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V12エンジンはなぜ「究極」なのか?その魅力とデメリット、V10とは異なり絶滅を免れた事情とは

V12エンジンはなぜ「究極」なのか?その魅力とデメリット、V10とは異なり絶滅を免れた事情とは

| V12エンジンはやはり「自動車の歴史」における一つの象徴でもある |

この記事のポイント(要約)

  • 完璧なバランス:直列6気筒を2つ組み合わせた構造により、理論上「振動ゼロ」の滑らかさを実現
  • 感情に訴える体験:単なる動力源ではなく、サウンド、レスポンス、ステータスすべてが別格
  • 2030年以降も存続へ:フェラーリやアストンマーティンが「V12継続」を宣言。ハイブリッドやe-fuelが救世主に
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エンツォ・フェラーリが愛した「V12」という名の宗教

「フェラーリを買うということは、エンジンを買うということだ。残りの車体はおまけに過ぎない」――創設者エンツォ・フェラーリのこの言葉は、今も色褪せていません。

フェラーリが最新モデルに「12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ=12気筒)」という名前を付けたことからも分かる通り、V12エンジンは自動車界において「神」に近い存在として君臨し続けているのが事実であり、なぜこれほどまでに人々を惹きつけるのか、その理由を技術面と感情面から考えてみたいと思います。

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詳細:V12エンジンのメリット

V12が「究極」とされる理由は、単にパワーがあるからだけではありません。

1. 究極の滑らかさと「完璧なバランス」

V12エンジンは、理論上、一次振動も二次振動も発生しない「完全バランス」を備えています。

  • 60度の魔法:バンク角を60度に設定することで、クランクシャフトが60度回転するたびに爆発が発生。途切れることのないパワーデリバリーが、シルクのような滑らかさを発生させる
  • バランスシャフト不要:V10やV8では振動を抑えるための重り(バランスシャフト)が必要ではあるもののV12には不要。その分、鋭いレスポンスが可能になる
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2. 高回転化と圧倒的なパワー

1気筒あたりの排気量を小さく抑えられるため、ピストンなどの可動パーツを軽くできます。

  • 高回転の咆哮:ゴードン・マレーの「T.50」のように、10,000回転を超える超高回転域まで一気に回る官能的な特性は、多気筒ならではの特権である
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注意点:V12エンジンのデメリット

しかし、最高の体験には相応の代償が伴います。

フェラーリが「V12エンジン」についての情熱を語る。V12エンジンはメリットが多く、しかしその代償はコストではあるが、フェラーリはコストを気にしない
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1. 巨大なサイズと重量

12個のシリンダーを並べるため、エンジン本体が非常に長くなります。

  • パッケージングの難しさ:フェラーリ・プロサングエのように、巨大なエンジンをフロントアクスルより後ろに押し込むなど、理想的な重量配分(49:51など)を実現するには高度な設計技術が必要です。
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2. 驚愕の維持コストと複雑さ

部品点数が多いため、製造コストはもちろん、メンテナンス費用も跳ね上がります。

  • 「12本」のスパークプラグ:単純な点検でも、V6や直4の数倍の部品代と工賃がかかります。また、最新の排ガス規制を通すための複雑な触媒システムも、さらなるコスト増を招いています。
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V12は絶滅するのか?

現在V12エンジンを採用する自動車メーカーは非常に少なく、(少量生産メーカーを除くと)フェラーリを筆頭にランボルギーニ、メルセデス・ベンツ、アストンマーティン、そしてロールス・ロイスくらい。

上述のように「採算に乗りにくい」こと、環境規制への適合が難しいことから多くの自動車メーカーがV12エンジンの廃止に踏み切っており、この流れを見るに心配になるのが「V12エンジンに未来はあるのか」。

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ただ、結論から言えば「V12は生き残る」ことは間違いなく、その大きな理由の一つは欧州連合(EU)が「2035年のエンジン車禁止」を事実上撤回し、合成燃料(e-fuel)などを使用することを条件にエンジン車の存続を認めたこと。

そしてV12エンジンは現在「その自動車メーカーの姿勢を表す手段」としても機能しており、単なる「パワーユニット」の域を完全に超えており、これを維持するかどうかによってそのメーカーのスタンスが示されるまでの”象徴”となっています。

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結論:V12は「効率」ではなく「ロマン」の象徴

実際のところ、4気筒ターボやEVの方が数値上の効率は良いかもしれません。

しかし、V12が奏でるシンフォニーや、右足に吸い付くようなリニアな加速感は、他の何物にも代えがたいものであり、今後もV12エンジンは富裕層向けの「走る芸術品」として、これまで以上に希少で価値のある存在へと昇華してゆくこととなりそうですね。

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参考:なぜV10は廃れたのか?

V12が「完璧」である一方、かつてF1で主流だったV10(10気筒)は、市販車では姿を消しつつあります。

その主な理由は「V10は構造上、バランスシャフトなしでは不快な振動が出てしまうから」で、複雑にしてでも完璧なV12を作るか、効率を求めてV8にするか」――その二択の結果、V12は「最高の贅沢」として生き残ったというわけですね。

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