
| ロレックス、パテックフィリップ・・・。沈静化する高級腕時計市場の新たな局面 |
不透明な時代を背景に「安定の」ブランドに買いが入る
ラグジュアリーウォッチ市場は、「平均」だと実に13四半期連続で価格下落を経験していますが、一部のブランドは堅調を維持し、中には価格が上昇しているブランドもあり、その一方で小売価格から40%以上も(中古価格が)下落しているブランドも存在します。
現在、市場はトランプ関税の影響、認定中古(CPO)市場の爆発的な成長、そしてコレクターからの信頼を得ているブランドとそうでないブランドとの間の明確な分断という新たな変動期にありますが、ここでその状況について見てみたいと思います。
2025年第二四半期(Q2)の高級腕時計市場はどうだったのか
今回参照した動画は「WatchCharts」と「モルガン・スタンレーのウォッチレポート」、つまり信頼できる情報提供元からのレポートを参照しつつ市場を分析しており、つまり「主観的」ではなく「客観的」な側面が強く、非常に有益な内容だという印象。
まず、2025年Q2の市況を見てみると、中古(新古品含む)ウォッチ市場は、3年以上にわたる継続的な下落の後、ついに安定の兆しを見せ始めているといった傾向も。
これまでの状況は決して良好ではなく、しかし2025年Q2の中古市場価格は、前期(Q1)と比較してわずか0.3%の下落に留まっており、これは2022年Q2以来最も低い下落率です。
価格下落は30四半期連続で続いていますが、少なくともその下降は「崖からの転落」ではなく、「緩やかな坂」のようになっており、「価格下落」曲線がゆっくりと着実に平坦化していることは明らかで、これは明らかに好ましい兆候でもあるわけですね。
市場の全体像:見かけの安定の裏に潜む「二極化」の現実
ただしこの傾向はあくまでも市場「全体」のもので、個別に各ブランドを見てゆくとまさに「悲喜こもごも」。
まず、市場を牽引している主要な原動力はわずか4つの主要ブランドに絞られており、それは、誰もが知るロレックス、パテックフィリップ、そしてオメガとカルティエ。
ロレックス、パテックフィリップ、カルティエ、オメガは、2025年第2四半期にわずかながらもポジティブな結果を出しており、これらのブランドは、それぞれの価格帯で市場をリードし続けています。
例えば、ロレックスとパテックフィリップは平均1万ドル以上のハイエンド市場で、オメガとカルティエは3千ドルから1万ドルのミッドレンジ市場で優位を保っているうえ、Q2時点では、これらは当四半期および過去1年間にわたってトップパフォーマーであり続けています。
この一貫した強さは、消費者の需要が「ブルーチップ」と呼ばれる確立されたブランドに集中していることを示しており、これはQ1から続くトレンドでもありますね。
そしてこれら4ブランドは二次市場で大きなシェアを占めており、その相対的な強さが「より広範な市場の弱さを隠して」いて、どういうことかというと、驚くべきことにこれらの4ブランド以外では、ほとんど全てのブランドが価格下落を喫しているという事実が背後に存在します。
レポートが追跡している平均小売価格3,000ドル以上の24ブランドのうち、18ブランドが前期比で少なくとも1%の価格下落を記録しており、注目すべき例外は、チューダー(+0.1%)とブルガリ(-0.2%)のみ。
全体として、35ブランド中29ブランドが第2四半期でマイナスの結果を出し、そのほとんどが1%以上下落しているというので、取引価格において「大きな割合を占める」ロレックス、パテックフィリップ、カルティエ、オメガが好調であったことから、ほかの「小さなシェアを占めるブランド」の価格が下落したとしても、全体的には”好調に見える”という結果となっています。
つまるところ、腕時計市場全体の指数はここ最近において安定しているように見えますが、その数字は一握りの強力なパフォーマーによって大きく牽引されているに過ぎず、その表面の下にある現実は、より不均一で二極化された市場であり、実際に起こっているのは「市場の二極化」。
いわゆる「勝ち組」と「負け組」とに完全に分かれ、二次時計市場のパフォーマンスが”少数の非常に好調なブランドと多数の弱いブランドとの間でますます分断されている”ことを意味します。※そして「勝ち組」と「負け組」との中間が存在しない
