| 「レストモッド」はそれを考え、実行するものの性質がもっとも良く現れる自動車ビジネスでもある |
このエボルートは「当時フェラーリのエンジニアが行いたかったが、技術の壁に阻まれて実現できなかったこと」を盛り込んだかのようだ
さて、先日はエボルート・アウトモビリ(Evolute Automobili)がフェラーリF355のレストモッドを公開し大きな話題を呼んでいますが、今回は追加情報がリリースされることに。
ちなみにネオクラシックカーのレストモッドは現在非常に大きな市場となっていて、ポルシェ911はもちろん、ルノー5ターボ、アウディ スポーツクワトロ、ランチア・デルタ / 037ラリー / ストラトスなど様々なプロジェクトが公開されており、しかし直近で大きな話題を呼んだのがランボルギーニ・ディアブロのレストモッド「エキセントリカ」、そしてこの355 バイ エボルート。
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レストモッドは非常に難しいビジネスである
ただしいかに「盛り上がっている」といえど、”綱渡り”的要素を含んでいるのがこのレストモッドであり、その工程上どうしても車両価格が高額になるので消費者に「買う理由」を見いだせるようにせねばならず、そしてその理由を付与しようとしてオリジナルに手を加えすぎると「もとの車両の良さを台無しにしてしまった」と言われるわけですね。
そういった意味では、先のエキセントリカ、そして355 バイ エボルートは「非常に優れたバランス」を保っているともいえますが、今回その絶妙なレストモッドを手掛けたDRVNオートモーティブ(エボルート・アウトモビリの親会社。同社は自動車メーカーとともに車両の開発を行ったり製造を請け負ったりしている)CEO、イエン・ムイール氏はこのプロジェクトについて以下のように語ります。
「今回、私達は傘下の新しいブランドであるエボルート・アウトモビリを活用して事業を拡大し、新しい製品を作ることを決定しました。30年前のクルマの電子機器を近代化してパワーアップするのは簡単ですが、フェラーリF355のデザインを現代に合わせて改良するのは大変な作業でした。すべてのクルマは個人の好みによるものです。そうではありませんか?そして、車に何も変えたくない純粋主義者もいるでしょう。よって、そのスタイリングはイアン・カラムに任せました。」
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これはたしかに「もっとも」で、というのも「好き嫌い、またカッコいい/カッコよくない」に関する基準は人それぞれであり、だからこそ様々なブランドの様々なデザインを持つクルマが販売され、中古市場では様々な年代のクルマが売れているわけですが、この「イアン・カラム」は自動車デザイン業界における「生ける伝説」でもあり、(オリジナルの)アストンマーティン・ヴァンキッシュやジャガー F-Type等のデザインを担当することでそれぞれのブランドの業績を向上させ、現在は(どこにも属さず)自身のスタジオである「カラム・デザイン」を経営しています。
そしてここでは、過去に自身がデザインしたヴァンキッシュの「再デザイン」を行うほか、様々なレストモッドのデザインを手掛けていますが、「常に時代にマッチしたデザインを手掛け、過剰になりすぎない」作品を送り出すことでも知られている人物でもありますね(さらに素材や製造技術にも明るく、技術的・現実的な可不可を把握している)。
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「彼は史上最高の自動車デザイナーの 1 人です。彼らとデザインレビューの会議を開き、何度も長時間にわたって一緒に座って検討したとき、私たちは (フェラーリF355が)自然にとても美しいクルマであることに気づきました。しかし、21世紀の現代の製造技術により、クルマのラインや車内のディティールにおいて、このクルマが発売された当時よりも多くのことを行うことができます。そして、その現代の機能を使用して、目に見えるものを強調することができます。」
実際のところ、このF355 バイ エボルートは”1990年代の象徴を現代風にアレンジした新しいモデル”というよりは、「F355 プラス」ともいうべき印象で、シルエットやディティールは大きくも変わっておらず、ポップアップヘッドライトと4本の美しい丸型テールライトはそのままです(これ重要)。
フェラーリF355 バイ エボルートは「F355 プラス」とも言うべき存在である
