
| ターボチャージングの王者がもたらす革新 |
ポルシェにとって「ターボ」はいつの世も特別な存在
ポルシェは、自動車の歴史において常にターボチャージングの最前線に立ってきたことでも知られ、世界初の量産ターボ車(930ターボ。発表はポルシェのほうが早かったとも言われるが実際の発売はBMW 2002ターボのほうが1年早い)、初の市販ツインターボ車(959)、そして最新世代の911 GTSに搭載された世界初となる”真の”ハイブリッド・ターボ(T-ハイブリッド)など、その功績は計り知れません。
それでもポルシェはまだその手を止めるつもりはなく、今回はCarBuzzがドイツ特許商標庁(DPMA)で発見した新たな特許出願について報じており、その内容は新型911ターボSに搭載される「ハイブリッド・ツインターボ・システムのさらなる高度な改良技術」に関するものだと解説されています。
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ツインターボの「非効率性」の解消
まず、この特許は、V6またはフラット6といった2つのシリンダーバンクと並列に配置された2つのターボを持つエンジンに対応できるよう考案されています。
従来のツインターボエンジンでは、共通のインテークプレナム(吸気集合室)に設置されたMAFセンサー(マスエアフローセンサー)が、エンジンに入る空気の合計量を測定するのですが、これにより「死角」が生じるというのがこれまでの技術の欠点だとされてきたわけですね。
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- 問題点:フロー・ストール(流量失速): 2つのターボが完全に同じ量の空気を供給しているのが理想ではあるものの、実際には、吸気バルブの脈動や温度の違いなどにより、意図した流れとは逆の脈動が発生し、空気の流れが中断される「フロー・ストール」という現象が発生する可能性が存在する
- リスク: フロー・ストールが発生すると、熱い空気がターボの逆方向に流れる可能性があり、結果として重大な損傷につながるリスクが考えられ、ポルシェにとってこのリスクは無視できない
T-ハイブリッドによる「フロー・ストール」の瞬時修正
そこでポルシェは革新的なT-ハイブリッド・システム(ターボ内に電動モーターを組み込み、排気ガスのみに頼らず素早くターボを立ち上げるシステム)に、この問題解決のための新たな利点を見出しており、上述の課題の修正策は以下の通り。
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- 異常検知: エンジン回転数とスロットル開度に基づき予測される吸気圧力を下回った場合、MAFセンサーがフロー・ストールが発生したと検知
- ターボ速度確認: この圧力低下を検知すると、システムは2つのターボ個々に搭載された速度センサーを確認し、もしフロー・ストールが発生していれば、逆圧によりターボの速度はモデル化された速度範囲を下回ることに
- 瞬時補正: ここでT-ハイブリッドの真価が発揮され、ターボチャージャーは電動モーターを内蔵しているため、システムは影響を受けたターボのみを電動モーターで瞬時に正確な動作速度まで加速させることができ、これによって空気の正しい流れが回復し、一貫した吸気圧力が維持される
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さらに電動ターボはそれぞれが独立して動作するため、片方のターボのみでフロー・ストールが発生した場合、影響を受けたターボだけを補正することが可能となり、今回出願された特許は電動ターボ、しかもツインターボならではの「理にかなった」制御だといえそうです。※911カレラGTSに積まれるT-ハイブリッドは「シングルターボ」である
従来のターボでは不可能な「冗長性」
ポルシェの革新はさらに一歩進んでおり、特許では2つの電動ターボが共有する電気ネットワークの冗長性を利用しています。※工学分野における冗長性とは、「システムの一部に障害や故障が発生しても、全体の機能が停止しないように、あらかじめ予備の構成要素(機器や回線、データなど)を重複して持たせる設計や性質」を指している
- 電気的なバランス: 2つのターボは相互に接続されているため、ターボのE-モーターによって放電または回生される電気量が常に等しくなるように制御される
- 性能の均一性: この電力のバランスをとることで、2つのターボが常に同一に動作することが保証され、吸気流量の乱れを防ぐもう一つの手段となる
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量子的な飛躍:電動モーターの決定的な優位性
この技術は、ポルシェのT-ハイブリッド・ターボチャージド・パワートレインが、ターボチャージャー技術における量子的な飛躍であることを証明していますが、つまるところ「ターボチャージング技術のデメリットをすべて解消するのがこのT-ハイブリッド。
従来のツインターボ・システムでは、排気ガスに頼ってターボを加速させるため、(排ガスの流量減少に伴いう)失速を補填するためには排気流量を増やす必要があり、これはエンジン回転数を上げることでしか達成できなかったわけですね。

結果として、エンジンの回転数が”十分な排気流量を確保するまで”の間はトルク曲線の目立った穴(つまりターボラグ)として現れ、トルクの補填が追いつかないということになりますが、ポルシェのT-ハイブリッドは、排気タービンを通る排気流量を増やすことなく、タービンとコンプレッサーの間の電動モーターによってコンプレッサーを独立して制御し加速させることができ、これによってターボへの損傷リスクが減るだけでなく、いかなる状況下でも一貫したパフォーマンスとパワーデリバリーが保証されということに。
現在多くの自動車メーカーが「電動ターボ」を取り入れており、ポルシェの他だとメルセデスAMGそしてフェラーリ、マクラーレンがこれを採用済み。

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ただしいずれもその制御ロジックや手段、そもそもの主目的が微妙に異なっていて、これは「まだまだ電動ターボが発展における過渡期にある」からなのかもしれません。
この電動ターボの普及には「コスト」「複雑さ」「重量」など様々な課題も残されてはいるものの、現在の自動車業界に求められる解決策を高いレベルで実現できる技術には変わりがなく、よってここから大きく普及に向けて動き出す可能性もありそうですね。
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参照:Carbuzz