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| ポルシェ 911 カレラ RS 2.7──最も価値ある「ホモロゲーションスペシャル」 |
なぜポルシェ911カレラ RS 2.7はこれほどまでに人々に愛されるのか
ポルシェ911の中でも「カレラ RS 2.7(ナナサンカレラ)」の名前を聞くと胸が高鳴る──そういう人は多いかもしれません。
ここでは、この“最も遅いのに最も高額なRS”という逆説的な存在がなぜ世界中のコレクターを惹きつけるのかを「歴史的背景・技術・デザイン・レース活動」まで含めて考察したいと思います。
- 最も遅いRSなのに、最も価値がある。
- 0-100km/hは5.8秒と現代基準では遅いのに、価格は最大250万ドル
- RS 2.7は“すべての911 RSの原点”であり、歴史・デザイン・レース実績すべてが揃った唯一無二の存在だから。
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■ 911 Carrera RS 2.7の主要スペック(表)
1972年に誕生した911 カレラ RS 2.7は、911史の中で最も象徴的なモデルであるということに誰しも異論はないかと思いますが、その理由は単に希少だからではなく、“カレラ(Carrera)”という名も、“ダックテール”も、そしてRSの血統も、この一台から始まったから(加えて、はじめて前後異サイズのタイヤを装着した市販車でもある)。
以下は911 カレラ RS 2.7のスペックですが、これらの数字だけを見ると現代水準より控えめではあるものの、当時は“史上最速のドイツ市販車”でもあったわけですね。※当時の主要カーメディアによるテストでは、はじめて0-100km/h加速「6秒」を切った市販車であった
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| 項目 | 内容 |
|---|---|
| エンジン | 2.7L フラット6 |
| 最高出力 | 210馬力 |
| 0-60mph | 5.8秒 |
| 最高速度 | 約244km/h |
| 生産台数 | 合計1,580台(Sport 200台、Touring 1,380台、RSH 17台、RSR 55台) |
| 特徴 | ダックテール、前後異径タイヤ、軽量化シャシー、ホモロゲーションモデル |
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なぜ“最も遅い”RSが“最も高額”なのか?──3つの核心理由
① すべてのRSの原点:この1台が“911 RS”という血統を作った
911 GT3 RS、GT2 RS、そして現行の992 GT3 RS──。
これらすべての始祖がRS 2.7であり、“軽量フェンダー”“高回転型エンジン”“空力装備”“サーキット直結の走り”といったRSのDNAは、このモデルから始まっており、「RSの原点である」という希少性はその後のモデルでは替えが効かず、「初代RS」としての価値が価格に直結しているのだとも考えられます。
なお、この911カレラ RS 2.7は当時グループ4への参戦を計画していたポルシェがその参戦条件である「同様のスペックを持つ市販車を500台すべし」という基準を満たすために市販した「限定モデル」。
かくして911 カレラ RS 2.7は「軽量化」「固めた足回り」「パワーアップ」というその後脈々と受け継がれるRSモデルのDNAを確立し、同時にダックテールをはじめとするエアロダイナミクスの強化もなされることに。
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② 世界初の「ダックテール」量産化と空力革命
911 カレラ RS 2.7の外観における大きな特徴、“ダックテール”は今でこそ911におけるひとつの象徴ではありますが、誕生の背景は深刻な”挙動不安”。
当時の開発陣は高速域での「リフト(浮き上がり)」問題に頭を抱えており、そこで誕生したのが、史上初の標準装備型リアスポイラー=ダックテールです。
ちなみに当時は「エアロダイナミクス」という考え方はほぼ存在せず、ポルシェによると、ダックテール型リヤスポイラーを考案したのは当時26歳だった、ポルシェに入社したての航空宇宙エンジニアであるティルマン・ブロドベック氏、そしてヘルマン・プルスト氏。
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ティルマン・ブロドベック氏はその時代の自動車をして「基本的に揚力が発生してしまう形をしていた」と表現しており、これはつまり、横から見ると、車体底面がフラットで、ボディ上面が弧を描いており、つまり「翼断面」のような形なので、飛行機の翼が持つ役割のように、浮かび上がろうとする力が自然と発生してしまうということですね。
■ ダックテール:RS 2.7が「世界を変えた」空力デバイス
