| 空冷911RSの伝統はどう水冷世代に息づいているのか? |
ポルシェ911の「RS」は1973年の911カレラ2.7RS(通称ナナサンカレラ、930型)に始まりますが、その後1974年の3リッター版911RS、1992年の911カレラRS(964)、1995年の911カレラRS(993)へと続くことに。
いずれのRSも「軽量化、パワーアップ、固めた足回り」というスポーツカーの基本をしっかり抑えたモデルとなっていて、これは現代のRSでも同じですね。※RSとは”Renn Sport”、つまりレーシングスポーツを意味するドイツ語で、550RSスパイダーなどポルシェのレーシングカーに与えられていた名称
ナナサンカレラ(ポルシェ911カレラRS2.7)の中でも希少な「軽量モデル」が競売に。生産わずか200台
1974年製ポルシェ「911カレラ3.0RS」が競売に。レア度ではナナサンカレラ以上
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ポルシェ911 2.7RSカレラの価値はここ10年で7倍ほどに。1億円突破も目前
水冷世代の”RS”を見てみよう
ここで今回、ポルシェGT部門のボスが語る、「いかに水冷世代の911”RS”モデルに空冷時代の魂が反映されているか」を見てみましょう。
なお、ナナサンカレラはもともとグループ4のホモロゲーション取得を目的に限定生産されたもので、「レースを目的」として生まれたというバックボーンを持っています。
996世代 911 GT3 RS
その後ポルシェ911は「水冷」世代の996へと移行し、しばらくは「RS」不在。
しかしながら1999年に競技用ベース車両として「911 GT3」が発売され、その上位版として「911 GT3RS」が発売されることに。
ボディカラーはホワイトのみで、ホイールやエンブレム、サイドのストライプは「ブルー」もしくは「レッド」のみ。
もちろんサイドのストライプは「ナナサンカレラ」をイメージしたものとなっています。
ポルシェGT部門のボス曰く、このペイントとポリッシュがかけられたホイールは「非常に高価」とのこと。
出力は381馬力、0-100キロ加速は4.4秒、車体重量は1360キロ(GT3より20キロ軽い)。
997世代 911GT3RS
996GT3はもともとモータースポーツ参加車向けに製造したクルマでしたが、やたらと人気が出て予定生産台数を上回る1,889台が製造されることに。
そして「GT3RS」は682台が販売され、ポルシェGT部門はここで「これはビジネスになる」と判断し、ここから「GT3RS」という定番モデルが誕生することに。
そのため、996世代のGT3RSが「996世代の最後を飾る」という位置づけであったのに対し、997世代のGT3RSは997へと世代が切り替わった2005年に続いて早々に2006年に発表されています。
ただしこれもポルシェのセオリー通りパワーアップ、軽量化、ハードな足回りを追求したモデルで、ボディはカレラ4の「ワイドボディ」を採用し、ブラックにオレンジ、オレンジにブラックの「コントラストカラー」が人気を呼び、各チューナーがこぞってこのカラーリングを採り入れることに(シルバーやグリーンもある。このコントラストカラーはオプション)。
996GT3RSがある程度2.7RSへのオマージュ的な外観を持っていたのに対し、997GT3RSからは「GT3RSは特別なモデルである」という主張が強まっていて、そのため価格もぐっと高価に。
ただし価格以上のパフォーマンスを誇るのも事実で、エンジンが911GT1由来のものとなり、器械式LED装着、リアウインドウを樹脂製とするなど極端な軽量化が施され、「RS」の名声をさらに高めることに成功したモデルでもありますね。
997.2世代 911GT3 RS
車体重量は1370キロとなり、初代911カレラRSに比較して400キロも重くなったものの、反面出力は当時の「倍」以上となる450馬力に。
エンジンマウントには「アダプティブ」つまり可変式を使用し、コーナリング中のマスをコントロールすることに成功。
この頃より、(環境や安全などの)規制のもと大きく、そして重くなるクルマを「テクノロジー」によってコントロールする方向へとシフトしたように思われますが、一方でトラクションコントロールを「OFF」にできるなど、ピュアさに磨きをかけているように思います(失われてゆくピュアさを取り戻すためにテクノロジーを駆使している、とも言える)。
991世代 911GT3 RS
エンジンは997世代のGT3RS4.0を引き継ぎ、出力も500馬力へ。
ポルシェ911では「初」のアクティブリアホイールステアリングを採用し、前期型ではトランスミッションも「PDK」に限定するなど大きく方向性をシフト。
しかしながらその根底にあるのは「速く走るため」であって、ポルシェはそのためにマニュアル・トランスミッションを切り捨てたということに。
つまりは「操る楽しさ」よりも純粋に「タイム」を求めたモデルだということになり、やはり「ホモロゲーション取得用」に作られた初代のレーシングスピリットを受け継いでいる、と言えそうですね。
ちょっと解釈が難しい部分ではあるものの、空冷世代の911RSは「引き算」という考え方が強かったのかもしれません。
964世代真っ盛りの頃に登場したのが日産GT-R(R32)で、これはターボエンジンにトルクスプリット4WDを持つハイテクマシン。
そのハイテクマシンへに対するポルシェからの回答が「964RS」で、これはとにかく軽量化し、とにかく足回りを硬め、そしてちょっとだけパワーアップという伝統的な手法を採用したもの。
ただ、水冷世代になるとどうしてもクルマが大きく重くなり、「軽量化」「足回りを固める」では追いつかない部分も。
そのために登場したのが「可変エンジンマウント」や「リアホイールステアリング」ということになりますが、「速く走る」という目的は変わらず、しかしそれを達成するために時代にあわせて最良の方法を選択しているのが「RS」の魂ではないかとも考えられます。
その意味では、未来のRSは「エレクトリック(それが最も速く走ることができる手段なのであれば)」化されても不思議はないのかもしれません。
VIA:Autoclassics