
| フェラーリは1980年代、すでに4WD技術を取り入れてラリーで戦うことを考えていたようだ |
そしてフェラーリにとっての「4WD(AWD)」技術のあり方も時代とともに変わってきている
フェラーリと四輪駆動というと(イメージ的に)馴染みがないようにも思えますが、直近のラインアップだとSF90ストラダーレ / SF90スパイダー、そしてプロサングエに加え「ハイパーカー」であるF80も4WDを採用しています。
そしてこの4WD=四輪駆動(AWD)はもともとオフロード車向けに開発された技術であり、スバルがまず乗用車に取り入れることで大きく普及に向けて動き出し(その際、スバルはオフロード車との混同を避けるため、4WDではなくAWDという呼称を用いている)、その後アウディが独自の4WD技術「クワトロ」を採用したことで高性能車においても大きな価値を持つようになっています(とくにモータースポーツにおいて勝利を量産したことにより、スポーツカーメーカーも4WDを無視できなくなった)。
フェラーリは2011年にはじめて4WDを取り入れる
そしてフェラーリが初めて量産車にAWDを採用したのは2011年の「FF」。
この時点での4WDは前後アクスルをプロペラシャフトにて(デフ等を介して)連結するという伝統的な構造を持っていましたが、ル・マン24時間レースを3度制した499Pや新型F80では「後輪をガソリンエンジン、前輪をエレクトリックモーターで駆動する」という電動フロントアクスルを導入することで”かつてないレベルのハンドリング性能”を実現しています。
408 4RMから始まった試み
なお、フェラーリは自社の四輪駆動技術において「独自の」呼び方を導入しておらず、「4WD」「AWD」両方の呼称を用いる例が見られ、しかし最近では「AWD」と記す例が多いもよう。
参考までに、フェラーリFFは「Ferrari Four(フェラーリ・フォー)」の略で、この「フォー」には、以下の2つの意味が込められています。
- 4人乗り(Four seats): フェラーリの伝統的な2シーターではなく、4人乗りのシートを備えていることを示している
- 4輪駆動(Four-wheel drive): フェラーリ史上初の4輪駆動モデルであることを表している
つまり、フェラーリFFは「4人乗りの4輪駆動フェラーリ」という意味を持っており、「4」という数字に一定のこだわりがあるのかもしれません(4WDという表現を排除しない)。※加えてフェラーリは伝統的に、車名に数字を取り入れることが多く、数字の表す意味を重要視しているのだと思われる
そしてフェラーリのAWD研究は1980年代まで遡ることができ、ここで製造された試作車「408 4RM」は328由来の4.0L V8を搭載し、29:71のトルク配分を可能にするセンターデフと油圧カップリングが採用されています。
しかし、当時の副会長ピエロ・フェラーリは1991年に「重量増はフェラーリの哲学に反する」として開発中止を指示しており、ここでAWD化は一度棚上げされることに。
Image:Ferrari
参考までにですが、ハイパフォーマンスカー市場にて4WDシステムが大きく普及するきかっけとなったのは1982-1986年に導入されていたグループB(WRCのトップカテゴリー)だと考えられ、ここではアウディ・クワトロ、プジョー205ターボ16、ランチア・デルタS4、フォード RS200といった4WD勢が猛威をふるっています(4WDでないと勝てない時代であった。唯一MRレイアウトにて気を吐いていたのがランチア・ラリー037)。
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そして当時、フェラーリはこのグループBへの参戦を目論んでおり、ここで開発されたのが288GTO(フェラーリでの記載は単に”GTO”)。
ただしこの288GTOは「後輪駆動」であり、実際にグループBに参戦しても優れた戦績を残せなかったであろうとも考えられ(グループBは1986年に消滅)、しかし408 4RMの完成が1987年であったことを考慮すると、フェラーリはグループB開催中にこのクルマを開発していたということになり、4WDでラリーを戦ってゆくという将来的な計画、そしてまずは288GTOを実戦投入した後、ゆくゆくは4WDを投入するという長期的な計画を持っていたのかもしれません。
FFとGTC4ルッソ:実用性と革新の融合
