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モントレー・カーウィークの現場に「異変が発生」?EVハイパーカーが激減し、 富裕層の嗜好変化と自動車業界の現実が突きつけられる

モントレー・カーウィークの現場に「異変が発生」?EVハイパーカーが激減し、 富裕層の嗜好変化と自動車業界の現実が突きつけられる

Image:Rimac

| モントレー・カーウィークで起きた異変とは |

「エレクトリックハイパーカー」の姿が急激に減少する

さて、モントレー・カーウィークは米国における「自動車に関する一大イベント」であり、ここには多くの富裕層が集まるということで、新興自動車メーカーやコーチビルダーが少量生産モデルを展示するほか、各自動車メーカーも「富裕層向けの」限定モデルを発表することでも知られます(実際、ランボルギーニ・フェノーメノもここで発表されている)。

そしてこのフェノーメノのほか、今年も華やかな新型車や超高額モデルが数多く発表されましたが、閉幕後に来場者の間で話題となったのが「ある異変」。

それは、ここ数年で主役だった 「1,000馬力級のEVハイパーカー」 が、ほとんど姿を消していたことであり、その理由を探ってみましょう。

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EVハイパーカーが減少した理由

1. 富裕層の購買行動が変化

まず大きいのは消費者行動の変化。

マッキンゼーの調査によると、富裕層であっても経済状況への不安から高額商品の購入には慎重になっており、自動車メーカーは従来以上に「買う理由」を提示する必要があり、単なる馬力や加速性能だけでは購買意欲を刺激できなくなっていて、「いかに優れるパフォーマンスを持っていても、将来的に価値が下がる可能性が高いEV」への投資を控えているのだと説明されています。

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さらには「将来的にガソリンエンジンが消滅する」という飢餓感から、「いつでも買えるであろうEVより、絶滅する可能性が高く、今しか買えないガソリン車」へと富裕層の興味がシフトしていることも考えられ、投資的側面からも行動が大きく変化し、さらにこういった変化を敏感に察知した新興スーパーカー / ハイパーカーメーカーが「EVではなく、ガソリン車のほうが儲かる」と踏み、供給側による商業的な理由から「EVが減った」のだとも推測できそうですね。※実際、最近発表される新興ハイパーカーは、以前のように「電動」ではなく、「V12」を売り物にしているケースが多いようだ

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2. EVブームの後退

2020年代前半には、自動車メーカー各社が「将来はEVのみを販売する」と豪語し、次々とガソリンエンジンの開発を終了させたり、EV用の生産工場を建設していましたが、当時は、先進的な富裕層も「EVハイパーカーを我先にと購入していた」状況です。

この背景には「最先端の、かつ高価な製品を手にすることによる優越感」「環境改善に貢献しているという肯定感」があったものと思われ、しかし今では流れが完全に逆転し、自動車メーカーは再び内燃機関(ICE)やハイブリッドに力を入れ始め、米政府もEVインフラへの投資を縮小し、市場は「完全電動化」から距離を置きつつあります。

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この傾向については「どうしてこうなった」のかを明確には説明できず、しかし現在は以前ほど「環境」に対してうるさくなくなったのもまた事実。

これは「高いお金を払って環境に貢献しても、結局は自分の懐が痛むだけでなんにもならない」と多くの人か気づいたり、行き過ぎた環境活動家に対して反感を持つ人が増えたり、インフレによって家計が圧迫されたり、戦争やコロナウイルスによって「先のことよりも今の生活、そしていつ死ぬかわからない中で先のことを考える余裕はない」と考え、自分の生活や楽しみを第一に考える人が増えたからなのかもしれません。

これは「多様性、公平性、インクルージョン(DEI)」についても同じことが言え、これらを推進する企業の広告が「目につきすぎて鬱陶しくなったり」、ディズニーのように「押し付けがましかったり」することで、多くの人が「もう勘弁して・・・」「そこまで主張しなくても、普通にしてたらいいじゃない・・・」と思うようになった(であろう)例によく似ているように思います。※どういった事例にせよ、過剰に権利や存在を主張すると反感が生まれる

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3. EVの「特別感」が消えた

かつてEVハイパーカーは「未来の象徴」であったものの、今やシボレーですら1,000馬力級のEVを発表する時代。

さらに中国では「1,000馬力のセダンは当たり前、3,000馬力のハイパーEVすら登場」しており、つまり「電動+ハイパワー」ではもはや特別な存在ではなく、むしろ差別化が難しいセグメントに。

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加えて、シャオミやBYDのEVがニュルブルクリンク等にて記録を更新するに際し、多くの人が「中国のEVであっても更新できるような記録」に関心を失ってしまったのだとも考えられ、「EVはもうEVで記録だけ追求しといて」という風潮が生まれてしまったのかもしれません。

そこで超富裕層向けのモデルは、むしろデザインや素材、クラフトマンシップといった「特別な体験」へと回帰しており、ブガッティがトゥールビヨンにて示した「究極のアナログ体験」がひとつの好例であるとも捉えています。

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今後のラグジュアリーカー市場はどうなるのか?

EVハイパーカーの減少は業界全体にとって不安材料にも見えますが、実際には超富裕層向けのクルマは消えるわけではなく、むしろ今後は、「魂のあるクルマ」「エモーションを感じるクルマ」「ワンオフ」「超少量生産」 が高級車市場の中心になり、つまりは「スペックに頼らない、別の価値観」が求められるということに。

実際のところ、前出のブガッティ・トゥールビヨンは約7億円という価格にもかかわらず生産予定台数があっという間に完売し、50人以上の「キャンセル待ち」が列を作っていると言われます。

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これが示すのは「新たな価値観や世界観を示し、それに共感してもらえれば」いかに高額なクルマであっても”富裕層が喜んでその対価を支払う”ということで、そして富裕層が共感するのはもはや「環境」「スペック」ではない、ということ。

よって今後は既存自動車メーカー、そして新興自動車メーカーともに様々なアプローチをもって「超エクスクルーシブな」クルマを提案してくるであろうことが予想され、その手法については非常に興味のあるところですね。

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