市場の「勝者」たち:価格を維持・上昇させたトップブランドの強さ
こういった現象は「市場の大部分が依然として下降トレンドにあり、かつ不安定な状況」にて発生することが多く、この状況下では、コレクターや投資家が”安全資産”でもある、非常に信頼性の高い象徴的なブランドの腕時計の購入へと走り、ちょっとでも不安材料を抱えるブランドには見向きもしなくなるという環境を作り出します。
これは「有事のドル買い」「戦争時に金へと資金が流れる」のと良く似ているのですが、ここで「勝ち組」の内容を見てみましょう。
パテック フィリップ
+1.1% の上昇を見せ、主要ブランドの中で最高のパフォーマンスを示していますが、アクアノートが2.2%上昇し、ノーチラスもこの成長には大きな役割を果たしています。
さらに、新作のキュビタスコレクションに至っては、(デビュー直後に酷評されたのに)小売価格を79.9%も上回るプレミアム価格で取引されることに。
ただしパテックフィリップといえども明るい材料だけではなく、その価値維持率は今年4月から7月の間に7.4ポイントも下落したうえ、総供給量は記録的な高水準に達しており、在庫日数も伸びて平均175日間も売れ残っている状態(それでも業界平均よりは50日程度短い)なのだそう。
カルティエ
ここ最近のカルティエの人気っぷりは凄まじく、市場の予想に反して0.9% の上昇を見せていますが、これは主にサントスコレクションの強い需要によるものだとレポートされています。
サントスは、同業他社と比較しても良好な水準であるマイナス23.3%の割引率で取引され(つまり、好調といえど希望小売価格を超えて取引されているわけではない)、さらに興味深いことに、カルティエは唯一価値維持率が改善した主要ブランドでもあるといい、わずか0.6ポイントではありますが上昇を見せています。
なお、パンテールの人気も高く、前四半期に比較して9.8%、過去6ヶ月で9.3%も価格が上昇している、とのこと(カルティエはスポーツウォッチの殆どを廃止してドレスウォッチ中心のラインアップに移行しているが、それによって代替性のないブランドとなったのだと思われる)。
ロレックス
王者ロレックスは事実上横ばいの-0.2%で、しかし、現在の市場ではこれでも勝利と言える数値であり、平均取引価格は前四半期比で0.7%上昇。
特筆すべきは、サブマリーナーやGMTのような大型でスポーティーなモデル(いわゆるスポロレ)から、デイトジャストやオイスターパーペチュアルのような、よりクラシックでスポーティーではないラインへと嗜好の変化が見られることで、実際のところ、スポーツモデル(サブマリーナーやヨットマスター)は約-1.3%の現象を記録し、”ロレックス全体の成績を押し下げて”いることが数値にて検証されています。
そしてもう一つ特筆すべきは2022年後半に開始された ロレックス認定中古(CPO)プログラム。
これは同社が二次市場での販売を管理するための手段として開始したもので、2025年Q2には急成長し、新たに12の小売店と30のサプライヤーが追加され、合計116の小売店と227のサプライヤー、約8,500本の時計、推定1億9千万ドルの在庫を抱えていますが、Q2の売上は1億2千万ドルに達すると推定されており、これは前期の1億ドルから20%の増加なのだそう。
そしてロレックスCPOの価格は、「通常の」二次市場よりも”かなり”高いプレミアムがついていることも見逃せず、グローバルな平均CPOプレミアムは、非認定品と比較して30.8%も高い数値を持っており、これはロレックス自身が「二次流通(中古)価格を引き上げようとしている」と受け取ることも可能です。
さらに興味深いのは、小売店によって価格帯が大きく異なる点で、例えば、米国の「The 1916 Company」は平均で約16%というプレミアム価格を示していますが、ヨーロッパの「BHH」は42%という驚くべきプレミアムで販売中。
ロレックスはブランドの信頼に賭けてこのセグメントを推進しており、Q2の売上1億2千万ドルを見る限り、それは成功していると言っていいのかもしれません。
オメガ
