| ポルシェはロードインフォーメーションをドライバーへ正確に伝えることをヨシとしていると捉えていたが |
一方でポルシェはドライバーに負担をかけることを好まない
さて、昨年末にポルシェはチリのオホス デル サラド火山へと改造されたカレラ4Sを持ち込み、そこでは「世界最も高い位置を走行したクルマ(車両による最高高度)」という世界記録を更新しています。
この車両は岩山を登るためにポータルアクスル化されるほか、多数の改造が施されており、しかしその中で最も興味深いのが「ステアバイワイヤ」システム。
これはステアリングホイールの操作を物理的に前輪へと伝えてタイヤを切るのではなく、ステアリングホイールを単なる「スイッチ」としてその信号をアクチュエーターに伝えてタイヤを左右に動かすというものです(つまりステアリングホイールはハンコンと同じである)。
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ポルシェのステアバイワイヤシステムは名付けて「スペースドライブ」
このステアバイワイヤシステムはドイツのパーツサプライヤー、シェフラー社との共同にて製作されたものだそうですが、ポルシェいわく「完全なるデジタル」。
つまりいくつかのステアバイワイヤシステムが「保険」として有する物理的な(ステアリングホイールとステアリングラックとの)物理的なコネクションが一切なく、ポルシェのステアバイワイヤシステム「スペースドライブ」につき、ステアリングホイールはドライバーにフィードバックを生成するフォースフィードバックモジュールに接続され、これはサーボモーターを介してステアリングギア、そしてステアリングホイールに接続されているのだそう。
加えて、ほとんどのステアバイワイヤシステムは”できるだけ多くの感触とフィードバック”をドライバーに伝えるように開発されているものの、ポルシェのスペース ドライブはその逆の方向を目指しているとされ、重要視されているのは「スムーズさと安定性」。
よってフロントタイヤからステアリングホイールに加わる不要な力を取り除くように設計されており、たとえば「山の斜面を登っているときに大きな岩から突然衝撃を受けることは、ハンドルに最も望ましくない」という判断がなされ、ポルシェのエンジニアはこの”キックバック”をパフォーマンスと安全性の両方の理由から排除しようと考えた、と説明されています。
このポルシェ911カレラ4Sを「改」をドライブしたのはル・マン24時間レースにて3回の優勝を経験しているロマン・デュマで、同氏もやはりステアリングホイールに大きな衝撃を与えることを嫌ったとのこと。
この車両に搭載されるスペースドライブは(試作品であるため)助手席にコントロールユニットが積まれ、ダッシュボードに取り付けた操作パネルによって様々な調整ができるそうですが、これは「すべてを好みに合わせて調整でき、たとえばステアリングレシオを変更したり、ステアリングホイールの力を制限したり調整したり、何でもできる」と説明されており、実際に今回の記録達成に大きく貢献したのは間違いなさそう。
実際にこのステアリングホイールを操作すると、現実のクルマというよりもシミュレーターに近い感触が得られるといい、 前輪がどこを向いているかという重要な感覚を伝えつつ、ステアリングホイールからできるだけ多くの”ノイズ”を取り除いているそうですが、これはドライバーに伝えるロードインフォーメーションを重視するポルシェとしてはかなり意外な仕様です。
そしてポルシェオーナーの多くもそういった「アナログな」フィードバックを重視しており、よって911に電動パワーステアリングが採用された際には大きな議論が巻き起こったわけですが、実際に電動パワーステアリングが導入された911を運転して「不満を言う人」は誰もおらず、よってこのスペースドライブについても「ポルシェがそう考えるならば、それは間違いない」のかもしれません。
ポルシェは新しい機能や装備の研究開発そして導入には非常に熱心な自動車メーカーですが、その目的はただひとつ「ドライバーに負担をかけず、いかに速く走れるクルマを作れるか」にあり、よってこのスペースドライブが導入されたとしても、むしろそれはドライバビリティを高めることになりこそすれど、失うものは何一つ無いのかもしれませんね(基本的にぼくはテクノロジー歡迎派であり、ポルシェのやることに間違いはないと考えている)。
加えて、このステアバイワイヤの採用によってスペース的・重量的なメリットも生まれ、加えて「これまでできなかったこと(例えば大幅なステアリングレシオの変更やステアリングホイールの調整範囲拡大、位置変更など)」が可能になるものと思われます。
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参照:Motor1