| トヨタ同様の意見を述べる会社は他にもあるが、他はちゃんとEVに取り組み、EVを発売している |
やはり最低限の「やること」は(間違っていると思っても)やらないと、耳を貸す人も少なくなってしまう
ダボス世界経済フォーラム(WEF)にて、トヨタのチーフサイエンティスト、ギル・プラット氏が、同社がカーボンニュートラルに多方面からアプローチする理由について説明しており、その内容が公開されることに。
ご存知のように、トヨタはしばしば電気自動車の導入に躊躇し、環境保護団体からその姿勢を非難されることがありますが、豊田章男社長がいつも言うのは「電気自動車のみがカーボンニュートラルを達成するための手段ではない」。
よってトヨタはマルチパワートレーン戦略としてガソリン、水素など様々な燃料を使用する内燃機関との組み合わせによってカーボンニュートラルを達成するとしているのですが、今回ギル・プラット氏は改めてWEFの参加者に対し、カーボンニュートラルとネットゼロを実現することが、環境にとって最も重要なことであり、「電気自動車はそのための手段のひとつ」でしかなく、電気自動車の発売だけが環境に対する解決策ではない、と述べています。
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「電動化だけだと資源採掘が追いつかなくなる」
そこでまずギル・プラット氏が述べたのは「資源の不足」。
現在リチウム鉱山の開発がが世界中で計画されているものの、「鉱山は開発・設立・稼働までにに10〜15年、電池工場だとそこから2〜3年かかる」ことを指摘しており、EV需要が一定のピークに達するであろう2040年には需要と供給の間に大きな差が生じ、リチウムの供給が追いつかなくなるとコメントしています。
これについては納得できるものではありますが、「必要は発明の母」というか、リチウムが必要になれば(お金になるとなれば)どんな方法でも鉱山開発を急ぐ企業が出てくるものと思われ、トヨタの見積もる期間が大きく短縮される可能性も(実際、EV普及のペース、コスト低下のペースはトヨタの想定を大きく超えている)。
つまりトヨタの主張は「現時点での状況」をベースにしており、ここからもたらされる技術価革新を考慮にしていないものと思われ(リチウムを不要とするバッテリーが開発される可能性もある)、この考え方をベースにするのはちょっと危険かもしれません。
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トヨタが考える今後の方向性は?
そこでトヨタの考える今後の方向性についてギル・プラット氏は話を進めており、「クルマはできるだけ電動化すべきだが、電動化の方法は1つだけでいいとは限らない」。
電動化において最もよく知られているのは純粋にバッテリーのみで走る純電気自動車で、これには大量のリチウムが使われることになり、しかしハイブリッドでは使用するリチウムの量が少ない、とも。
こう聞くと言い訳のように聞こえないでもないですが、同氏が説明するのは「ここに100台のガソリン車があるとします。1台あたりの平均CO2排出量が250g/kmであれば、当然ながら平均は250g/kmですよね。そして100台のうちの1台のみをピュアエレクトリックカーに置き換えると、この100台のCO2排出平均は248.5g/kmに下がります」。
「ただ、この1台のピュアエレクトリックカーに使用するリチウムは、10台のプラグインハイブリッドカー(PHEV)とイコールです。よって、もし同じ量のリチウムしか使用できないのであれば、100台のうちの10台のガソリン車をプラグインハイブリッドカーに入れ替えてみましょう。そうすると、この100台の平均CO2排出量は244g/kmとなり、1台のみをEVへと変更した場合よりもトータルのCO2排出量が下がるのです」。
「ピュアエレクトリックカー1台分のリチウムが、10台のプラグインハイブリッドカーに使用されるリチウムと同じだと述べましたが、さらに言うならば、このリチウムは90台の(プラグインではない)ハイブリッドカーのバッテリーに使用されるリチウムと同じです。よって、例として挙げた100台のうち、90台をハイブリッドカーに置き換えると、100台の平均C2排出量は205g/kmにまで下げることが可能です」。