F355 バイ エボルートの最も明らかな進化はリアセクションにあり、テールライト クラスターとディフューザーが(現代の灯火技術とエアロダイナミクス理論によって)再設計され、ホイールはよりサイズの大きなブレンボ製ブレーキシステムを包み込むべく新しい19インチへと拡大されています(それでもフェラーリ伝統の5本スポークデザインを維持)。
そのほか細かいところだと、ヘッドライトの上側とリアハンチに通気口が追加されてエアフローが改善されるほか、エンジンにエアを送るサイドスクープは大きくなり、ボディは約4センチ拡大されつことでより明確でアグレッシブなスタンスが与えられ、前出のイエン・ムイール氏いわく「それでも、すぐにF355だとわかります」。
しかし同氏によると「本当のアップグレードは見えない部分にある」といい、実際にシャシーはドナー車を完全に分解した後に「再構築」されて、構造用カーボンファイバーを追加して剛性を高める等の対策が取られているのだそう。
「当社の設計およびエンジニアリング チームは、シャーシをコンピューター支援エンジニアリング ソフトウェアで解析し、シャーシのどこが強く、どこが弱いかを確認するために仮想的に負荷をかけています。これにより、剛性を高めたい領域がいくつかわかりました。そしてこの構造上の弱点を克服するため、F355設計当時は利用できなかった技術を使用して車体剛性を高めています。」
これらの「補強すべき」領域はリアバルクヘッド、サイドスカート、さらにはリアフェイシア等におよび、オリジナルのシャーシにぴったり合うように形作られた構造用カーボン ファイバーパネルを用いて接着および接合され、たとえばテールライトを保持するカーボンパネルは、リアデッキリッドカバーと同様に、(これまでのように「貼り付ける」のではなく)シャーシの構造部品となり、その結果、車体全体のねじり剛性が23%向上したのだそう。
「補強」を行う一方、車体全体もともとのF355よりも約100kg軽く(1,250kg)、これは主にボディパネルにカーボンを多用したためだと説明されています。
「ルーフとリアバットレスを含むベースシャーシ自体以外のすべてはカーボンファイバーです。バンパーはすべてカーボン製で、ドア、フェンダー、すべての内装の基質もカーボン製です。」
フェラーリF355 バイ エボルートのインテリアには「オリジナルの部品はひとつも残されていない」
そして軽量化に大きく寄与したのが「内装のカーボン化」。
このフェラーリF355 バイ エボルートのエクステリアこそはオリジナルのF355と大きな相違はないものの、インテリアについては完全に刷新されている、とのこと。
「内装にはオリジナルの基質が1つも残っていません。メーターの一部を除いて、すべて新品です。そして基本構造はすべてカーボンファイバーです。それをしたのは2つの理由からです。1つは、もちろん軽量化と強度です。しかし、もう1つの理由は、すべてのクルマを顧客にとって1台限りの注文にしたいからです。そのため、すべての要素を内部で設計し、視覚的にカーボンファイバーにしたり、アルカンターラやレザーで覆ったりして、できるだけ多くの選択肢を用意し、クルマに自分だけの個性を表現できるようにしました。」
もちろんドライブトレインも大幅にアップデートされ、象徴的な5バルブ3.5リッターV8エンジンはそのまま継承されていますが、基本的にすべて新しくなっています。
「エンジン自体には200を超える新しい部品があり、ヘッドをポート加工して空気の流れを改善し、コイルオンプラグ点火システムを取り付けました。多くの部品を再設計し、 その結果、ダイノによる計測では414馬力を発生し、工場出荷時に比較し約100馬力増加しています。驚く様な数字ではありませんが、新車のGR86よりも軽い車としては十分な出力です。」
反面、トランスミッションに変更はないといい、工場出荷時の6速マニュアル・トランスミッションをオーバーホールしてそのまま装着しているのだそう(もとのコンポーネントが優秀であり、変更を加える必要があるほどの出力向上がなされていないからなのかも)。
このフェラーリF355 バイ エボルートの価格は開始価格695,000ポンド(現在の為替レートだと1億3200万円、さらにドナー車が別途必要)なので、特別な限定モデルを除くほとんどのフェラーリよりも高価ということになりますが、エボルートによると「申込みが殺到しており」、生産枠の50台がすぐに埋まってしまっているため、今から注文したとしてもキャンセル待ちの列に案内するしかない、と述べています。
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参照:Motor1, Evoluto Automobili