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【ポルシェ危機】中国EVの「息をのむ革新ペース」に敗北宣言? –中国市場奪還を狙う「Winning Back China」戦略にて巻き返しを図る

ポルシェ

| 高級車市場で何が起きているのか – ポルシェが直面する中国EVの脅威 |

それでもポルシェは中国市場を諦めない

ポルシェは世界最大の自動車市場である中国で「かつてないほどの苦境」に立たされており、2024年の販売台数は前年比28%減の5万6,887台、さらに2025年9月までの出荷台数も26%減少といった具合に急激な販売不振に陥っています。

この危機的状況に対し、ポルシェ中国CEOのアレクサンダー・ポリッヒ氏は、ドイツの経済紙とのインタビューで、中国の自動車メーカーが繰り出す「息をのむような革新のペース」と激しい競争を率直に認めており、「現時点」では敗北宣言とも取れる発言を行うことに。

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ポルシェが打ち出す「中国市場奪還計画」とは

かつては成功を収めたEV「タイカン」も、今や「まったく異なる価格帯の電動セダンが洪水のように押し寄せている」状況には対抗できず、ここではポルシェが認めた中国EVの脅威、そして販売回復を目指す「Winning Back China(中国を取り戻す)」戦略の核心を掘り下げたいと思います。

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  • 販売台数の大暴落: 2024年販売が28%減、2025年も26%減と急激な不振
  • 競合の脅威: 中国CEOが「革新のペースは息をのむほど」と公言し、製品の多様性と価格戦略の柔軟性を認める
  • 高級車税の引き下げ: 贅沢税の課税基準が130万元から90万元(約2600万円から約1800万円)に引き下げられ、これがポルシェのラインアップが直撃
  • 逆転の発想: 新型ガソリンエンジンSUVの投入を加速させ、燃費車(ICE)の需要に改めて注力
  • 販売網の縮小: 2024年の150拠点から2026年末までに80拠点まで大幅に削減

ポルシェが中国市場で苦戦する「二重の打撃」

まず、ポルシェの販売不振は、単にEV化の遅れだけではなく、中国市場特有の二重の構造的な問題によって引き起こされています。

1. 中国EVメーカーの「圧倒的な製品攻勢と価格破壊」

ポリッヒCEOが強調するように、中国の自動車市場は従来の常識では考えられないスピードで変化しており、これにポルシェが「ついて行けない」といった状況が存在するわけですね。

  • 製品の多様性: タイカンが発売された当時は成功したものの、現在では、より顧客の嗜好に合ったEVセダンが多種多様な価格帯で次々と登場している
  • 価格とマーケティング戦略の柔軟性: 中国メーカーは価格とプロモーション戦略を「日常的に変えている」とポリッヒ氏が語るように、迅速な市場対応力でポルシェの固定価格戦略を揺さぶっている
  • 技術力のキャッチアップ: 中国のローカルメーカーは急速な技術革新によって既存自動車メーカーに追いつき、特にEVセグメントでは欧州勢が打ち負かせない価格設定を実現
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2. 贅沢税の課税基準引き下げが直撃

2025年7月20日から、中国の高級車に課される贅沢税(消費税上乗せ)の基準が130万元から90万元に引き下げられていますが、逆にポルシェの価格帯では「課税」となり価格競争上の「不利」が生じています。

  • 課税対象の拡大: ポルシェの平均的な希望小売価格は100万元(約1億4,100万円)を下回る水準であり、この基準引き下げによって以前は非課税だったより多くのポルシェ車が課税対象となってしまって価格が高騰
  • 手が届きにくい価格帯へ: この変更はポルシェの価格をさらに押し上げ、富裕層以外の顧客層から遠ざける要因に
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「Winning Back China」戦略の核心:ガソリン車への「逆張り」

ポルシェは、この難局を乗り切るため、「Winning Back China」と名付けた戦略を掲げ、その内容はEVへの全面シフトとは一線を画すもので、つまるところ「中国の自動車メーカーと同じ土俵で戦うのではなく、異なる(ポルシェの得意とする)土俵で戦う」というのがおおまかな内容です。

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1. ガソリンエンジンSUVへの注力と販売網の縮小

ポリッヒCEOは、過去の販売ボリュームに戻ることは非現実的だと認めつつ、燃費車(ICE)の需要に改めて集中する姿勢を示していますが、これは中国以外のほか市場での戦略とおおよそ通じるもの。

  • 新型マカンのICEモデル: 新型マカンは当初EV版が発表されていたものの、マカン代替となるガソリンエンジンモデルも投入する計画が確定(アウディとの共同開発によるニューモデル)
  • 3列シートSUVのICE優先: EV専用とされていた3列シートSUV(コードネーム「K1」)も、市場のEV需要の鈍化を反映し、まずガソリンエンジンモデルから発売される
  • 販売拠点の整理: 2026年末までに店舗数を150から80に半減し、販売効率と収益性を向上させる
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2. EVモデルは「ポルシェらしさ」で差別化

もちろんEVも戦略の一環ですが、中国のローカルEVとの価格競争は避け、重要なのはポルシェ特有の価値に焦点を当てること。

  • カイエンEVの投入: カイエンEVを現地に投入予定
  • 718 EVの「ユニークなスポーティさ」: 718 EVは「中国においてそのスポーティさでユニークな存在になる」と強調。718(ボクスター/ケイマン)は、トップレンジにはガソリンエンジンモデルを残すことも示唆されており、EVとICEの両輪でファンを繋ぎ止める狙いがある
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3. 現地生産とサブブランドの可能性を排除

現地生産(SKD/CKD)や、アウディの「ringless AUDI」のような廉価なスピンオフブランドの設立については、現在のところ高コストを理由に計画にはないと明言しており、ポルシェはブランドのプレミア性を犠牲にしない選択をしていますが、いかにポルシェの価値をアピールできるかが焦点となりそうです。

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ただ、ポルシェの中国における展開は「カイエン」の登場とほぼ同時期に始まっていて、よって多くの中国の消費者がポルシェ=SUVというイメージを持っており、僕らが抱く「ポルシェ=モータースポーツ」といった印象とは全く異なっていて、ここがポルシェにとっての「ジレンマ」なのかもしれません。

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結論:ブランド価値と市場の現実に挟まれた苦悩

ポルシェが直面している状況はBMWやメルセデス、アウディといった他のドイツ高級車メーカーにも共通するもので、中国市場の「新しい過酷な現実」とは、現地のメーカーが技術力と価格競争力でレガシーブランドに追いつき、市場の定義権を握り始めたこと。

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ここでドイツ自動車メーカーが取りうる対策は「中国の自動車メーカーとの徹底抗戦(アウディはこれに該当)」あるいは「自社のブランド価値を押し出した独自戦略」。

ポルシェは、EVの「タイカン」でいち早く電動化の波に乗ったものの、中国市場の洪水のような革新のペースと、価格に敏感な市場環境に対応しきれていないのが現状で、そこで採られた「Winning Back China」戦略は、短期的な市場回復が難しいことを認めつつ、ブランドの収益の柱であるガソリンエンジン搭載の高性能SUVへと逆張りすることでポルシェのブランド価値を再定義し、熱狂的なファン層を繋ぎ止めるための策と言えそうですね。

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