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V12?W12?ポルシェが特許公開した「真のW型」3バンクW12エンジンの革新性。ポルシェは12気筒で何をしようとしているのか

ポルシェ

| ポルシェがまさかの「3バンク」12気筒エンジンを開発中? |

はじめに:終わりと始まりの同時発生

2024年7月、ベントレーがそのグランドツアラーの象徴であるW12エンジンの生産に終止符を打ちましたが、20年にわたる輝かしい歴史に幕を下ろしたそのまさにその時、ベントレーと同じVWグループの技術的フラッグシップであるポルシェが「まったく新しいコンセプトのW12エンジン」の特許を公開。

これは単なる偶然なのか、それとも内燃機関技術の新たな幕開けを示すサインなのかという議論を集めるとともに、その技術に注目が集まっています。

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従来のW12エンジンとの決定的な違い

一般的なW12エンジン(ベントレーやアウディA8などで採用:下の画像)は、2つの狭角V型6気筒(VR6)エンジンを結合したような構造であるため、厳密には「VV型」とも形容されます。

しかし、今回ポルシェが特許出願したエンジンは、「3つの独立したシリンダーバンク」 が明確なW字を描く、これまでにないレイアウトを採用していることが特徴で、この「真のW型」設計は、エンジンルームの風景を一変させる可能性を秘めているものと思われます。

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ポルシェの新W12が目指した3つの技術的革新

そこで今夏出願された特許出願書を詳細に読み解くと、ポルシェがこの複雑な構造にこだわる理由が見えてきます。

  1. 摩擦損失の低減と熱効率向上
    内部の運動部品のレイアウトを最適化することで、機械的な摩擦損失を低減。これは、大排気量エンジンが常に課題とする熱効率と燃費性能の向上に直結する重要な改良点です。
  2. 究極のパッケージング性
    エンジン全体をよりコンパクトかつ平坦にレイアウトすることが可能となります。結果、車体の重心を低く設定でき、ハイパーカーにおける最重要項目の一つである「走行安定性」と「操縦性」に大きく貢献することに。
  3. 理想に近づけた吸入・排気効率
    最も特徴的なのがシリンダーヘッド上部を覆う「エアプレナム」。ここから吸気が「ほぼ直線的」 に各シリンダーへと流れ込みます。
    • メリット①:スロットル応答の改善 吸入経路が短くまっすぐなため、スロットル踏み込みから実際の燃焼までのレスポンス( throttle response)が格段に向上。
    • メリット②:吸入空気温度の低減 経路が短いほど、空気が熱くなりにくく、密度の高い冷たい空気を多くシリンダーに送り込めます。これは出力向上に直結。
    • メリット③:熱管理の最適化 高温の排気経路と吸気経路を物理的に分離できるため、お互いの悪影響を軽減できる。
Porsche

さらなる高みへ:3連ターボ過給の可能性

特許図面には、3つのシリンダーバンクにそれぞれ対応する形で3基のターボチャージャー を配置する構成が示唆されており、ベントレー・バトゥールに積まれた「740馬力の」W12をしのぐ可能性がこの3連ターボ構成によって見えてくるわけですね。

また、ターボの小型化により、低回転域からのトルキーな挙動そして、高回転域での雄大なパワーを両立させる「幅広いトルクバンド」の実現も夢ではなく、「新たな可能性」を持つのがこのW12エンジンといえるのかもしれません。

考察:このエンジンは何のために生まれるのか?

ただ、疑問として持ちがるのは「ポルシェはこのエンジンをもって何を行うのか」。

EV全盛の時代にこれほどまでに開発コストと(製造に際しての)工数がかかるエンジンが生まれる背景には、どのような戦略があるのか、ということですね。

  • ブガッティの新型ハイパーカーへ:W16エンジンを搭載したシロン/ヴェイロンの後継モデルとして、よりコンパクトで高回転・高効率なW12が採用される可能性(ポルシェは現時点でブガッティ・リマックの2番目の株主である。そしてブガッティ・リマックは様々な車種の展開を考えている)
  • ル・マン参戦を睨んだモータースポーツ規則:LMH/Hypercarクラなどのモータースポーツ規定では、エンジンの気筒数や排気量に制限がない場合もあり、このユニークなレイアウトが強みを発揮する可能性
  • 「技術のデモンストレーション」として:VWグループが、その技術力の頂点を世界に示す「広告塔」として、このエンジンを開発したとも考えられる(ただし現在のフォルクスワーゲン・グループが「実利」を伴わないエンジンを実際に投入するとは考えにくい)
ブガッティ
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まとめ:内燃機関は、まだ死なない

ポルシェのこの挑戦は、自動車の「電動化」が大前提となった今でも「熱効率」と「パッケージング」を極限まで追求した内燃機関にこそ、次の進化がある」ことを強烈に示唆しています。

ベントレーがひとつの時代を閉じたその瞬間、ポルシェは内燃機関の可能性に対する、まったく新しい答えの扉を開けたのかもしれません。

今回の遠きょ出願により、今後のポルシェ、そしてVWグループからの発表から、「ますます目が離せなくなった」という感じですね。

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参照:CARSCOOPS

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