これを解決するために考案されたのがこの「ダックテール」リヤスポイラーというわけですが、この命名は開発陣ではなくポルシェの営業サイドからなされたといい、というのも当時は「レース用のホモロゲーションモデル」の人気がまったくなく、おそらくその売れ行きは「時速4.5キロで歩くダックのようにゆっくりだろう」と見なされていたから。
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しかし結果的に、このダックテールスポイラーは性能的に大きな貢献を果たすこととなり、「軽量スパルタン、モータースポーツ直結」というコンセプトも大いに受け入れられることで911カレラ 2.7は500台の枠を3倍以上も超える1,580台が生産されることとなったわけですね(当初、ポルシェは100台も売れればいいだろうと考えていたようだ)。
- 高速安定性を確保
- レースでの勝利に貢献
- デザイン的にも象徴へ
余談ではありますが、このダックテールスポイラーの採用について社内では「反対勢力」もあったとされ(見た目の問題であったのかもしれない)、しかしテストドライバーのグンター・シュテックケーニッヒによれば「高速テストを実施した際、ダックテールの空力効果は“劇的”だった」。
さらにヘルマン・ブルストは後にこう語っています。
「あれはただの技術的ソリューションのつもりだった。しかし、いつの間にかアイコンになっていた」
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なお、「ホモロゲーションモデルなので売れないだろう」と考えられていたところ「予想よりも売れてしまった」のはフェラーリGTO(288GTO)同様で、これによってポルシェが(フェラーリともども)大きなビジネスチャンスを見出したのは御存知の通り。
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③ 生産台数わずか1,580台という希少性+レース実績
こういった経緯もあって最終的に1,580台となった911カレラ 2.7の生産台数ではありますが、グレードによって内訳が大きく異なり、その構成は以下の通り。
- Sport(軽量仕様)200台
- Touring 1,380台
- RSH(ホモロゲーション車)17台
- RSR(レース用)55台
そして当時、RS 2.7はサーキットでも圧倒的な存在感を示したばかりかツーリングカーやGTレースで多くの勝利を獲得。
このモータースポーツにおける実績が後のRS神話の礎となり、現代では50万ドル〜250万ドルの価格で取引されるようになったわけですね(RSモデルの中ではもっともモータースポーツでの成功を収めたモデルとされることからも、ほかのRSモデルとは一線を画している)。
象徴的デザイン──ワイドフェンダーの誕生
■ フェンダー拡幅と前後異径タイヤ
上述の通り、911カレラ RS 2.7はポルシェ史上初の「前後異径タイヤ」を採用。
そのためリアフェンダーは42mm拡幅されており、これも「RSの伝統のはじまり」そして以後のRSモデルでも標準となる仕様です。
- 後輪トラクション向上
- ハンドリング改善
- レーシングカー直系の発想
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Carreraという名はどこから来たのか?──伝説の「カレラ・パナメリカーナ」
すでに述べたとおり、911カレラ RS 2.7は、ポルシェ初の“カレラ(Carrera)”の名を持つ量産車ですが、その由来は1950年代メキシコで行われた伝説のレース
「カレラ・パナメリカーナ」。
ポルシェはこの過酷なレースで
- 550スパイダーによるクラス優勝(1953年)
- 総合3位(1954年)
を記録。
その栄光を讃えて“Carrera”の名が生まれ、RS 2.7のサイドに大きく描かれるスタイルへとつながっており、今日の“Carrera”シリーズの原点がここに誕生したということに。
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結論──現代のRSより遅くても、誰もが欲しがる唯一無二の911
911 Carrera RS 2.7が250万ドルで取引される理由、それはざっとまとめると以下の通り。
- RSの始祖である(唯一無二)
- ポルシェを象徴する“ダックテール”の原点
- 生産台数が極めて少なく、希少価値が高い
- レース実績が歴史的に豊富
- Carreraという名の初採用車
- さらにははじめての「前後異サイズのタイヤ」採用車
- 軽量素材を広範囲に採用した初の911シリーズ
速さなら現代のGT3 RSの方が圧倒的ですが、“RSの魂”の源泉は1973年のRS 2.7にしか存在せず、コレクターが熱狂するのは、まさにこの“唯一無二の歴史的価値”だともいえそうですね。
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