その後2011年に登場したFFは同社初の量産AWDモデルであり、フロントにコンパクトなトランスミッションを組み合わせた独自の「PTU(パワートランスファーユニット)」を採用し、これによって従来の4WDシステムの半分の重量に抑えたことが大きな特徴。
発表会は雪のドロミテ山脈で行われ、その圧倒的な雪上性能が披露されていますが、「4人乗り」ということを鑑みるに、この4WDシステムは「速く走るため」というよりは、フェラーリのスポーツモデルを保有するオーナー向けの「家族旅行に出かけるに際し、どのような条件であっても安全に目的地に到着し、帰宅できる」セカンドカー需要を考慮したものであると考えられます。
さらに2016年には後継のGTC4ルッソが登場し、搭載されるV12エンジンは690psにパワーアップ。
フェラーリらしいダイナミズムを保ちつつ、実用性も備えたモデルへと進化していますが、当時のオフィシャルサイトでは「ベビーカーを積むことができる」という記載、そして公式動画では家族旅行の様子が描かれているため、「ファミリー需要」を強く押し出し、フェラーリが新しいマーケットを獲得しようと試みたことがわかりますね。
SF90:ミドシップ初のAWD
2020年に発売されたSF90ストラダーレでは初めてミドシップレイアウトにAWDを導入し、4.0L V8ターボと3基のエレクトリックモーターを組み合わせて脅威の1,000psを発揮することに。
フロント2基のモーターによるトルクベクタリングで俊敏なターンインを実現し、フィオラノのラップタイムではラ・フェラーリを上回るなど、フェラーリのAWDシステムが「速く走るため」に活用されはじめたことを示唆しています。
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プロサングエ:SUV市場への挑戦
2022年に登場したプロサングエは、フェラーリ初の4ドアかつ高めの車高を持つモデル。
とはいえ「SUV」というよりはFFとGTC4ルッソの進化版ともいえる設計で、あくまで後輪駆動を主体にしながら必要に応じて前輪へ駆動力を配分するリアバイアスのAWDを採用しています(発表はスイスのスキーリゾート、サンモリッツで行われており、やはり富裕層向けのファミリーユースがそのコンセプトなのであろう)。
なお、4WDという表現には抵抗を示さないフェラーリではありますが、「SUV」という文字列には拒否反応を示しており、プロサングエでは発表前から「FUV(フェラーリ・ユーティリティ・ビークル)」といった呼称を用いるなどの対策を用いていたことが記憶に残り(おそらくはブランドイメージへの配慮)、ただしいくつかの公式コンテンツでは「SUV」と記載される例も見られ、よって今後はゆるやかに「SUV」という表現へとシフトしてゆくのかもしれません。
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F80と未来:電動AWDの極致
そして2024年に発表された「F80」はフェラーリ史上最強の1,200psを誇るスーパーカー。
フロントに2基のエレクトリックモーターを搭載し、合計281psを前輪に供給することになりますが、インバーターはさらに改良・軽量化され、高効率かつコンパクトな設計が採用されることでその重量はわずか9kgへ。
そしてこのF80にはル・マンを制した499Pと同様の電動AWD技術が投入されており、まさに「現時点でのフェラーリの集大成」ともいえるべき存在です。
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まとめ
こうやって見ると、フェラーリも時代とともに変化しており、4WDのありかたも多様化していることもわかりますが、これと同時に「4WDはもはや必要不可欠」な存在となったことも理解でき、ますますフェラーリのラインアップにおいて4WDの重要性が高まることとなりそうですね。
そしてフェラーリにとってAWDは単なる「雪道対策」ではなく、走行性能を極限まで高めるためのテクノロジーへと進化しており、408 4RMでの実験からFF、そしてF80やレーシングカーである499Pへと至る流れは、同社の「伝統と革新の融合」を体現しているといえるのかもしれません。
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参照:Ferrari