こう聞くと「ナルホド・・・」と思ってしまうのですが、これはあくまでも机上の空論であり、「1台のEVと、10台のPHEVと、90台のハイブリッドカー」とを同列に語るのはちょっと乱暴な話でもあり、PHEVやハイブリッドはリチウムの使用量が少ないかもしれませんが、ガソリンエンジンを積む以上、ロジウムやプラチナといった貴金属を触媒に使用する必要があって、そのほか製造コストの高さ、メンテナンスコストの高さなどを考慮すると、PHEVやハイブリッドの方がいい、とは断言できないかもしれません(EVはEVで、その他の希少希土類を使用していたり、バッテリー破損の際にコストが掛かるなどの問題がある)。
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実際のところ、ギル・プラット氏は「はっきり言っておきますが、私たちは現段階ではPHEVが最適な妥協点だと考えているものの、PHEVやハイブリッドカーに全面的に切り替えろと言っているのではありません。トヨタは、2030年までに年間350万台のバッテリー式電気自動車を生産する予定です。しかし、世界のある地域では、充電インフラがそれほど整備されておらず、充電ネットワークに簡単にアクセスできない人々がいるため、こうした他の選択肢の方が優れているかもしれないと考えています。よって、こうしたピュアEV以外のの選択肢の方が優れているかもしれないと考えています」。
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たしかにこれも「もっとも」ではあるものの、やはり現時点での予測をベースにしていて、鉱山同様に「カネになる」となれば、今以上の速度で充電器が普及する可能性もあり、よってトヨタの言い分については理解ができるものの、納得するのはちょっとむずかしいとも考えています。
トヨタは「多様性」を最良の解決策だと考えている
こういった事情もあり、ギル・プラット氏は、気候変動に対して同じ答え=ピュアEVが正解になるのは一部の地域だけであり、よってトヨタは多様性を最良の解決策と見なしていると結論付けていて、これがトヨタの考える「マルチパワートレーン戦略」。
ただ、冒頭にて述べたように、トヨタは、モビリティの未来に対してより現実的な(先進的ではない)アプローチをしているとして、多くの環境団体から標的にされていますが、ギル・プラット氏はこれについてもカウンターを述べており、ひとつは他のいくつかのブランドと同様、車載バッテリーのリサイクルに着手していること。
ハイブリッドカーやEVの古いバッテリーを電力網全体の電源として活用する計画も進行中で、自動車をリサイクルするためのリバース・アセンブリ・プロセスのエンジニアリングも検討しており、そうすれば、どの部品が再利用可能か判断しやすくなり、必要なエネルギーも削減できると述べています。
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ただ、一時「電動化車両のバッテリーのリサイクル」については有望なビジネスだと目されたものの、実際には車両からバッテリーを取外すことは多くないといい、よって最近では「電動車のバッテリーリサイクルはあまり現実的ではない」という見方もあるもよう。
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その他にもトヨタは水素を代替燃料として考えていることについても言及しており、しかし、そこには越えなければならない壁も多く、トヨタは、カローラ・クロス水素コンセプトカー発表の際にも、この技術が将来の路上走行車に使用できるかどうかはまだ確認できていない、とも語っていますね。
こういった感じでトヨタは色々考え、カーボンニュートラルに向けて進んでいることもわかりますが、いかんせん「EVへの対応が遅れている」のは紛れもない事実。
トヨタ同様、環境対策への答えがEVのみではないと発言するメーカーもほかにあり、BWWやステランティス、フォルクスワーゲンもそういったメーカー(グループ)の例ではあるものの、それらは電動化やEVの発売に向けて全力で動き、その中での発言です。
よって、グローバルにて発売したEVが(1ヶ月でリコールになり、性能も優れているとは言えない)bZ4Xのみのトヨタが何かを言おうとも、それは「言い訳にしか聞こえず」、こういった実績や実力を伴わない上での発言にはちょっと違和感を覚えます。
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参照:World Economic Forum