
| フェラーリV8ミドシップ、21世紀の幕開け |
フェラーリは「モンテゼーモロ体制」によって大きく進化
1975年の308 GTBから始まったフェラーリのV8ミドシップは、F355ベルリネッタにおいて「第1章」を終ることとなっていますが、1999年、全く新しい設計思想を取り入れた360モデナが登場し、21世紀のV8フェラーリの基礎を築きます。
そこからF430、458イタリア、488GTB、F8トリブートへと進化を遂げ、やがてV6ハイブリッドの296 GTBへとバトンが引き継がれることで「一旦は」フェラーリV8ミドシップ第二章が幕を閉じることとなっているわけですね。
ここでは、その「第二章」にて語り継がれるべきモデルたちを見てみましょう。
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フェラーリV8ミドシップの系譜(前編):308 GTBからF355ベルリネッタまで、50年の血統を振り返る。なぜフェラーリはミドシップを採用するに至ったのか?
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1999年:フェラーリ 360モデナ
F355の後継として誕生した360モデナは、フェラーリ初のオールアルミ構造を採用。
モノコックシャシーとアルミボディにより剛性は40%向上、重量は28%削減され、 3.6リッターV8はF355由来ながらも400馬力を発揮することで0-100km/h加速は4.5秒、最高速は295km/h超というスペックをもたらします。
座席後部には(限られたサイズながらも)ゴルフバッグを搭載することも可能になり、「より広く、軽く、速い」という3拍子が揃った360モデナは文字通り、それまでのフェラーリから大きな飛躍を遂げたモデルであったわけですね。
Image:Ferrari
ルカ・ディ・モンテゼーモロが「V8フェラーリの価値」を高める
なお、ここで特筆すべきは1991年にフェラーリ会長に就任したルカ・ディ・モンテゼーモロ氏の存在。
同氏は1990年代初めにフェラーリの経営再建を任され、F1チームと市販車ビジネスの両方を立て直すことに成功していますが、この時期に開発されたモデルは彼のリーダーシップの下、フェラーリのブランドイメージと価値を高めたものとして知られています。
Image:Ferrari
彼が関与した代表的なモデルとしてはF50、エンツォ・フェラーリがよく知られるところではあるものの、カタログモデルでは360モデナが挙げられ、これは新たなフェラーリの時代を象徴するクルマとなるとともに、フェラーリの価値のみならず、V8モデルの価値をも向上させたモデルとして歴史的な意義を持つと捉えられているのは多くの人が認めるところ。
なお、フェラーリのV12ミドシップはF512Mにて終了していますが(1996年)、これによってV8ミドシップモデルの価値が「相対的に」高くなったのかもしれません(これ以降、しばらくはV8ミドシップが高い市場価値を持つことになる)。
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2004年:フェラーリ F430
360の基盤を引き継ぎながらも、F430は全く新しいフェラーリといえる進化を実現。
F1由来の「シャークノーズ」を思わせるフロント、エンツォフェラーリを彷彿とさせるリア、刷新されたインテリアが特徴です。
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ただし最大の変化はエンジンにあり、車体ミッドに搭載される4.3リッターV8は490馬力を発揮。※430スクーデリアでは510馬力
さらに電子制御ディファレンシャル(E-Diff)や、ドライビングモードを切り替えるステアリングホイール上のマネッティーノを初採用しており、ある意味では360モデナ以上に大きな進化を遂げたモデルです。
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フェラーリF430は(驚くべきことに)発売されてから20年。F1と同じ考え方で開発され、F1由来の技術を搭載するなど360モデナ以上にエポックメイキングな存在である
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2009年:フェラーリ 458イタリア
それでもフェラーリの進化は留まるところを知らず、アルミを主体とした新開発モジュラーチャシーを採用した458イタリアはデザイン、パフォーマンスともに大躍進。
4.5リッターV8は自然吸気のまま570馬力に到達し、新たにF1デュアルクラッチトランスミッションを標準搭載し、さらに30%クイックになったステアリング比は俊敏性を飛躍的に高め、以降のフェラーリに大きな影響を与えています。
とにかくコーナリング時の「切れ味」、そして旋回性能が段違いに高まり、このクルマを運転すると「自分のドライビングスキルもアップした」と錯覚するほどであったスポーツカーとしても知られていますね。
そしてこの458イタリアは現在でも非常に高い人気を誇りますが、その理由は「最後の自然吸気V8エンジン搭載モデル」「最後のピニンファリーナデザイン」によるV8ミドシップモデルだから。
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フェラーリのデザインを一手に引き受けてきたピニンファリーナとは?そのはじまりと現在までの歴史
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2015年:フェラーリ 488GTB
エクステリアは458イタリアからの「正常進化的」デザインながら、大きなエアインテークが物語るようにツインターボV8を初採用。
排気量は3.9リッターへ縮小したものの、出力は670馬力、トルクは761Nmへと飛躍的に増加しています。
その結果、458イタリアより100馬力多いパワーを実現し、フェラーリV8の新時代を切り拓いたモデルとしても知られますが、V8ミドシップにおいては488GTBから車体デザインが「フェラーリ・スタイリング・センター(チェントロスティーレ)」へとバトンタッチされており、フェラーリのデザインが新時代へと向かう序曲となったクルマでもありますね(ピニンファリーナ時代に比較するとデザインを構成する要件が複雑化し、かつ立体化し、そして488GTBでは”ピニンファリーナがけして認めなかった”リアフェンダー上のダクトが出現している)。
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2019年:フェラーリ F8トリブート
F8トリブートは、488GTBのハードコア版、488ピスタに積まれた720馬力V8を搭載しつつ、デザイン面ではSダクトやF40(V8エンジンを搭載)を思わせるスリット入りリアスクリーンを採用。
488GTBをベースにしながらも、進化を重ねた完成形として登場しています。
なお、フェラーリはこのモデルを「V8フェラーリの集大成」として位置づけており(モデル名そのものが「フェラーリのV8シリーズへのトリビュート」である)、テールランプはV8ミドシップのルーツを連想させる「丸4灯」が採用されるなど、随所にV8ミドシップの「最終モデル」にふさわしいディティールが盛り込まれています。
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その後:フェラーリ 296 GTBへ
F8トリブートを最後にV8時代は幕を閉じましたが、2021年に登場した296GTBは3.0リッターV6ツインターボ+ハイブリッドで830馬力を発揮。
1975年の308 GTB(255馬力)と比べると、わずか半世紀で3倍以上の出力を実現しており、フェラーリの進化の速さを物語るかのようですね。
そしてミドシップフェラーリはその外観のみならず、「車体構造」「電子制御」「トランスミッション」「パワートレーン」すべてにおいて進化を遂げていることもわかります。
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参照:Ferrari