
| フェラーリは「ハイパフォーマンスEV」に対する懐疑的なトレンドをひっくり返すことができるのか |
それにはまず顧客の「EVに対する偏見」を覆さねばならない
フェラーリが2030年までのEV計画を下方修正したことや、高級EVの需要が伸び悩んでいることから、同ブランドのEV「エレットリカ(Elettrica)」に対しては懐疑的な見方があるかもしれません。
しかし、このエレットリカはエンスージアスト・カーの未来を左右する非常に重要なモデルとなる可能性があり、というのもフェラーリは車両ダイナミクス分野をリードする数少ない自動車メーカーであり、その技術的アプローチは他の高性能車メーカーにとってのベンチマーク(基準)となるからで、もしかするとこのエレットリカに最も注目しているのは「消費者」ではなく「自動車メーカー」なのかもしれません。
Image:Ferrari
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1. 究極のアクティブ制御技術の「総動員」
エレットリカが業界の最先端を行くであろう理由は、単一の技術ではなく、複数の高度なシステムを組み合わせた統合制御にあります。
技術要素 | 詳細と革新性 |
四輪独立モーター | 各車輪にモーターを搭載することで、超高速かつ超強力な四輪トルクベクタリングを実現。車両の挙動を根本から精密に制御することが可能に |
48Vアクティブサスペンション | プロサングエやF80にも採用されている技術の進化版。縦、横、垂直のあらゆる動的条件下で、各車輪の力をアクチュエーターが制御する |
独立型後輪操舵システム | 後輪のステアリングを独立して制御を行うことで、俊敏性と安定性を極限まで高めることが可能に |
統合制御 | これらのハードウェアとソフトウェアが連携し、「あらゆるダイナミクス条件下で垂直・前後・横方向の力を制御するアクチュエーターを備えた初のフェラーリ」として、フェラーリらしいドライビングスリルを提供する |
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フェラーリは、2004年のF430で電子制御リミテッド・スリップ・ディファレンシャル(E-Diff)を導入して以来、電子システムと高度なハードウェアを連携させてハンドリングを最適化するアプローチのパイオニアであり続けていますが、意外と「電子化に熱心」ということは知られておらず、その理由は「電子化されていることすらわからないほどの自然なハンドリング」にあるからなのかもしれません。
よって近年のフェラーリでは、いざステアリングホイールを握ると「運転がうまくなった」と錯覚するほどの優れた制御が導入されていて、どれだけ自分がその電子制御に助けられているかを知るには、「比較的アナログな」後輪駆動スポーツカー、たとえばマツダ・ロードスターやGR86に(フェラーリを運転したすぐ後に)乗り、同じ道を走ってみればわかりやすいかもしれません。
なお、フェラーリは新車を発表する都度、こういった電子制御を常に進化させていて、「技術仕様」の一部としてSSCやABSのバージョンを公表していることからも電子化された車両制御を重視していることがわかります(新車発表時のプレスリリースにて電子制御技術につき詳細を語るハイパフォーマンスメーカーは多くない)。
そしてエレットリカは、この「フェラーリの車体制御哲学」を電動化時代に伴い、極限まで推し進めたクルマということになりそうです。
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2. EV特有の課題に対する「感情的な解決策」
加えてエレットリカは、EVにて度々問題視される「ドライビング・エンゲージメント(運転との一体感)」に関する課題にも真正面から取り組んでいることがアナウンスされており、例えば以下のような側面も。
Image:Ferrari
- 五つのトルク・パワー曲線: 従来のトランスミッションがないEVにおいて、運転の楽しさを維持するため、「アップシフト」パドルを引くことで五段階に強度が増していくパワー/トルク曲線を提供。これは、シフトアップするような加速感の「変化」をドライバーに与える工夫です。
- 本物のサウンド増幅: 人工的な音ではなく、電動モーターから発生する実際の振動を加速度センサーで捉え、それを増幅させてキャビンに届けることで、エンスージアストに語りかけるオーセンティックなEVサウンドを作り出しています。
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結論:すべての高性能車メーカーにとっての「道標」
エレットリカは単なる高価なEVではなく、フェラーリは「EVでもエンスージアストに訴えかけるものを作るにはどうすればいいか」という、すべての高性能車メーカーが直面する問いに対する回答にほかなりません。
EVへの移行が予想より遅れているとしても、電動車が(将来的に)自動車界の大きな部分を占め続けるであろうことに疑いの余地はなく、フェラーリがF430で始めた車両ダイナミクス制御のトレンドが他のメーカーに広がったように、エレットリカで開発された四輪独立トルクベクタリングとアクティブ制御の組み合わせは、ランボルギーニを含む将来のすべてのEV高性能車に影響を与える可能性が高いと見られていて、つまりエレットリカは現在「自動車業界において、最大級に注目を集めるクルマ」といっていいのかも。
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よってこのクルマを無視することは、高性能車の未来に目を閉ざすことと同義でもあり、フェラーリのこれまでの進化、そして成果、ひいてはフェラーリの哲学に背を向けることになるんじゃないかとも考えています。
なお、ぼくがこのエレットリカに関して気になるのは、フェラーリがエレットリカを「ガソリン車の模倣」として捉えているのか、あるいは「ガソリン車でできなかったことを実現するための、ガソリン車を超える新世代のクルマ」として捉えているのか。
しかしながら、フェラーリのこれまでの「革新の歴史」、そしてハイブリッドに対する取り組みを見るに「新しい技術は、既存技術の単なる置き換えではなく、新しい領域に達するためだけに使用する」という明確な意思が感じられ(これはV12を自然吸気のまま残し、ターボ化もハイブリッド化しないことからも明白である。なぜならV12自然吸気に置き換えられる技術は存在しないから)、その意味でもエレットリカには大いなる期待を寄せています。
なお、エレットリカに対する一つの懸念は「(自動車業界全般的に)現在まだ電動化技術に関する発展途上時期、さらにはごく初期」であるということ。
Image:Ferrari
よって、エレットリカがいかに優れていたとしても、すぐにフェラーリ自身によって「エレットリカの物理的性能や技術、その考え方すらも」上書きしてしまうEVが登場するであろう可能性が考えられ、これまでのフェラーリのクルマのように「価値を維持できない」可能性が考えられます。
ただしエレットリカは新しいフェラーリの1ページを記したクルマとして記録されることは間違いなく、その意味においては「長期的に見た場合、歴史的評価が高まる」んじゃないかとも考えているわけですね。
Image:Ferrari
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参照:Motor1, Ferrari