンテナンス、保険が加算されるので、それらを毎年10万円だと見積もると(KINTOは車検前に返却する前提なので、ここでも車検費用は考慮しない)プラス30万円となり、480万円が「購入した場合、3年でかかる費用」。
そしてKINTOとどちらがお得なのかということについては、480万円ー269万2800円=2,107,200円が判断基準となります。
つまり、ハリアーを3年乗って2,107,200円以上で売れるのであればKINTOは損、この金額で売れなければKINTOのほうが得だったということになりますが、ハリアーだと3年後には60%くらいの価格維持率だと考えられ、400万円の60%=240万円くらいで売れるだろう、とも考えています(もちろん、もっと高く売れる可能性もある)。
加えて考慮すべきは、「年10万円」と算出した点検と保険ですが、これはネット保険の活用でもっと安くすることもできますし、逆に免許取り立ての人が「フルに」保険に入ればこれよりも高くなるのかもしれません。
さらに車両を現金で買うのかローンで買うのかによっても異なるものの(ローン元金が大きければKINTOのほうが得なケースも出てくる)、ここまで考えた上でKINTOが得かどうかを判断する必要がありそう。
ただ、ぼくとしてはさほどKINTOにメリットを見いだせず、それは「必要なときにすぐ乗れない」「最低でも3年乗らなくてはならない」「返却すると何も残らない」という部分。
たしかに「メンテナンス費用が込み」「保険が込み」というところはメリットではありますが、これは「人と環境による」部分でもあり、そのほかの「購入の手間」「保管場所」「事故の際のリスク(原状回復にかかる費用)」は自分で自動車を購入する場合と変わらず、やはりKINTOを利用することはないだろうな、と考えています。
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じゃあKINTOはどうすればいいのか
つまりKINTOはトヨタや、トヨタの関連会社(ローン会社など)の利益を最優先したシステムで、消費者にあまりメリットがないとも考えているのですが、消費者がメリットを感じるようにするのであれば「申し込んですぐ乗れる」「短期間の契約でも乗れる」「契約後の期間延長や短縮が容易にできる」ようになれば、とも考えています(そうなるとトヨタ側に在庫リスクとコストが生じるので、トヨタ側はこれを避けたい)。
ただ、KINTOの最新の内容を見てみると、以前に比べて消費者にメリットが出やすい内容に変更されているとは思うものの、「もう一声」といったところでもありますね。
参照:KINTO