
| ある程度の自由度はあるものの、「30度V6」や「120度V8」は見たことがない |
「V6エンジンなら60度、V8なら90度」――。
クルマ好きなら一度は耳にしたことがある「バンク角」という言葉。しかし、なぜメーカーはわざわざ特定の角度にこだわるのか?
適当な角度ではダメな理由がそこにあり、ここではエンジンの振動を抑え、滑らかな回転を実現するための「物理の法則」を考察してみます。
本記事の要約(この記事でわかること)
- V型エンジンの角度は、シリンダーが爆発する「点火間隔」で決まる
- 理想の角度から外れると、エンジンの振動が激しくなり故障の原因にもなる
- V6は60度、V8は90度が基本だが、あえて角度を変える「例外」の面白さも存在
エンジン振動と「バランス」の基本
内燃機関はシリンダー内での爆発によってピストンが往復運動し、それをクランクシャフトが回転運動に変えることで動力を生み出します。
この際、ピストンが激しく上下するため、どうしても「慣性力」による振動が発生することに。
1気筒だけでは大きな振動が出てしまいますが、複数のシリンダーを組み合わせ、適切なタイミングで爆発させることでお互いの振動を打ち消し合うのが「多気筒エンジンの仕組み」ということを理解していれば、バンク角についても理解が進みやすいかもしれません。
なぜ「バンク角」を自由に決められないのか?
V型エンジンにおいて、左右のシリンダー列(バンク)の間に設けられる角度を「バンク角」と呼びますが、この角度が重要な理由は、主に3つの力(燃焼エネルギー、クランクの回転慣性、ピストンの往復慣性)を調和させる必要があるからで、エンジンの設計では4サイクルエンジンの全行程である720度(クランク2回転)を気筒数で割った数値が等間隔点火の基本となり・・・。
- V8エンジンの場合: 720 ÷ 8 = 90度
- V6エンジンの場合: 720 ÷ 6 = 120度
この「点火間隔」と「バンク角」を一致させることが最も自然にバランスが取れる(振動が少ない)理想的な形となるわけですね。
主要なエンジン形式と理想の角度
そこで各エンジン形式における理想の角度や特徴をまとめると以下の通り。
| エンジン形式 | 理想のバンク角 | 特徴と補足 |
| V8 | 90度 | 4台のV型2気筒が繋がった構造。90度が最もバランスが良い。 |
| V6 | 60度/120度 | 理論上は120度だが、幅が広すぎるため「半分」の60度が主流。 |
| V10 | 72度 | 72割る10 = 72度。LFAなどが採用。90度は音を重視。 |
| V12 | 60度 | 直列6気筒(完全バランス)を2つ繋げた究極のスムーズさ。 |
| ボクサー(水平対向) | 180度 | V角180度の究極形。左右のピストンが打ち消し合い、最も低振動。 |
| 直列 | 0度 | V角0度の状態。気筒数により「バランスシャフト」が必要。 |
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V6エンジンの特殊な事情
V6エンジンの理想は120度ですが、これではエンジンルームに入りきらないほど幅広になってしまいます。
そのため多くの自動車メーカーは60度を採用しており、しかし片バンクが3気筒(奇数)になるため、どうしても細かな振動が発生しやすく、これを打ち消すために「バランスシャフト」という追加部品を搭載するのが一般的。
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参考までに、フェラーリ296GTB / GTSやF80に積まれるV6エンジン(F163 / F163F)はバンク角120度を持っており、これは主に「重心」を下げるためで、フェラーリは過去にも同じ目的にて「180度V12」を採用したことも。
そしてフェラーリはV6エンジンをコンパクトに収めるためにVバンクの内側にタービンを収めるという「ホットV」レイアウトを採用しており、この「幅広な180度」ユニットをエンジンルームに収めるための工夫を(ホットVのほかにも色々と)凝らしているわけですが、これはトッププライオリティが「運動性能」にあるからで、生産コストや居住性よりも走りを重視したためです。
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こういった「Vバンク」「ターボチャージャーのレイアウト」などを見てゆくと、そのクルマが「何を重視して設計されているのか」、そしてそのエンジンがどう使われること(ほかモデルとの共有など)を想定されて設計されているのかがわかるかと思いますが(クルマとエンジンとは常に一体である)、これもまた「自動車」の非常に奥深い一面でもありますね。
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あえて「例外」を選ぶ理由
エンジニアは常に理想を追求するものの、パッケージング(サイズ)やキャラクター(音)のために、あえて理想を外すことも。
- フォルクスワーゲン VR6エンジン(バンク角15度)直列エンジンのコンパクトさとV型のパワーを両立させるため、わずか15度という極狭角を採用。1つのシリンダーヘッドで済む独自の構造です(コンパクトカーに搭載するという前提。過給器が発達した今であれば誕生しなかったであろう)。
- ダッジ・バイパー V10エンジン(バンク角90度)V10の理想は720÷10=72度ですが、このエンジンはV8ベースのため90度を採用。結果として「不等間隔点火」となり、あの独特で荒々しいエキゾーストノートが生まれている(設計コストを抑えるためにこの設計が採用された)。
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結論
上述の通り、V型エンジンの角度は単なる「伝統」ではなく、「スムーズな回転」と「物理的な制約」の妥協点から導き出された黄金比。
90度のV8が奏でる咆哮や60度のV6が見せる滑らかさ。
次にボンネットを開けたとき、あるいはエンジンの始動音を聞いたとき、その「角度」に隠されたエンジニアの苦労と情熱、そのクルマのコンセプトや設計された時代背景、環境に思いを馳せてみるのもいいかもしれません。
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関連情報性
エンジンが発生させる「振動」「慣性」はエンジンのバンク角だけで全て解決できるわけではなく、エンジンと車体を繋ぐ「エンジンマウント」というゴムや液体の封入されたパーツが”最後の砦”として微細な振動を吸収しています。
最近の高級車では、エンジンの振動に合わせて逆位相の振動を発生させる「アクティブエンジンマウント」も採用されており、角度という物理的制約をテクノロジーで補完する時代へと突入しているのも特筆すべき点(ちょっと前だと、フラットプレーンクランクV8を高級車に積むということは想像すらできなかったが、メルセデス・ベンツは新型Sクラスでそれを実現されている)。
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しかしこのエンジンマウントは「振動を吸収する代わりに」エンジンのダイレクトな反応を奪ってしまうこともあり、逆に「スポーツ走行時にはエンジンマウントを固めてソリッドにしてしまう」タイプのアクティブエンジンマウントも存在します。
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つまるところ、様々なテクノロジーの進歩によってそのエンジンの持つデメリットを帳消しにしてメリットを最大化することが可能となっており、「ターボ」「エレクトリック」技術、エンジン含むパワートレーン、さらにはパッケージングひいては小さなパーツや電子制御等の発展によって「ユニットのみではなく」車体前部をひっくるめて設計することの重要性が増しており(EVでいう”ソフトウエア定義車両”に近く、ガソリン車だと”コンセプト定義車両”とでもいうべきなのかもしれない)、クルマの設計現場そのものも大きな変化の波に飲まれようとしているのかもしれません。
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