フェラーリ・ランボルギーニ・ニュースさんより、「BMW iブランドが日本撤退か、という記事。
自動車評論家、国沢光宏氏が「聞いた話」として紹介しているものですが、ありそうななさそうな、なんとも言えない感じですね。
国沢氏自体は信用に値する情報源とはいえず、例の「雉」事件のとおりですが、実際に撤退があるかどうかと考えると非常に判断は難しいように思います。
BMWは日本市場を非常に重視していて、3シリーズでも日本専用のドアハンドルを(幅を立体駐車場に入るよう)用意したり、i3でも同様に立体駐車場対策として全高をおさえるためにMパフォーマンスのローダウンサスペンション、薄型のルーフアンテナを採用し、さらには日本規格の充電器に対応させるために充電用ソケットを新設したりしていますが、こういった行動は他メーカーにはまず見られないもの。
ただし、日本は「充電スタンドがガソリンスタンドよりも多い」という世界的に見てもEV販売に有利な条件があり、先行投資としてBMWがそれら対応を行ったと考えてもよく、その期待が裏切られた今となっては「撤退」を考えてもしかたがないかもしれません。
しかしながら「撤退」は「二度と参入できない」を意味するので、iシリーズのために世界各国に工場を新設してまで電気自動車の普及を進めてきたBMWがこの時点で「日本を捨てる」のはちょっと現実的ではない、とも考えます。
BMWは重要なマーケットとして「G6」という6つの国を定義していますが日本はその中に入っていて、たとえこれが「ガソリン車」における定義だとしても、その市場においてiブランドを撤退させることはブランドイメージに大きく響くであろうことは間違いないと思うのですね。
なお2015年の国別販売台数は下記の通り。
日本は7番目ではありますが、順位とは別に判断される「市場の重要性」としてG6に入っているとされています(市場として安定性があるということか)。
中国 417,362
アメリカ 346,023
ドイツ 248,565
イギリス 167,391
フランス 53,558
イタリア 49,732
日本 45,645
韓国 40,174
ロシア 35,50
カナダ 32,805
撤退となるとi3の市場価格は大きく下がり、日本仕様は右ハンドルなのでオーストラリア、香港、イギリスくらいにしか輸出できないのでさほど買い手があるとは思われず、したがって在庫もダブつくことになると思いますが、そうなるとBMWはあまり良い印象を(iブランドに限らずBMW全体として)市場に与えることはない、ということは懸念。
「BMWはユーザーを見捨てるメーカー」というレッテルを貼られるわけですね。
反面、単純にビジネスとして考えると、じっさいのところ日本(もしかすると世界)でのiシリーズの販売は採算に乗っているとは言い難いかもしれません。
BMW i3そのものは単月だと世界中で2000台程度を販売しているようですが(ベースの台数が少ないのでバラツキあり)、アメリカで800台、ドイツで150台、イギリスで80台程度の模様。
なお中国ではi3はほぼ売れておらず、EV先進国の香港でもそれは同じ。
単にBMW全体の販売台数やその国のEV普及率に占めるi3の割合だけを見たならば「日本以外にもiブランドを撤退させないといけない国」が多数あるわけで、BMWが現在考えねばならないのは「不採算市場を切り捨てる」ことではなく、「いかに販売台数を増加させて今まで投資した分を回収するか」ということだと考えられます。
BMWはiブランド立ち上げの際に「相当期間は投資が必要になる」ことは理解していたはずで、しかしながら将来のために多額の投資を行ってきたわけですね。
短期間の資金回収であれば、日産リーフ/三菱iMiEVのように既存車両の内燃機関をモーターに置き換えた車を発売していると思いますが、BMWは「それでは勝てない」と判断し、日本のカーボン繊維をアメリカに運び、それをアメリカで焼成し、それを今度はドイツに運んで組み立てるという、日本から見ると「世界一周して組み立てられる」という手間を”あえて”かけているわけです。
つまりBMWはiブランドにコストがかかるのは承知の上ということになりますね。
BMWがiブランドを立ち上げた時に掲げた「サステイナブル」は「持続可能性」という意味を持ちますが(この場合は持続して社会や環境に貢献することと思われる)、ここでの撤退は環境に対する配慮をブランドとして放棄するということに繋がります。
BMWは短期的なビジネスとしてではなく、100週年をむかるにあたり「今後の100年」を生き残るための「可能性」としてエレクトリック・カーを選択したと考えられ、ここでその「可能性」を放棄することはBMWの将来を否定することにも繋がるかもしれない、ということです。
※その意味ではフォードの撤退とは事情が異なる
ただビジネスとは常に「選択と集中」の連続であり、BMWといえども資金は無限ではなく、かつて水素に見切りをつけたり、市販車に集中するためF1から撤退したり(その資金がiブランドに流れていると考えられる)とその時その時で大きな決断を下してきたBMWでもあり(おおきな会社の割に決断が早く大胆)、当然iブランドについても一定の「分岐点」は考慮していると思われます(さらに言えば、思い通りにiブランドの計画は進んでいないと考えられる)。
しかしながら電気に見切りをつけるともう「次」がないので、BMWとしては上述の通り、「相当な負担を覚悟して」他社に勝てるように短期的戦略ではなく長期戦を覚悟し、多大な投資をiブランドに対し行ってきた(既存プラットフォームの使い回しではなくカーボンセルの開発など)わけで、ここが”ふんばりどころ”ではありますね。