| レースの前からもう結果が見えている |
スーパーカー史に残るクルマとしてまず思い浮かべるのは1993年発売の「マクラーレンF1」。
そしてそのマクラーレンF1を設計したのは”鬼才”ゴードン・マレー氏ですが、そのゴードン・マレー氏は2017年に「自分以外ではマクラーレンF1の後継モデルを作る能力がないため、自分が直接その後継モデルを作る」と宣言しています。
その後も少しづつ情報が公開されているものの、もちろんこのクルマを「マクラーレン」から発売することはできないので、自身の会社「ゴードン・マレー・オートモーティブ」にて使用しているブランド名”IGM(フルネームであるイアン・ゴードン・マレーの略)」から発売する、というのが現在までの流れ。
IGM T.50はマクラーレンF1よりも「妥協がない」クルマに
このスーパーカー(というか性能的にはハイパーカー)は「T.50」と呼ばれており、今回Motor Sport Magazineが報じたところでは、ルマンに新設される「ハイパーカークラス」に参戦する可能性がある、とのこと。
なお、ルマンのハイパーカークラスには下記の通り規定があり、「市販車」でなくてはなりませんが、ゴードン・マレー氏はこの「T.50」を100台生産するとしており、「ホモロゲーション取得は問題ない」。
・ハイパーカースタイルを持つこと ・ロードカーをベースとしていること ・2年以上継続生産されるクルマであること ・20台以上が生産されていること ・最低重量は1,100kg ・出力はトータルで750馬力 ・タイヤサプライヤーは1つ ・ル・マン・サーキットを3:30で走れること ・ハイブリッドは非搭載でも可 ・ハイブリッドシステムの出力は270馬力まで ・ハイブリッドシステムが駆動するのは前輪 ・プロトタイプの場合は専用のガソリンエンジン搭載も可能 ・車体と違うメーカーのエンジンは搭載不可能 ・燃料は一種類 |
なお、現在このハイパーカークラスに参加を表明しているのはアストンマーティン、トヨタ、スクーデリア・キャメロン・グリッケンハウス(SCG)。
参加検討中はランボルギーニ、不参加はメルセデスAMG、そしてマクラーレンとフェラーリ、ポルシェはノーコメントという状況です。
IGM T.50が出てきたらもう太刀打ちできない
しかしながらこのT.50がル・マンのハイパーカークラスに参戦してくるとなると、いかにアストンマーティン・ヴァルキリーでも太刀打ちできない可能性も。
というのも、ゴードン・マレー氏いわく「T.50は、史上もっともピュアで、軽く、ドライバーにフォーカスしたスーパーカー」とのことで、しかも同氏は「口だけ」でなく必ずこれを実行してくると思われるため。
マクラーレンF1は上述の通り1993年の発売ですが、「センターシート」をはじめて採用したロードカーとしても知られ、この理由は「ロールセンター適正化」。
そしてやはり重心を最適化するためにトランクスペースはリヤタイヤ前にあり、軽量化のためにはチタン製工具、放熱のために金箔をフードに貼るなど、「走行性能のためにあらゆる妥協を排した」クルマでもあります。
そのために非公式ながら391km/hを記録したり、これをベースにしたレーシングカーで1995年にル・マンに参戦するやアッサリと優勝するなど、そのポテンシャルの高さを見せつけています。
そして発売から現在に至るまで「スーパーカーのベンチマーク」であったのがマクラーレンF1ということになりますが、今回のT.50はマクラーレンF1同様に「新しいベンチマーク」となることも掲げており、ゴードン・マレー氏が本気で出してきたクルマにはもう何者も歯がたたないだろう、とも考えているわけですね。
なお、マクラーレンF1に唯一の妥協があるとすれば、それは「エンジン」。
ゴードン・マレー氏はホンダのパワーユニットを求めていたと言いますが、ホンダに供給を断られたためにBMW製エンジンを使用した、という背景も。
しかしながらT.50ではそういった事情もなく、「ゴードン・マレー氏が真に作りたいと考えたクルマ」を作ってくるのは間違いさそうですね。
IGM T.50はこんなクルマ
そしてIGM T.50について、現在分かっている範囲だと、コスワース製3.9リッターV12エンジンを持ち、12,100回転で最高出力650馬力を発生。
そして1978年に同氏がブラバムBT46(F1マシン)で用いた「ファン」を使用すること。
ちなみにこのファンは強力なグラウンドエフェクトを生み出し、その結果ブラバムBT46は圧倒的な強さを誇ることになって、例によって「他チームの抗議により一瞬で禁止」アイテムに。
ただ、これはFIAによってハイパーカークラスでも禁止されると思われるためにレースでは使用が制限されることになりそう。
ほかに公開されている情報だと、車体そのものにはカーボンモノコックを採用し、ボディパネルはカーボン製。
車体重量はトータルで980キロ程度に収まるとされ、トランスミッションは6速マニュアル、駆動輪は後輪のみ。
なお、このT.50に不安要素があるとすれば、まずはその出力。
ハイパーカークラスの規定では750馬力まで出せるので、ほかメーカーが750馬力ギリギリまでの出力をもたせるのは間違いなさそう。
よってT.50は「パワー不足」ということになるのかもしれません(ただしラムエアによって700馬力程度を発生すると言われ、許容回転数をさらに上げることで750馬力に合わせることはできると思われる)。
そのほか「マニュアル・トランスミッション」もタイムをロスする要因となりえるものの、これもシーケンシャル化する等で対策はできそうです。
反面、アドバンテージとしては圧倒的な軽量性、そのシャシー性能の高さが挙げられ、これはもう「生い立ちが違う」ためにほかメーカーは対抗できないかもしれません。
ちなみにこのIGM T.50の価格については1台2億8000万円程度と報じられているものの、その価値、性能を考えるとバーゲンプライスだとも考えています。