お曲げはわずかな下落の-0.1%にとどまり、他のほとんどのブランドよりも”持ちこたえた”という結果に。
スピードマスターやシーマスター(ダイバー300Mやアクアテラなど)の価値維持率は-29%、オメガ全体だと平均して-35%という結果が出ているので、ロレックスとは逆に「スポーツモデルのほうが人気」だと考えてよく、もしかすると「ロレックスのスポーツモデルの価格があまりに高くなりすぎたので」オメガに流れる層が出てきたのだとも推測可能。
ちなみにデ・ヴィルは40%以上も下落しており、統計を取った約400ものオメガモデルの中で小売価格を上回って取引されているのは、「スヌーピー スピードマスター(Ref. 310.32.42.50.02.001)」のわずか1モデルのみだとされるので、まだまだロレックスと同等の地位へと上り詰めることは難しいのかもしれませんね。※勝者とされる4ブランドのうち、ラインアップのうち多くがプレミアム価格で販売されているのはロレックスとパテック フィリップのみである
市場の「敗者」たち:苦戦を強いられる主要ブランド
上述の「一握りの勝者たち」が市場を安定させる一方、大多数のブランドは依然として苦境にあり、劇的な落ち込みを見せているブランドも。
実際、このレポートで追跡されている35ブランド中29ブランドが、2025年第2四半期に価格パフォーマンスがマイナスとなっているほか、そのうち25ブランドは1%以上下落しています。
その中でも特に目を引くのは、かつてはオートオルロジュリーの旗艦ブランドであったヴァシュロン・コンスタンタン。
同ブランドは-41.1% という全ブランド中最悪の価値維持率を記録し、二次市場価格は前四半期非比で-3.4%も下落。
これは「市場価格は、品質やデザイン、職人技の評価とは必ずしも連動しない」という厳しい現実を示すデータです。※オーバーシーズコレクションの一部のみが小売価格を上回って販売されている
そしてヴァシュロン・コンスタンタンとともに「雲上ブランド」の一角を成すオーデマ ピゲ(AP)も価格維持率では6.6ポイントという大きな下落を記録していて、しかしこの下落は主に、小売価格が6.7%上昇した一方、二次市場価格が1.4%下落したことに起因しています。※二次市場価格だと-1.3%の下落
参考までに、大きく価格を下げているのはロイヤルオーク オフショアシリーズ(-22.7%の価値維持率)、そしてコード11.59(衝撃的な-33.3%)。
ちなみにコード11.59は日本でも「ちょっと待てば買える」状況となっていますが、この事実が示すようにオーデマ ピゲでも総供給量が記録的な高水準に達しており、平均してセカンダリーマーケットでは223日間もの間”売れ残って”います。
その他、Q2で大きく価値を下げたブランドは以下の通りですが、オーデマピゲ同様、「価格の引き上げ幅が大きかったので」すでに流通している二次流通品との価格ギャップが大きくなってしまったようですね。
• IWC: 価値維持率-37.4%
• A.ランゲ&ゾーネ: 価値維持率-36.7%
なお、「面白い例外」として示されているのがティソ(Tissot)。
ティソはQ1では「最も価値が下がったブランド」であったそうですが、Q2では取引相場が1.5%上昇して「V字回復」を見せることに。
これは「価格が下がったことでお得感が生じ」積極的な買いが入ったと結論付けられていて、価格に敏感なエントリーレベル市場ならではの現象なのかもしれません。
The Tissot Sideral dial glows with celestial energy, featuring multi-coloured luminescent hour and minute markers, a regatta countdown, and just enough retro charm to keep it grounded. pic.twitter.com/nR79Hvo6F0
— TISSOT (@TISSOT) July 15, 2025
直近の腕時計市場について解説する動画はこちら
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参照:(Youtube)