| これら中国政府の援助によって中国のEVメーカーは最大で1/3以上(欧州製EVに比較して)安価に電気自動車を製造可能に |
これではさすがにEUも「不公平」だと感じるはずである
さて、EUへと輸入される中国製EVに対する追加関税がついに7月4日に発効。
なお、この関税はEUの独自調査によって「自動車メーカーによって(関税レベルが)異なる」という事実があらかじめ公表されていますが、今回その詳細に関する追加情報が公開されています。
これは追加関税発効後に公開された欧州委員会の報告書全文から判明したもので、ここでは中国が自動車業界にどのような支援を行っているかが初めて明らかにされています(そしてその援助の規模は想像以上に大きいようだ)。
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中国政府は中国のEVメーカーに対しこんな支援を行っている
報告書の内容によれば、中国のEVメーカーは中国国有銀行からの融資、その他の融資、助成金、販売奨励金、工場用地の割引価格での取得といった優遇が得られ、さらにはバッテリーそのものにも補助金が投入されている、とのこと。
そこで欧州委員会は、各自動車メーカーが受けた支援額を分類し、どのレベルの関税を適用するかを慎重に決定したわけですが、MGの親会社であるSAIC(上海汽車)につき、他のどの企業よりも多くの支援を受けていると判断され、EUは同社の(車体あたりの)補助金の比率が34.4%に上ると判定しています。
そしてこの34.4%の中には、国有銀行からの融資が1.38%、その他の資金調達が8.27%、補助金が8.56%、EV販売インセンティブが2.28%、不動産取得割引が0.67%、SAICが支払った金額をはるかに上回る価値のバッテリー補助金が13.24%含まれているもよう。
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おまけに労働賃金が高いヨーロッパではなく中国で自動車を生産することによって製造コストそのものが抑えられ、これらによってMGの電気自動車「MG4」は同クラスのフォルクスワーゲンID.4よりも13,000ドル近くも安く作ることが可能となっているのだと報告されています(MGは今もっとも欧州で人気がある中国製EVブランドである)。
加えてSAICはEUの調査に対して「協力的ではなかった」と判断されてしまい、この要素が34.4%に加算され、最大37.6%の関税を課せられた理由となっているようですね。
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吉利汽車とBYDは「関税低め」
一方、Geely(吉利汽車)とBYDは政府からの支援が少ないと評価され、さらには両社とも欧州委員会チームの調査に対して全面的に協力を行い、かつ透明性を保っていたことから(それぞれ)最低レベルの17.4%と19.9%の追加関税対象となっています。※BYDのほうがやや関税が高いのは、独自のバッテリーを製造しているものの、政府の補助金を受けているリチウムなどの材料を使用しているためだと指摘されている
過去数週間にわたりEUと協議を重ねてきたにもかかわらず、中国の自動車業界は規制当局に関税計画を放棄するよう説得することができず、結果として今回の関税発動となったわけですが、この新しい関税制度は最初の4か月間の暫定的なものにすぎず、今後数週間にわたって双方は引き続きコミュニケーションを図る予定だとされ、今回の関税は欧州が「より交渉を有利に進めるためのカード」であり、交渉の場に(本気の)中国を引っ張り出すためのものでもあると考えられます。
なお、一方の中国は「事態が友好的に解決されなければ自国も輸入関税で報復する」と欧州に警告しており、しかしこれは(メルセデス・ベンツやフォルクスワーゲンが指摘するように)欧州自動車産業にとってもなんらメリットはないため、なんだかんだ言いながら4ヶ月後には「追加関税解除」となるのかもしれませんね。
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参照:Reuters